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悪いムシじゃないよ。嫌わないで。

今回、紹介するのは10年以上前の大分県の農林水産部の広報誌にあった「寄生虫の味」という記事です。別の調べ物をしているときに偶然見つけて、面白かったので取り上げることにしました。タイトルの通り、魚の寄生虫を著者の福田穣氏が食べるというものです。最近、コオロギ食というものが話題になりましたが、決して新たなタンパク源を求めるという話ではありません。寄生虫との付き合い方を考えさせられる記事になっています。

意外と身近な寄生虫

売られている魚に寄生虫はいるのか?」と聞かれれば、「いる」という答えになります。ただ、そのほとんどが体表やエラに付着していたり、内臓に寄生していたりで、調理の過程で取り除いてしまうことがほとんどです。また、寄生虫の多くがとても小さかったり、半透明であったりすることから、知識がないと寄生していても気づかないと思います。しかし、ときどき大きな寄生虫が口の中や筋肉中に寄生していることもあり、この時ばかりはみんな気づきます。すると、気味の悪さから安全性などに疑問を持ってクレームを入れることにつながるようです。福田氏も「寄生虫を間違えて食べてしまったが問題ないのか?」という電話が、寄生虫を食べるきっかけになったそうです。

本題に入る前に、私がこれまで見つけたクレームの対象になっている寄生虫を少し紹介します。
魚の体表に生えている太い毛のような寄生虫で、ヒジキムシという名前です。甲殻類の1種です(もっとも近いのはケンミジンコ)が、寄生に特化するために体にある触角や脚などを変形させてしまっています。この毛が寄生虫であることを知らなければ、異物がついているようにしか見えないので、クレームの原因になるそうです。魚と一緒に食べることはないと思いますが、食べても問題ないはずです。

クラカケトラギスの頭についていたヒジキムシです。表紙の写真はこの魚のお腹の写真です。この魚はヒジキムシだらけでした。

カツオコショウダイの刺身を作っているときに発見したのが、ディディモゾイゾ吸虫です。寄生されている魚を食べても問題ありませんが、寄生されているところは食べない方が良いです。

スーパーで購入したカツオのたたきからでてきたディディモゾイドです。天然の魚を使用している証拠ですが、びっくりしますよね。
コショウダイの筋肉中に寄生していました。とても美味しい魚なのですが、かなりの高頻度で寄生されているので注意する必要があります。

サケのムニエルから出てきたアニサキスです。アニサキスは本来クジラやイルカの寄生虫で、サバやイカがクジラやイルカに食べられるまでは、サバやイカの筋肉中で殻をかぶって休眠しています。加熱調理されているのであれば、一緒に食べてしまっても問題ありませんが、生食の場合は休眠しているアニサキスを一緒に食べてしまうことになります。この場合は、食中毒の原因となるので気をつけなければなりません。

タイノエはマダイの口の中にいる寄生虫です。形からなんとなくわかると思いますが、ダンゴムシの仲間です。サヨリやカイワリなどの他の海産魚にも寄生しています。ただ、こちらは“タイの福玉”ともよばれており、必ずしも悪者とは思われていないようです。

この写真はTwitterにもあげているのですが、少しセンシティブだといわれました。大丈夫ですか?

本当に食べるの?

最近、世間を賑わせたコオロギ食ですが、日本および世界各地でタンパク源として昆虫を食べる文化はあります。しかし、寄生虫をタンパク源として食べる話は“ほとんど”聞きません。まあ、寄生虫は魚や鳥に寄生しているのですから、タンパク質が必要なのであれば、寄生虫を食べずに宿主の動物を食べれば良いです。ただ、寄生虫を食べる話はないわけではありません。イタリアには、「マカロニ・ディ・マーレ(Maccheroni di mare)(海のマカロニ)」という料理があるのですが、魚のお腹の中に寄生しているリグラ条虫の幼生が原材料だそうです。条虫というのはサナダムシのことですから、なんとなくパスタっぽいかな?と思わないでもないですが。

ため池で溺死したハツカネズミの腸管から発見した条虫です。麺っぽいのはわかりますか?

ちなみに、福田氏は先述したアニサキスタイノエに加えて、天然ブリの筋肉から時々見つかるフィロメトロイデス・セリオレ(Philometroides seriolae) という線虫の1種を食べています。このブリの線虫は天然物である証拠ですが、筋肉中からとても長い線虫がでてくることは心象を悪くしています。ちなみに、とても味は悪く、ポン酢を用いても味をよくすることができなかったそうですアニサキスは噛み潰すと塩味の体液が流れ出してきたとのことですが、食中毒を起こす危険性があるため真似はできません。この記事も、専門書に書かれている「xxxすれば食べてしまっても問題ない」という内容を確認することを目的としています。線虫はあまり美味しくなかったようですが、タイノエ(唐揚げにしてます)はシャコのようで美味しかったとのことです。まあ、シャコもタイノエも同じ節足動物ですので理解はできます。

条虫の幼生はこんな感じです。マカロニというのであれば、こちらの形の方が近いのかもしれません。

さいごに

3月の終わり頃からTwitterでこれまで採集してきた寄生虫の写真を毎日あげているのですが、ディディモゾイド吸虫の写真をあげたときに「自然界に住まう生き物を突然人間の食卓に連行するわけですから、こういうこと(魚の切り身に寄生虫がいる)は当たり前のことだと思う」とコメントを頂きました。このコメントを聞いて私が思い出したのは、学生時代に「東京の小学生に川で泳ぐサケの絵を描かせたら、切り身を描いた」という話です。これは、にわかに信じられない話ですが、「自然を知らない子ども」が増えてきたことを言いたかったのだと思います。ある魚屋さんによると「寄生虫がいる魚は品質の悪い魚。寄生虫のいない天然魚を出せ」という方もいるようです。魚から寄生虫が出てくることに理解を示さないことも「自然を知らない」ことになるのではないでしょうか。

【参考文献】

福田穣. (2010). 寄生虫の味 おおいたアクア・ニュース, 31.


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