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贅沢は素敵だ

2週間ほど前になんか有名な方が「研究者は科研費で贅沢をしている」と発言したようで、いろんな分野の研究者が「科研費で贅沢なんかできるかボケェ」と盛り上がっていました。私も知り合いの研究者(主に大学の教員)から、お金に関する苦労話をよく聞いていたので、科研費で贅沢をしているというのは、ありえない話です。そんなありえない話をした方は、科研費のことを知らないのではないでしょうか?

そもそも科研費って?

研究をするには、高価な実験機材や遠方への調査など費用がかかり、所属機関の経費や自費で賄うことは難しいです。企業であれば製品開発などのために費用が出されるのかもしれませんが、費用がでる研究は製品開発に関連するテーマに限られてしまいます。そのため、利益の見込めない(応用のきかない)基礎科学の研究にお金を出してくれる企業は少なく、独立行政法人となった大学では昭和の時代ほど研究費はでなくなったようです。そこで、研究費を賄うためにいろんな助成金を申請します。科研費はそのなかの1つで、科学研究費助成事業が正式な名称で、研究の審査や交付は文部科学省の外郭団体である独立行政法人日本学術振興会が行っています。人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする研究費です。

どれくらもらえるの?

費用や期間は研究内容によりますが、数年にわたり億単位をもらえるものから、1年間で数十万円程度のものまで様々です。申請するのは、大学だけではなく、大学院生やポストドクターの方が、個人の研究を進めるために申請するものもあります。また、若手研究者の支援や1年間限定の在野の研究のサポートも行われています。
私は知人の研究員(現在は准教授)に勧められて、奨励研究というカテゴリーの研究費を申請しました。これは、教育・研究機関の教職員等であって、他の科学研究費助成事業の応募資格を持たない者が一人で行う教育的・社会的意義を有する研究を助成し、奨励することを目的とするものです。言い方を変えたら、「大学にいなくても(高校の先生でも)申請できる科研費だよ!」ということなのですが、私に交付された年に学校の教員で交付されていたのは2,3人でした(他は、警察の鑑識や博物館の学芸員の方でした)。

私の科研費の用途のほとんどが調査費(旅費)でした。

どうやったらもらえるの?

日本学術研究会のWebサイトに応募書類のファイルがあるので、それをもとに研究の意義や計画、必要経費などを記入して送り、審査を受けて交付が決定することになります。研究の規模によって申請の仕方は異なりますが、まあ大変です。
何が大変かと言うと、奨励研究の場合、自分の研究の意義計画予想される結果社会への貢献などをA4用紙2枚(図を含めて)で説明しなければならないからです。はっきりいって、A4用紙2枚なんかにまとまるわけがありません。内容を削るのですが、必要なことを消してしまったり、事務的な内容になって面白味がなくなったりと、何度も書き直しました。私に科研費申請を勧めてきた研究員の方は、かなり丁寧に添削してくれましたが、今思うと、その方自身も仕事をしながら、同じ時期に申請をしていたはずなので、頭が上がりません。

自由にお金は使えるの?

お金の使い方については、研究の規模によって異なるので、分かりません。ただ、聞くところによると、大学では事務が厳正に管理しており、購入した物と領収書を照らし合わせたりしているようです。私の場合は、個人で管理していたのですが、日本学術研究会から「交付の前に新たに銀行口座を開設すること領収書は5年間保存すること助成期間が終わったら口座を閉鎖すること」を指示されました。また、この時の通帳や領収書のコピーも提出を求められ、翌年不明瞭なところをしっかりと説明させられました。民間企業の助成金を受けていたときは、領収書のコピーを送れば何も言われなかったので、やはり税金を使うとなるとここまで厳しくなるのかと思いました。
時折、「科研費で購入したPCを私物にしている」や「旅費と偽って遊びに行っている」という話を聞くのですが、これはあり得ないと思います。まず、科研費で購入した10万円以上のものは所属機関の所有物になります。現在の物価で、研究に対応できるPCは軽く10万円を越えるはずなので、そのPCを自宅に持ち帰ることがあっても、最終的には所属機関に渡すことになるはずです。また、旅費も細かく申告しなければなりません。私も瀬戸内海の島で調査するにあたってどうしても自動車が必要だったのですが、自家用車ではなくレンタカーを利用するように指示されました。ちなみに、どうしても自家用車が必要な場合はメーターの写真をとるなど、研究のみの使用であることを証明しなければいけないらしいです。

研究の成果といえば論文です。この論文の謝辞もしくはFoundingに科研費について書きます。

個人的な話

科研費の申請が通ったときは、たいした額(規模)ではなかったものの嬉しかったです。その一方で、お金の使用に制約があることも聞いていたので、どれくらいのことができるのか不安に思っていました。しかも、私が科研費をもらった年は、新型コロナウイルスの流行が始まった年でした。そのため、交付は2ヶ月遅れ、緊急事態宣言が明けた6月まで何もできませんでした。しかも、6月も仕事の方が忙しく、研究を始められたのは8月に入ってからでした。しかし、従来通り2021年3月までしか科研費は使えません(余ったお金は返金しなければなりません)。
当初の計画通りに研究を進めていけばお金が余ってしまいます。そこで、1回の調査を豪華にすることにしました。予定よりも遠くに行ったり、購入する魚の種類や数を増やしました。そのおかげで、当初の予定よりも多くの寄生虫を得ることができ、現在論文化が追いついていない状態です。最終的には調子に乗りすぎて年間予算を10万円くらいオーバーしてしまったのですが(オーバー分は自腹)、研究のために使えるお金が別にあると思うと、思い切ったことが色々できました。
科研費の財源は税金なので、不正をされては困ります。しかし、金銭的な余裕がないとなかなか思い切ったことができないのも確かです。経済的に厳しい現在において何にでもお金を回すことは難しいかもしれませんが、用途に関してあれこれ言われたくないものです。

この顕微鏡の購入には科研費は使っていませんが、科研費が入ったおかげで、思い切って購入する気になりました。


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