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自由研究のアドバイス

先日、自由研究の昔話をされたので、少し思うことを少しお話しします。自由研究は夏休みの宿題でもなかなか曲者です。私も経験がありますが、最初は親はアドバイス程度なのですが、精度の低さと夏休みの残りの時間に痺れを切らした親の介入により、受賞してしまうこともあるようです。相談してきた人がやっていた自由研究を、偶然にも以前に生徒としたことがあるので写真付きで、その人にしたアドバスを紹介します。

事前調査と比較

昔話をした人が小学生のころに行った自由研究は、DNAの抽出実験だったそうです。ネットにあるDNA抽出の手順に従って行ってDNAは抽出できたものの、「白い塊が出てきた」で終わったらしく、結局自由研究として提出しなかったようです。まあ、言われた通りに作業をして、よくわからない塊がでてきただけでは、やりがいもなかったと思います。難しいことですが、自由研究のクオリティーを高める一番重要な方法は、“事前調査”を行うことです。DNA抽出であれば、「DNAって何?」「なぜブロッコリーを使うの?」「エタノールの役割は?」を調べれば、材料を変更したり結果を比較することで研究の深みがでてくるかと思います。

単にDNAを取り出すだけであれば、サンプルは多ければ多い方がよいです。しかし、比較する場合は重さや体積を同じにする必要があります。

DNA抽出の方法

DNA抽出実験は大変有名な実験で、自宅にあるものでできます。ネットで調べても詳細に方法が書かれており、先述した材料や手法の理由まで書かれているものもあります。ここでは、簡単にDNAの抽出法を紹介します。ちなみに、DNAとは我々の体の設計図であり、細胞の中に含まれている核酸と呼ばれる物質です。細胞は、細胞膜と呼ばれる膜で覆われており、DNAはさらに核膜と呼ばれる膜で覆われています。

ブロッコリーの花蕾(つぶつぶ)をきりとり、乳鉢などで潰します。これは、ブロッコリーの花蕾は細胞が集まった塊ですので、これを物理的にバラバラにするのが目的です。(上写真)

潰したものに洗剤を加えます。なるべく早くした方が良いですが、困ったときは冷蔵庫に入れて冷やしてください。大学入試問題でも、実験中に試料を冷やす理由を聞かれるほど有名な作業です。冷やすと酵素の働きが低下するので、細胞内に含まれている各種分解酵素が働かなくなります。

このすりつぶしたブロッコリーに洗剤を加えます。これは、洗剤の中にある界面活性剤という物質が細胞膜や核膜を化学的に分解するためです。言い方を変えると、細胞膜や核膜は“リン脂質”と呼ばれる物質でできています。このリン脂質は、いわば脂質、油です。油と洗剤の関係を考えれば、ここで洗剤を使う理由はわかると思います。

写真を撮ったときは、花蕾と茎の部分で違いがないか調べていました。左が花蕾と右が茎です。

次に、洗剤を加えてさらにつぶしたブロッコリー液を茶漉しなどでこします。この時、5.6%(1.4mol/L)くらいの食塩水にブロッコリー液をこしていきます。DNAは細長い紐状の物質です。そのまま、小さい細胞の中に押し込むとからまってしまうので、タンパク質に巻き付けて細胞の中に収容しています。有線のイヤホンが絡まらないように、再生機器に巻き付けるのと似ています。食塩水に入れると、DNAとタンパク質が離れやすくなります。

塩水を加えている様子。大学などでは、さすがに食塩水ではなく専用のタンパク質除去剤を使います。

最後に、エタノールに入れます。これは、DNAがアルコール類に溶けにくいという性質があるためです。これらの一連の方法は、大学などの研究機関で行われているDNA抽出と基本は同じです。使う器具や薬品が異なっているだけです。

白い綿状のものがDNA。エタノールの代替品ですが、さすがにありません。私はDNA抽出の精度を上げる場合は、イソプロパノールを使用します。また、エタノール以外のアルコールとしてメタノールがありますが、どちらも家庭で購入することは無理だと思います。

会話は大事

先述のDNA抽出の理屈を、昔話をした人に話をしてきたところ、「カリフラワーではだめなの?」「牛乳石鹸は?」「食塩水の濃度を変えたらどうなるの?」など聞いてきました。それを確かめたら自由研究になります。具体的に言いますと、(仮説)カリフラワーでもブロッコリーと同じだけDNAが取れる→(実証)同じ重さの花蕾でDNA抽出→(結果)同じ量が取れた→(考察)ブロッコリーとカリフラワーの植物の違いを調べる、となります。話をしていると次から次へと自由研究の題材がでてきました。小中学校の自由研究で何を求めているかわかりませんが、「仮説」「実証」「考察」というのは研究の流れです。

題材はどこにでも

自由研究といえば、「DNA抽出」や「銀鏡反応」など有名な実験があります。ただ、それらの実験はいずれも仮説を実証するための“手法”にしかすぎません。確かに、大学でも予算や設備などのハード面がなければできないことも多いですが、題材はお金も設備も必要ありません。ちょっとしたことで題材は見つかると思います。例えば、近所の公園の植物のリストを作ってみる、近くのスーパーで売られている魚を解剖してみるなどです。誰も気にしなかったことに気付けるかもしれません。また、有名な実験の手順をしっかりと調べることで、仮説として別の手法を試してみるのもよいかもしれません。個人的には、料理も立派な化学反応の成果なので、レシピの意味を考えて、別手法を試みるのもよいのでは?と思うのですが、“調理実験”の失敗作品の責任を考えるとお薦めできません。

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