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魚のヒゲ?ヒジキムシ

節足動物門甲殻亜綱と言われてもよくわかないという人も、エビやカニが属している動物のグループだと言えばイメージがつくのではないでしょうか?この節足動物門甲殻亜綱、いわゆる甲殻類はとても多様です。エビやカニ以外では、ダンゴムシフジツボカメノテなども甲殻類です。ダンゴムシはまだエビやカニとの共通点をあげられるかもしれませんが、フジツボって貝じゃないの?と思う方もいるのではないでしょうか?環境に合わせて体を変えてきた甲殻類ですが、寄生性の甲殻類の姿はさらに変わっています

カメノテです。海水がかかるとクシのような脚をだして、海水中のプランクトンを捕まえて食べます。

甲殻類の体

甲殻類の基本的な体のしくみは、“頭部、胸部、腹部に分かれている”“体節と呼ばれる節に分かれている”“体節ごとに1対の付属肢がある”です。この付属肢は、触角や顎やはさみや歩くときに使う歩脚など体から出ているものは全てを指します。エビのお腹にある小さいひだも遊泳肢とよばれる付属肢です。
もう一つの甲殻類の特徴としては、変態をすることがあげられます。海産の甲殻類はノープリウス、ゾエア、メガロパ、成体へと変態するのが基本な流れとなっています。ノープリウスやゾエアは、非常に小さく、プランクトンとして生活しています。脱皮と変態を繰り返してエビやカニのような姿になるのですが、幼生のころはケンミジンコやクモのような姿をしているので、いかに変化するかわかってもらえると思います。

兵庫県のある川で採集したテナガエビです。

多様性のかたまり

甲殻類を含む節足動物は、動物のなかで最大かつ多様性の最も高い動物のグループです。現生種は全動物種の85%以上を占めています。陸・海・空・土中・寄生などあらゆる場所に進出し、様々な生態系と深く関わっていることから、地球上でもっとも繁栄している動物といっても良いかもしれません。昔NHK(だったはず)の番組で、節足動物の繁栄している理由を「私たち人類は道具を作って環境に合わせた。節足動物は環境に体を合わせた。」となかなかいいまとめ方をしていました。みなさんが知っている甲殻類も形が多様で、先述した甲殻類の体のしくみに当てはまらないものも多いです。これを環境にあわせて進化した結果とするのは、面白い説明だと思います。海や川や陸上でも多様に体を変化させてきた甲殻類です。他の動物の体内外で生活するとなれば、その変化の具合はより大きなものになります。ここでは、私が寄生虫(主にエラに寄生する単生類)を見つけるために、購入した魚についているある寄生性の甲殻類を紹介しようと思います。

このタイノエも寄生性甲殻類の1種です。ダンゴムシと同じ等脚類というグループに属しています。なんとなく似ていますよね?

名前はヒジキムシ

市場などで未調理の魚を購入すると時折、毛のようなものが生えています。この毛のようなものは、カイアシ亜綱ヒジキムシ科(Pennellidae)に属する寄生性の甲殻類です。カイアシ亜綱の動物は、ケンミジンコなど小さいエビのようなプランクトンの仲間が多くいます。先述したように、甲殻類は生息する環境に合わせて体の構造を変えています。ヒジキムシは、頭部を宿主魚類の体内に差し込み、腹部を宿主の外側にだしています。また、頭部は宿主の体から取れないようにするため、頭部の付属肢を植物の根のように広げています。

クラカケトラギス(表紙の魚)のお腹に寄生していたヒジキムシです。見えているのは腹部で、頭部は宿主の体の中にあります。
ペンネラ(ヒジキムシ)とカイアシ類との体の比較。姿は全く異なるものの、付属肢は同じものを持っています。

寄生性甲殻類を専門としている長澤博士と上野博士によると、日本産魚類から記録されたヒジキムシ科カイアシ類は14属45種に加え、種類がわかっていないものが9種いるとのことです(2014年当時)。これまで、私が各地の漁港で購入した魚でヒジキムシがいたのは、今治漁港で購入したクラカケトラギスと和歌山県有田市の箕島漁港の直売所で購入したオオモンハタでした。クラカケトラギスには、Lernaeenicus ramosusというイカリムシモドキ属のヒジキムシがいるようです(Nagasawa et al. 2022)。また、ハタ科魚類にもイカリムシモドキ属のヒジキムシが寄生している記録がありますが、オオモンハタに寄生していたヒジキムシの詳しい情報が見つけられなかったため、種類はわかりません。

オオモンハタに寄生していたヒジキムシ

研究テーマは?

このヒジキムシを研究する理由は何があるのでしょうか?寄生虫を研究する一番の理由は、病気の原因として正体を明らかにする、治療や予防法を見つけることです。ヒジキムシが宿主魚類に害を与えることはありませんが、よく私たちが口にする魚に寄生して、黒い毛のようなものをつけてしまうことから、見た目が問題になることがあるそうです。しかし、ヒジキムシの種類がちゃんとわかれば、この目立つ体を指標(目印)にして、その魚の出身地を割り出すことも可能になると考えられています。
ところが、寄生虫によくあることですが、寄生すると体の余計な器官(運動器官など)を無くして、とても単純な形になります。ヒジキムシも例外でないため、種類を特定するにも専門の知識と技術が必要になります。また、このヒジキムシは一生の間に宿主を変えたり鯨類やマカジキ類などの外洋でも生息する魚類を宿主としています。そのため、どのような種類のヒジキムシが地球上にいるのか?どのような一生を送っているのか?などそもそも基本的なことがわかっていません。
とはいっても、いろんな研究がなされています。紹介したいところなのですが、年度はじめの業務と自分の論文で資料を集めて読む時間がとれませんでした。今日のところは、こんな生き物がいるということでおしまいです。

【参考文献】

Nagasawa, K., Suzuki, K., & Muto, F. (2022). Grub fish Parapercis sexfasciata (Temminck & Schlegel, 1843)(Perciformes: Pinguipedidae), the second non-serranid host record for a marine fish parasite Lernaeenicus ramosus Kirtisinghe, 1956 (Copepoda: Pennellidae). Crustacean Research, 51, 147-152.
長澤和也, & 上野大輔. (2014). 日本産魚類・鯨類に寄生するヒジキムシ科 (新称) Pennellidae カイアシ類の目録 (1916-2014 年).


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