トリガー条項は"天下の愚策"

■トリガー条項に対する自民党政権の見解

元々、自民党は、福田康夫内閣の時に「特例税率の10年延長」を主張していた立場である。
ガソリン価格の乱高下による買い控え・需要超過・流通市場の混乱・大幅な税収減による国や地方への財政の多大な影響を懸念していたからである。

地獄の民主党政権が提出したトリガー条項を含んだ法律案(閣法174-14)にも反対した。



時は流れ、安倍内閣となった2014年10月2日の参議院本会議にて、トリガー条項の停止の解除について、安倍総理は、
「発動された場合、ガソリンの買い控えやその反動による流通の混乱が懸念される等の問題がある事から、その凍結解除は適当でない。」と答弁。

※1:18:37~1:19:31あたり。


2018年10月29日の衆議院本会議でも、
「発動した場合のガソリンの買い控えや、その反動による流通の混乱や、国、地方の財政への多大な影響等の問題があることから、その凍結解除は適当でない。」と答弁。

※3:26:32~3:26:55あたり。


岸田内閣になっても安倍内閣を踏襲。

2021年10月12日の所信表明演説に対する代表質問にて、岸田総理は、
「発動された場合、ガソリンの買い控えや、その反動による流通の混乱、国、地方の財政への多大な影響等の問題があることから、その凍結解除は適当ではない」と答弁。

※2:33:36~2:33:58あたり。



■石油統計年報の統計データから見た考察

経済産業省には「石油統計年報」という統計がある。
その中に「石油製品国内向け月別販売」というデータがある。


その統計にある、2007年と2008年のデータを比較すると非常によくわかる。
ガソリンの販売量と前年同月比・前月比を見てみる。

2007年3月……5167689[kl]
2007年4月……4917756[kl]
 (前月比……-4.84%)
2007年5月……4891327[kl]
 (前月比……-0.54%)

2008年3月……4443219[kl]
 (前月比……-2.18% / 前年同月比……-14.02%)
2008年4月……5766944[kl] (特例税率の失効)
 (前月比……+29.79% / 前年同月比……+17.27%)
2008年5月……4615302[kl] (特例税率の復活)
 (前月比……-19.97% / 前年同月比……-5.64%)

・2008年3月は、2007年3月より14.02%減少。(買い控え)
・2008年4月は、2007年4月より17.27%増加。(反動による需要超過)
・2008年4月は、2008年3月より29.79%増加。(反動による需要超過)
・2008年5月は、2008年4月より19.97%減少。(価格高騰と需要減)

実際に、「買い控え」(小売業者側・消費者側)や「反動による需要超過」(消費者側)は起きた。
これが現実である。


■トリガー条項の発動は過去に一度もない。しかし……

過去に、トリガー条項が発動された事は一度もない。
だが、特例税率が失効(減税)・復活(再増税)した2008年4月前後に、同等の現象は実際に起きている。

従って、トリガー条項を発動(時限的免税)・解除(免税解除)をすれば、あの時と全く同じ現象が起こる事は容易に想像できる。


トリガー条項を発動すれば、税額が切り替わる前後でガソリンスタンド周辺は激混みし、流通は混乱するだろう。

1:平均小売価格が上がり、3ヶ月連続で約161円が続く見込みとなる。
 ↓
2:財務大臣が告示する。
 ↓
 ↓ 「買い控え」「必要最小限度の購入に留める」。
 ↓
3:告示の翌月1日にトリガー条項が発動され、約136円に値下がる。
 ↓
 ↓ 「駆け込み需要」による需要超過が起こる。(発動直後)
 ↓
4:その後、平均小売価格が下がり、3ヶ月連続で約129円が続く見込みとなる。
 ↓
5:財務大臣が告示する。
 ↓
 ↓ ※「駆け込み需要」による需要超過が起こる。(解除前)
 ↓
6:告示の翌月1日にトリガー条項が発動解除され、約154円に戻る。
 ↓
7:その後、平均小売価格が上がっていく。
 ↓
1に戻る。


上記のような流れが、2008年4月に実際に起きたのは紛れもない事実である。

免税され、需要超過になれば、
・朝昼晩関係なく満タン給油するドライバーが激増。
・ガソリンスタンド周辺は長蛇の列の大渋滞。
・製品の在庫切れもあり得る。
・流通は混乱。
・緊急車両は通れない。

などといった多大な影響が出る事は明らかである。


■トリガー条項は、地獄の民主党政権による"天下の愚策"

トリガー条項について、世間では免税ばかりが注目されているが、再増税するのもまたトリガー条項である。

トリガー条項の発動は、未来のガソリン税再増税である。
本則税率と特例税率との差(上乗せ分)は、ガソリン税は25.1円、軽油引取税は17.1円とかなり大きく、平均小売価格の状況によって乱高下を繰り返すのは、流通が混乱する元である。

従って、トリガー条項の凍結解除はするべきではない。トリガー条項そのものを廃止するか、凍結させたまま永久氷壁の中で眠らせておいたほうがいい。

トリガー条項とは、"埋蔵金"を見つけられず、「ガソリン税などの暫定税率は廃止」の公約を果たせなかった地獄の民主党政権の置き土産であり、"天下の愚策"そのものである。

トリガー条項は、ポンコツガラクタそのものだ。



■激変緩和措置

あの時の反省を踏まえれば、自民党政権に「トリガー条項の停止の解除」という選択肢は始めから無いのだろう。
だからこそ、激変緩和措置による補助金投入で価格高騰を抑制したほうが有効であると判断した。私はそう理解している。

◎トリガー条項
・揮発油税、地方揮発油税、軽油引取税の特例税率上乗せ分にしか効果を発揮しない。
 →発動しても、その後の価格高騰には対処できない。
灯油、重油、航空機燃料は対象外である。
・トリガー条項の停止の解除には、別途、法律改正の必要がある。
・停止の解除後、「3ヶ月+α」を要するため(停止時の分はカウントされない)、すぐに策を講じる事ができず、機動性に著しく欠ける。
・特例税率の上乗せ分の乱高下が急に生じる"価格の激変"そのものである。

◎補助金
・ガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料の本体価格が対象となる。
・法律改正の必要はない。
・すぐに石油精製業者に投入できるため、機動性がある。
・価格高騰を抑制する事ができるため、価格は激変せず、市場の混乱も招かない。

上記をシンプルに比較しても、補助金を突っ込んだ方が良いのは明らかだ。

補助金の目的は、石油燃料の価格高騰を抑制する事である。
販売価格の引き下げのためでもなければ、精製業者や販売業者の経営支援のためでもない。



★参考資料★

これまで見てきた資料の中で最もわかりやすくポイントを突いている。
私からも強く推薦する。

揮発油税等の「トリガー条項」 -主な経緯と論点-

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