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ガソリン税の特例税率

ここ1~2年で価格が高騰している「ガソリン」という製品にかかる税金について。

※特記なき限り、ガソリンの価格や税額は"1リットルあたり"とする。


■ガソリン代金の内訳

※2023年7月26日時点

(0)本体の製品価格

資源エネルギー庁が「石油製品価格調査」を毎週水曜日に公開している。
1990年8月27日の調査開始以降の統計データが載っている。


また、「租税特別措置法」第89条3項に則り、
統計法に規定する基幹統計調査で、総務省統計局が「小売物価統計調査」を公開している。(財務省令で定める)
これが、「租税特別措置法」第89条内で定めた所謂「トリガー条項」で基準となる「平均小売価格」となっている。


(1)石油石炭税

◎特例税率…2.8円(租税特別措置法 第90条の3の2)
 ・本則税率…2.04円(「石油石炭税法」第9条)
 ・上乗せ分…0.76円(特例税率-本則税率)
※期限は、特に明記されていない。
※適用理由は、地球温暖化対策のため。
※特例税率が適用されない場合は、本則税率のみ適用される。

◎納税義務者(「石油石炭税法」第4条)
 ・「原油、ガス状炭化水素、石炭」の採取者。
  →採取場から移出した「原油、ガス状炭化水素、石炭」に対して課税。
 ・「原油もしくは石油製品、ガス状炭化水素、石炭」を保税地域から引き取る者。
  →引き取る「原油もしくは石油製品、ガス状炭化水素、石炭」に対して課税。


(2)揮発油税+地方揮発油税
 ※二つ合わせて「ガソリン税」と呼ばれている。

◎特例税率…48.6円+5.2円(租税特別措置法 第88条の8)
 ・本則税率…24.3円+4.4円
    (「揮発油税法」第9条+「地方揮発油税法」第4条)
 ・上乗せ分…24.3円+0.8円(特例税率-本則税率)
※期限は「当分の間」と書かれてある。
※適用理由は、特に明記されていない。
※特例税率が適用されない場合は、本則税率のみ適用される。

◎納税義務者(「揮発油税法」第4条+「地方揮発油税法」第5条)
 ・「揮発油」の製造者。
  →製造場から移出した「揮発油」に対して課税。
 ・「揮発油」を保税地域から引き取る者。
  →引き取る「揮発油」に対して課税。


(3)消費税

◎納税義務者(「消費税法」第5条)
 ・事業者。
  →国内において行った「課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れ」に対して課税。
 ・「外国貨物」を保税地域から引き取る者。
  →「課税貨物」に対して課税。



■ガソリン代金にかかる税は多重課税なのか?

結論から言うと、多重課税には当たらない。

化石燃料は、「原油等の採取業者→石油精製業者→ガソリンスタンド等→消費者」という流通経路で行き渡り、移出される毎に、該当する税金が価格に転嫁されている。


石油石炭税の納税義務者である『原油等の輸入・採取業者』は、
石油石炭税相当分を、原油価格に転嫁した金額で、石油精製業者と取引する。
『原油等の輸入・採取業者』にとって、石油石炭税は"販売価格を構成する製造コストの一部"である。
しかし、取引相手の石油精製業者にとっては、石油石炭税相当分も含めて"仕入価格の一部"でしかなく、
石油精製業者の帳簿に、「仕入」の項目はあっても、「石油石炭税」の項目は存在しない。
『原油等の輸入・採取業者』は、この売上金から石油石炭税を納税している。

揮発油税と地方揮発油税の納税義務者である『石油精製業者』は、
揮発油税と地方揮発油税の相当分を、揮発油価格に転嫁した金額で、ガソリンスタンド等と取引する。
『石油精製業者』にとって、揮発油税と地方揮発油税は"販売価格を構成する製造コストの一部"である。
しかし、取引相手のガソリンスタンド等にとっては、揮発油税と地方揮発油税の相当分も含めて"仕入価格の一部"でしかなく、
ガソリンスタンド等の帳簿に、「仕入」の項目はあっても、「揮発油税」「地方揮発油税」の項目は存在しない。
『石油精製業者』は、この売上金から揮発油税と地方揮発油税を納税している。

消費税の納税義務者である『ガソリンスタンド等』は、
消費税相当分を、ガソリン小売価格に転嫁した金額で、消費者に販売している。
『ガソリンスタンド等』にとって、消費税は"対価の一部"である。
しかし、取引相手の消費者にとっては、消費税相当分は"購入価格の一部"でしかない。
『ガソリンスタンド等』は、この売上金から消費税を納税している。

このような流通経路を辿っている事から、消費者は、石油石炭税・揮発油税・地方揮発油税、それに消費税の実質的負担者(担税者)となっている。
消費者からすれば、多重課税に思えてしまう。
しかし、これらの税金は、人件費や輸送費等の費用と同様に価格に転嫁された"販売価格を構成する一部"にすぎない。
(酒税やタバコ税と同様の仕組み)

https://www.env.go.jp/council/16pol-ear/y162-12/mat02_1.pdf



■軽油代金の内訳

(0)本体の製品価格
(1)石油石炭税
 上記ガソリンと同様。

(2)軽油引取税

◎特例税率…32.1円(「地方税法」附則抄第12条の2の8)
 ・本則税率…15.0円(「地方税法」第144条の10)
 ・上乗せ分…17.1円(特例税率-本則税率)
※期限は「当分の間」と書かれてある。
※適用理由は、特に明記されていない。
※特例税率が適用されない場合は、本則税率のみ適用される。

◎納税義務者(「地方税法」第144条の2)
 ・軽油の引取りを行う者。
  →当該引取りに係る軽油の現実の納入を伴うものに対する。
  →当該軽油の納入地所在の道府県において課税。


(3)消費税

軽油引取税の納税義務者は「軽油の引取りを行う者」であり、それはイコール消費者である。
つまり、消費者と取引する時の『ガソリンスタンド等』は、「軽油引取税」の納税義務者ではない。

従って、軽油引取税相当分を軽油小売価格に転嫁して販売する事はできない。
『ガソリンスタンド等』にとって、軽油引取税は消費者からの"預り金"であり、そこに消費税を掛け合わせる事はできない。
あくまでも消費者から預かったものを代わりに納めているにすぎないのである。
(入湯税やゴルフ場利用税も同様)



■特例税率

いわゆる「特例税率」ができた理由は二つある。

・石油の消費を抑制するため。
 →1973年オイルショックの影響。
・道路特定財源を補うため。
 →道路整備五ヵ年計画のための財源が不足していた。

1974年4月1日より"暫定措置"として、「租税特別措置法」第89条(当時)にて「特例税率」を2年間の時限立法として定めた。


見出しで「税率の特例」と謳う紛れもない増税である。
"暫定措置"として期限を区切られていた事から、わかりやすく「暫定税率」と表現された。

これ以降、失効・廃止されない限り、「揮発油税法」第9条や「地方道路税(→地方揮発油税)」第4条の規定にかかわらず、「租税特別措置法」による規定が適用される事となった。


しかし、、、

オイルショック危機を脱するため、道路整備五ヵ年計画の財源確保のため、"暫定措置"の時限立法として定められたはずのガソリン税の「税率の特例」は、数年毎に期限を延長更新されてきた。

道路特定財源だったはずのガソリン税などは、2009年4月分より一般財源化され、道路整備事業以外にも使えるようになった。

2010年4月以降は"暫定措置"という仕組みが廃止され、当分の間「税率の特例」は継続される事となり、今日に至っている。

そんな現実に理解を示す国民は、果たしてどれくらいいるのだろうか?

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