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「漬物店」の倒産・休廃業解散動向調査にみる、今後の漬物業界の展望

「漬物店」の倒産・休廃業解散動向調査にみる、今後の漬物業界の展望(本文2,534文字)
 
 
株式会社株式会社帝国データバンクは、令和6年10月7日に「『漬物店』の倒産・休廃業解散動向(2024年1-9月)~「故郷の味」存続に危機 漬物店の倒産・廃業が過去最多ペース 手作り漬物を取り巻く「三重苦」に、法改正も影響」を公表し、漬物業界の状況を報告しています。
 
令和3年(2021年)に改正された「食品衛生法」が、令和6年(2024年)6月1日から完全施行開始され、漬物製造が保健所の営業許可制となりました。改正により、衛生基準に合致した加工所の整備が必要となり、多くの漬物店が対応に苦慮していることは、すでに別の記事でご案内しているとおりです(詳しくは<参考>からご確認ください)。
 
今回は、食品衛生法改正後の漬物業界の展望を、
<漬物店の動向>
<漬物業界の現状>
<漬物市場について>

に分けてまとめます。


<漬物店の動向>
帝国データバンクが報告した「2024年1-9月の「漬物店」の倒産・休廃業・解散動向」によると、調査対象の2024年1月から9月までの間に、漬物店の倒産・休廃業・解散が増加し、過去最多のペースで進行しているとしています。また、負債1000万円以上の倒産が8件、休廃業・解散が18件発生し、合計26件が市場から消滅したとも伝えています。
 
 
1. 背景要因
1-1.食の嗜好の多様化

消費者の嗜好が多様化し、漬物の需要が減少しています。特に若年層の間で漬物の消費が減少しており、伝統的な食文化の継承が難しくなっています。
 
1-2. 原材料の価格変動
野菜の価格が安定せず、特に国産野菜の天候不順や海外産野菜の円安が影響しています。これにより、漬物の製造コストが増加し、経営を圧迫しています。
 
1-3. 高齢化
漬物店の経営者や就農者の高齢化が進行し、平均年齢が61.6歳に達しています。後継者不足も深刻で、事業継続が困難になっています。
 
1-4. 法改正
2024年6月からの食品衛生法改正により、漬物製造が保健所の営業許可制となりました。これにより、衛生基準に合致した加工所の整備が必要となり、多くの漬物店が対応に苦慮しています。
 
 
2. 具体的な事例
2-1. 廃業
A社創業50年以上の老舗漬物店で、地域に根ざした経営を行っていましたが、後継者不足と原材料費の高騰により、2024年3月に廃業を決定。
 
2-2. 倒産
B社新規参入から10年で急成長を遂げた企業でしたが、食品衛生法改正への対応が間に合わず、2024年7月に倒産。
 
 
3. 今後の展望 
小規模の漬物店に限らず、漬物業界全体として厳しい状況が続くと予想されています。一方で新たなビジネスモデルや技術革新による活路も模索されています。健康志向の高まりに合わせた低塩漬物や、海外市場への進出などに活路を見出すなど新たな市場開拓に期待されます。
 


<漬物業界の現状>
次に漬物業界の現状についてまとめます。漬物業界は、他の食品業界と比較しても、厳しい状況に直面しています。ここからは漬物業界と他の食品業界を比較しました。
 
 
4. 漬物業界が抱える課題 
4-1. 需要の減少

漬物業界は長期的な需要減少に直面しています。総務省の家計調査によると、漬物への支出額は2023年には8,048円となっています。この金額は、2000年の9,924円から8割程度であり、お米離れや中食の総菜の台頭、少子高齢化などが背景にあるとされます。
 
4-2. 法改正による負担増
漬物業界は個人企業や小・零細事業者が多く、改正食品衛生法の影響が大きいです。営業許可の取得には衛生基準を満たす施設が必要で、多くの小規模事業者にとって負担増になっています。
 
4-3. 高齢化
漬物店の代表者の約6割が60代以上であるとされ漬物業界全体のとしても高齢化が進んでいます。後継者不足も深刻で、事業継続が困難になっています。
 
 
5. 漬物業界の状況 
5-1. インバウンド消費の回復
他の食品業界、特に飲食店や観光業に関連する業界は、インバウンド消費の回復により業績が改善しています。漬物業界も一部でインバウンド需要の恩恵を受けていますが、影響は限定的とされます。
 
5-2. 業務用市場の回復
業務用漬物市場は、飲食店の回復に伴い、コロナ禍以前の水準に戻りつつあります。しかし、家庭用漬物市場は依然として厳しい状況が続いているとされます。
 
5-3. 健康志向の高まり
健康志向の高まりにより、低塩漬物や発酵食品としての漬物の需要が増加する可能性があります。他の食品業界でも健康志向の商品が増えており、競争が激化しているもよう。
 
 
6. 現状と動向 
6-1. 漬物製造事業者の廃業・倒産
東京商工リサーチは、昨年の報告の中で、食品衛生法の改正に伴う小規模漬物製造事業者の廃業・倒産増加を予測していました。今回の帝国データバンクの報告がそれを確認した形になります。今後さらに廃業・倒産が増加していく可能性があります。
 
6-2. 他の食品業界の動向
他の食品業界では、韓流ブームの再燃や、時短調理の需要増加により、キムチなどの漬物風味の商品が好調であるとされます。これに対して、いわゆる「伝統的な漬物」は需要が減少しています。
 
 
7. 今後の展望 
漬物業界は厳しい状況が続くと予想されていますが、新たなビジネスモデルや技術革新による活路も模索されています。健康志向の高まりに合わせた低塩漬物や、海外市場への進出などが考えられます。また、クラウドファンディングや地域連携を通じて、伝統的な製造方法を維持しつつ、衛生基準を満たす取り組みも進められています。


<漬物市場について>
最後に、漬物市場についてです。日本の漬物市場と他国の漬物市場を比較すると、いくつかの違いが見られます。以下に、日本、韓国、中国、アメリカの漬物市場の特徴をまとめます。
 
下表のとおり、日本の漬物市場は縮小し、健康志向の高まりで低塩漬物の需要が増加。韓国ではキムチが中心で国内外で需要が高く、中国では急成長中。アメリカではピクルスが一般的で、健康志向により発酵食品の需要が増加。各国で厳しい衛生管理が求められています。

表 日本を含めた各国の漬物市場

農林水産省他の調査報告をもとに、筆者が再構成

 
このように、他国の漬物市場もそれぞれの文化や消費動向に応じた特徴を持っており、今後は国際的な需要の高まりが見られます。
この中で、日本の漬物市場は他国と比較しても縮小の傾向にあります。健康志向の高まりや新たなビジネスモデルの導入による需要回復と拡大に期待されます。
 


<一次情報>
【帝国データバンク】20241007「漬物店」の倒産・休廃業解散動向(2024年1-9月)
https//www.tdb.co.jp/report/industry/qx3cut4yh/
https//www.tdb.co.jp/resource/files/assets/d4b8e8ee91d1489c9a2abd23a4bb5219/5168c903336a4e28acec18ea9351c6fa/20241007_%E3%80%8C%E6%BC%AC%E7%89%A9%E5%BA%97%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%80%92%E7%94%A3%E3%83%BB%E4%BC%91%E5%BB%83%E6%A5%AD%E8%A7%A3%E6%95%A3%E5%8B%95%E5%90%91%EF%BC%882024%E5%B9%B41-9%E6%9C%88%EF%BC%89.pdf
 
 
<参考>

食品衛生法の改正について
https//www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197196.html
【ダイヤモンド・オンライン】「漬物メーカー」がピンチ!この春、老舗の廃業ラッシュが懸念されるワケ
https://diamond.jp/articles/-/338807
【総務省】家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(2021年(令和3年)~2023年(令和5年)平均)
乾物・海藻、大豆加工品等
https://www.stat.go.jp/data/kakei/zuhyou/rank06.xlsx
【農林水産省】野菜と漬物をめぐる状況
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/attach/pdf/2ibent-41.pdf
 
 

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