創造性と感性の繋がり
前職から現在の研究に至るまで創造性と感性の関係性についてよく考えることがあります。私は全ての人が創造的だと思っているのですが、よく新しい発明をしたり、絵を描いたり、デザインすることだけが創造的(Creative)と捉えられているように感じます。創造性と感性の関係について、フィンランドでの体験、これまでの知識を結びつけて"創造的"に書こうと思います。
■Creativityの定義
1950年代頃から始まったとされるCreativityの研究は定義も時代とともに変わってきました。
TEDで”食べて、祈って、恋をして”の作者Elizabeth Gilbertが、創造的と呼ばれる人たちが次々と新しい作品を生まなければいけないプレッシャーから解放されるか、歴史からヒントを得たと言っていました。
"古代ローマ、ギリシャでは創造性は人間に備わっているものではなく、人に付き添う精霊で、遠く未知のところから来たとされていました。人間の理解を超えた動機から。その精霊をダイモンと呼び、ソクラテスはダイモンがついていると。その精霊そのものをジーニアスと呼んでいました。創造的でなくなってもそれはその人のせいではないということにできると。"
https://www.ted.com/talks/elizabeth_gilbert_your_elusive_creative_genius
またNetflixの”The creative brain”で創造性について、以下のように述べられていました。
"創造は無からの発明ではなく、既にあるものを創り直すことだ。"
そしてCreativityに関する本にも、
"Creativity is among the most complex of human behaviors. It seems to be influenced by a wide array of developmental, social and educational experiences, and it manifests itself in different ways in a variety of domains."(Handbook of Creativity, Sternberg, Robert J., toimittaja.1999)
脳の中でクリエイティブなことは特定の場所で起こっているのではなく、様々な場所で起こっています。過去に脳にインプットされた知識、体験、知覚等が合わさって予期せぬ反応を持って生まれるものです。自分が経験していることが全てクリエイティブの糧になっているのです。
■フィンランドでのクリエイティブの捉え方
フィンランドでは、クリエイティブに対するアプローチが日本とは少し異なるなと肌感覚で感じました。料理をするのも、旅行の計画をするのも、勉強するのも全てクリエイティブ。
Creativity is also quite common in a wide range of everyday activities( Runco, 1996; Runco& Richards, 1998).
とあるようにクリエイティブは日常的なものとして捉えられているように思います。
また、フィンランドではそれぞれの作品や発表を否定しない教育が根付いています。どんな作品もいいところを見つけて褒め、こうしたらもっとよくなるよね、違う視点からだとこう見ることもできるよね、と議論をし合います。完全に否定しまうことはそれぞれが築いてきたものを否定することにあるとわかっているからです。
厳しい意見をもらって育っていくという考えの人には、少しぬるいと思うかもしれません。ただ何をしても褒められるからと手を抜く人はいません。それが一番自尊心を気付けることになることをわかっているからです。また手を抜いたことは誰にもわかり、きちんとした意見をもらうことができず、結果自分のためにもなりません。
■Porvoo art schoolを見学して考えた創造性を豊かにする教育
具体的にどんな教育をしているのか、みるためにPorvooというヘルシンキからバスで1時間ほどの都市に、市が運営する美術学校Porvoo art schoolに見学に行きました。0-19歳の子供たちがアートを学ぶために、放課後に通う学校です。
そこでは音楽、絵、演劇、彫刻など様々な分野を教えています。
音楽の授業を見学した時に、ある生徒さんが先生が扱っている楽器ではなく、部屋にある別の楽器に興味を持ち始めました。そこからその楽器を演奏する授業に徐々に変わって行きました。授業後、先生に聞いてみるとその楽器を使うことを予定はしていなかったけど、あの子が興味を持ったからそれに合わせたの。と。
フィンランドでのアート教育は絵を描くことだけではないというのが当たり前です。いかに五感の全てを使って表現をするか、先生はそれにどう寄り添っていき、上手い絵を描くのではなく、どう生徒の自由な発想の手助けをするかが先生たちの核になっているのを自分が教わっていても感じます。先生は全て大学院を卒業していること、1クラスの人数が少ないからできることでもあります。
■創造性と感性
創造性から少し感性について話を移します。五感の中で元々危険を察知するためにある器官、耳と鼻は意図して閉じることができません。
視覚障害のある方と香りのワークショプに参加した時のことです。公園で見つけたもの、香るものを箱の中に入れて、自分の思い出をテーマに玉手箱にしました。その時に視覚障害のある方の香りの表現を聞いた時に、当時香りを売っていた私よりも香りの表現が豊かで深いものだったことにショックを受けました。そしてその日常の香りを詩的に表現する感性の豊かさに刺激を受けました。人、場所を認識するのも香りだとその方は言っていました。私たちの日常感じる感情に約75%作用している香り、私たちの感覚の80%を占めると言われている視覚。五感のうち一つを失うとそれを補うために他の感覚が鋭くなることを体験した出来事でした。
一つの感覚を閉じてみるといつもとは違う世界が見えるかもしれません。どんな人であってもクリエイティブな面を持っていると思います。それをどうやって花開くことができるか考えて行きたいなと思います。
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