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壁の根っ子のダイヤモンド

1日目
 目が覚めると、アパートの部屋のいつもの何の変哲もない壁に違和感がある。
 ほうれん草の根っこのようなものが付いている。
 カッターナイフを探して、削り取った。
2日目
 目が覚めると、今日もまた根っこがある。
 今日もまたカッターナイフで削り取った。
6日目
 旅行から帰ってきた。
 予想通り、根っ子はある。
 いや予想以上の事態。ずいぶん長く伸びている。
 それどころか、くるくる、ぐるぐるしながら伸び縮みをしている。
 カッターナイフで切ろうとしたら根っ子に叩かれた。
 怖くなってその日は台所で寝た。
7日目
 遊びに来た友人と根っ子を観察した。
 友人は根っ子に絡み付かれ、恐怖にひきつった顔を一瞬だけ見せ、根っ子とともに壁の中に消えた。
 あまりの恐ろしさに気を失った。
 気が付くと、根っ子はくるくる、ぐるぐると伸び縮みをしていて、先端に、まるで私へのプレゼントのように大きなダイヤモンドが載っている。
 受け取った。
8日目
 借金の取り立て屋がやってきた。
 取り立て屋も根っ子に興味を持ち、一緒に観察した。
 取り立て屋も壁の中に消えた。
 少しすると、根っ子が伸びて来て、同じようにダイヤモンドが載っていたのでもらった。
9日目
 思い付き、理由を付けて近所の鼻つまみものを呼んだ。
 こいつも同じように壁の中に消えて、同じようにダイヤモンドをもらった。
197日目
 悪党がいなくなり、みな明るい顔で過ごす街になった。
 私は大金持ちになり、アパートごと買い取り、部屋には封印をした。
 贅沢な暮らしが始まった。
1138日目
 贅沢にも飽きて来たら、壁の中が気になる気持ちが生まれ、抑えられない。
 封印をとき、部屋に入り、根っ子に頼み、壁の中の世界に入った。

 何もない。真っ暗。無音。広いのか狭いのかもわからない。暑さも寒さもない。自分の気持ちしかない。
 つまらないので、世界をつくることとした。
 7日かかった。
 もうすることがないので私は菩提樹になった。

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