理想の美がはびこる学校に転校した女子高生の話し 第二話

クラスメイトの容姿

 ここで、全身磨き上げられた彼女たちの容姿を上から順に説明していくとしよう。

 まずは、髪の毛。女子高生特有の文化か知らないが、半数が黒髪ストレートのサラサラな髪を自慢げに肩より長く伸ばしてなびかせている。残りの3割は、プリンのように頭頂部が黒くなっていない、明るい茶髪。こちらはボブくらいの長さだが、同じようにサラサラとしているのが目で見てわかる。そして最後の2割は、ボブと同じく明るい茶髪で、ゆるりとカールがかった髪をふらりと、こちらも肩より下まで伸ばしている。先ほどの二つの髪型とは違い、サラサラではなく、ふわりと言った表現がふさわしい。思わず触りたくなる質感である。

 クラスの女子の髪型は、以上の三種類で占められていた。それ以外は今のところ見かけていない。そんな中で、私の髪型はどうだと思いますか?ご想像にお任せしますが、三種類に当てはまらないことは言っておく。

 そして、極めつけは髪から漂う、ただならぬ臭気。最近、世間で問題になっている『香害』が教室に充満していた。教壇付近で自己紹介していた時にはあまり気にならなかったが、クラスメイトの合間をぬって自分の席まで歩いていく間に感じた匂い。どこから発せられたものかと思えば、答えは簡単。女生徒の髪が臭気の発生源だった。

 一人一人の匂いは、可愛らしいものだが、それがクラス全体となるとおぞましい匂いに変化し、臭気となる。生徒の間を歩きながら自分の机に向かっていたら、彼女たちから香る匂いが鼻についたことを思い出す。

「明日からはマスクして学校に通うことにしよう」

 ちなみに私はシャンプーなどの香料があまり好きではないので、なるべく匂いの少なめの物を使うようにしている。私自身は、彼女たちのように臭気を振りまいてはいない、と思いたい。

 髪だけでだいぶ時間を使ってしまった。さて、次は顔を見ていくことにしよう。まずは人の第一印象を決めるとも言われる「目」から見ていこう。するとどうだろうか。このクラスには、一重が存在していなかった。誰も彼もがぱっちり二重で、目がキラキラと輝いていた。一重や目が小さいことに悩む人の姿がそこにはなく、二重世界が広がっていた。二重でも、三白眼などと呼ばれる黒目が小さめの人もいなかった。コンタクトで黒目補正でもしているのかまではわからないが、二重でなおかつ、黒目が大きい、理想の瞳を持つ生徒しかいなかった。そんな中での私の瞳はどうでしょう。ご想像にお任せします。

 瞳ついでにメガネについても言及していくとしよう。このクラスには、メガネという視力補正具は、女性には必要ないものらしい。黒目の大きなぱっちり二重の瞳をメガネで隠すという愚行はしたくないのか、私以外にメガネの生徒はいなかった。コンタクトか、視力矯正手術でもしたのだと思うことにした。

「絶対にメガネを外すのはやめておこう」

 コンタクトにしたいなと思ったことはあるが、こんなに瞳キラキラの中で、自分の瞳をさらすことはできない。

 目の次は眉毛。眉毛はもちろん、真ん中がつながった人間はいなかった。きれいに整えられていて、素晴らしい形だった。私については、日々努力しているとだけ言っておく。

 鼻については、いわゆる豚鼻はおろか、鼻の付け根から低い人はいなかった。団子鼻もいなければ、鼻が低いと悩む人間を見かけない。形の良い鼻がすっと顔の中央にそびえたっていた。そして、驚くことにブラックヘッドと呼ばれるらしい、鼻の黒ずみが皆無で、ツルツルの鼻が羨ましい限りである。

 唇。ここについては、プルプルで食べてしまいたくなるようなとは、このことを言うだろう。かさかさという文字が存在しない世界に紛れ込んだようで、私は思わず、自分の唇を舌でなめて、潤いを与えてしまった。まあ、そんなことをしたところで、簡単にプルプルになるとは思えないが。そして、色付きリップでも塗っているかのような、うっすらと色づく唇こそ、キスしたくなるのかもしれない。とはいえ、クラス女性全員の唇がそんなプルプルだと、別にキスしたい気持ちは薄まるのかもしれないが。もちろん、これはこのクラスの標準装備らしい。自分の唇のあれ具合が恥ずかしくなる。

「リップクリームはポケットに入れておこう」

 これからは、もう少し自分の唇をいたわることにしよう。

 唇ときたら、次はその中にある歯を見ていこう。プルプルの唇から覗くのは、白く輝く美しい歯だった。芸能人顔負けの白い歯がきれいに並んでいた。まるで漂白にでもかけたかのような人工的な白さに驚く。私の歯は彼女たちと比べてなんと黄ばんでいることだろう。現実を直視して少し落ち込んだ。

 顔の中で最大の見どころは、お肌。お肌のトーンがとてつもなく明るい気がした。日焼けで色が黒くなった、とか言っている人は一人もいない。皆、白くてもちもちの肌をさらしている。よく見ると、毛穴というものが彼女たちには存在していなかった。毛穴の黒ずみはおろか、ニキビもシミもしわもなく、漫画や小説で出てくる肌がそこにはあった。白くてきめの細かい、シミひとつないきれいな肌とはこのことかと実感した。

 高校生という育ち盛りで、ニキビもなく、日焼けも知らない肌とはいかに。私については、以下略。

 ここでようやく彼女たちの顔の紹介が終わった。いったん、現実に戻ることにする。

 休み時間が終わって、今は授業中である。担任の若い男性教師が数学の公式について教壇で説明している。あまり数学が得意ではないので、眠たくなってきた。机に突っ伏して寝てしまおうか。幸いなことに、私の席は一番後ろの席で、居眠りがばれる心配は少ない。先生が机間巡視しなければの話だが。

 私はウトウトと眠気に負けてしまった。そして、夢を見た。


第一話はこちらからどうぞ

ヨロシクオネガイシマス。


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