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時代証言

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#読書感想文

小説で感じる西武大津店の面影と思い出の膳所

「本屋大賞2024」の1つが、宮島未奈作『成瀬は天下を取りにいく』に決まった。滋賀県大津市膳所を舞台にしていて、タイトルにもなっている主人公「成瀬あかり」や「西武大津店の閉店」という出来事を中心に、いろんな人間模様が描かれている。 物語のキースポットとして多く登場する「西武大津店」はかつて営業していた実在の店舗。西武グループを創業した「堤家」のふるさとで、44年間親しまれてきたが、2020年8月末に閉店した。裏表紙にはありし日のイラストがあるが、現在は取り壊された。 最初

【書評】佐々木雄一『陸奥宗光』(中公新書)

 陸奥宗光といえば、近代日本の悲願であった条約改正(領事裁判権の撤廃)を成し遂げた人物です。「カミソリ」のあだ名をつけられた切れ者で、優れた外交官として知られています。  しかし、陸奥の実像はその説明にとどまるものではありません。本書は陸奥の生涯を簡潔にたどりながら、彼の実像を明らかにしています。 外交にとどまらない業績 陸奥宗光は、条約改正・日清戦争・下関条約・三国干渉という明治日本の激動期に活躍しました。本書でも半分近いページ数が割かれています。  しかし、年表を見

サブカル大蔵経334小林英夫『満鉄』(吉川弘文館)

この会社は日本最大の株式会社として中国東北に君臨した。この会社は名称は鉄道会社でも実態は1つの植民地国家であった。p.3 単なる植民地ではなく、豊富な人材と先進的なシステムで本国日本を凌駕する満洲。NTTとドコモの関係みたいな感じでしょうか。 満鉄幻想ー。満洲への興味は、もともとは安彦良和『虹色のトロツキー』を読んだのと祖父がノモンハンに従軍したからです。鉄道好きにも幻想を掻き立てる満鉄。さらに大杉栄家族を殺した甘粕正彦の存在。 植民地は善か悪か。北海道は? 満鉄の起

濱口桂一郎著『ジョブ型雇用社会とは何か──正社員体制の矛盾と転機』

※2021年10月17日にCharlieInTheFogで公開した記事(元リンク)を転載したものです。  労働時間ではなく成果で評価する、契約時にそのポストに必要な能力を記した職務定義書(ジョブスクリプション)が示される、能力が足りなければ解雇も自由にできる、欧米では一般的──。多くのメディアで語られる「ジョブ型雇用」のイメージである。  本書の著者は2009年の著書で「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」という言葉を作った張本人だが、著者はこうしたジョブ型雇用のイメ

木下武男著『労働組合とは何か』

※2021年9月27日にCharlieInTheFogで公開した記事(元リンク)を転載したものです。  本書の主張は明快で、世界標準の「本来のユニオニズム」に立ち返れというものである。ではその「本来のユニオニズム」とは何か。 労働組合の機能は労働者同士の競争規制 そもそも労働組合は労働条件の改善を目的とし、その機能とは労働者同士の競争を規制することにある。労働者がばらばらのままでは労働力の価格、つまり賃金を下げてでも職を得ようとしてしまうからだ。だから労働組合は強制加入で

本を読まないなら漫画を読めばいいじゃない【読書の入り口】

最近塾生の一部である漫画が流行っており、休み時間などに読んでいる姿をよく見かける。 そのある漫画とは『スラムダンク』だ。 なぜ流行りだしたかというと、塾長が全巻買ってきて折に触れて推薦しているからなわけだが(笑)、いずれにせよ漫画を読むというのは大変結構なことであると思う。 そこで私からもおすすめの漫画を紹介しようと思う。 音が聞こえる漫画今回紹介するのは、先日映画化されたことでも話題の『BLUE GIANT』。 主人公の宮本大が世界一のジャズプレーヤーを目指す物語

精神科医と、うつ病患者、必読の書「賢人と馬鹿と奴隷」は風刺小説として絶品

 天才作家、魯迅は、現代社会を3頁の短編小説で風刺して見せた。「賢人と馬鹿と奴隷」というタイトルで。  奴隷は、奴隷主からの待遇を賢人に愚痴る。賢人は、奴隷主と利害が一致する支配者層の人間なので、目先、気持ちの良い言葉だけかけて、奴隷に地位向上などさせないように奴隷をコントロールする。奴隷は、馬鹿にも愚痴る。馬鹿は、お前が辛いなら、苦しいなら、そんな制度ぶっ壊せばいい。権利を求めて立ち上がれという。奴隷はびっくりして、馬鹿を追放して、奴隷主に褒められる。褒められたことを賢人

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