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誕生日の大家族


ある日、「息子が来て滞在するからよろしく」とマリアが言った。


そういえば、ふたりに何人の子供がいるのか聞いたこともなかった。

マリアママは、よく携帯で家族とテレビ電話をしながら、こちらに紹介してくれたりするのだが、家族が多くてなかなか覚えきれないでいる。


数日後、息子さんファミリーがやってきた。
どうやら車で来たようで、あの悪路を思い出した。

息子さんは、たしかにマリアによく似ており、顔の作りから声の大きさまでそっくりだった。

そして綺麗な奥さんと優しそうな奥さんのお母さん、年頃のふたりの娘さんに、可愛らしい男の子がひとり。

拍手しながら挨拶したあとに、皆で昼食を取った。


その日の夜、マリアが「もうすぐ誕生日だ」と言った。
誰か尋ねると、それは旦那さんのエルマンだった。

なるほど、それで息子さん達が来たわけだ。
そしてマリアママは、「誕生日用にチョコレート作ろう、ジャムを入れて」とも言った。
「いいね、試してみよう」と返した。


いきなり人数が増えたので、にぎやかな食卓になった。
国は違っても、家族の様子はさほど変わらないことが伺えて面白かった。

マリアは子供や孫とずっと一緒に居たい様子だし、息子さんは友人が来たりしてわりと自由にしている。

奥さんは率先して家事の手伝いをしていて、娘さん達もそれを手伝うが、家族揃ってのテーブルは子供たちには退屈そうで、サッと食事を済ませると、すぐに外へと出かけていく。

みんなの様子を見ていたら、子供の頃に大人の集まりに参加した時の感情を思い出した。


バウレスの人たちはみな親切なのだが、それはマリアママの息子さんファミリーも同じで、初対面からとても親切で、なんだか自分の育ちが良くないような気分になってしまった。

特に娘さんふたりは、この地域でのスペイン語の使い方を教えてくれたり、携帯で度々通訳してくれたり、カカオ豆の殻剥きを手伝ってくれたりした。

なんだか子供がおじさんを構ってくれているようだった。


さてエルマンは60歳になったらしい。
集まった町の人々は、口々に「80歳だっけ?」とからかっている。
30人以上居たが、みな親族らしく大家族で驚いた。

ふと自分の60歳を想像してみたが、こんなに多くの人に囲まれている絵は浮かばなかった。
物静かで優しいエルマンさんの人柄なんだろう。

息子さんファミリーが帰る日になり、みんなで朝食を済ませた後で、出発準備を手伝っていた。

すれ違いざまにマリアが「いい息子でしょ?」と言った。
「うん、とても親切だね」と返した。

その時のマリアママは、なんとも言えない寂しそうな表情をしていた。


子供を持った経験はないが、想像するのは容易い。

これまで職場で何人、いや何十人と面倒見てきたが、みな親子ほどの年齢差だった。
当時十代二十代の学生だった彼らも、今では立派な大人だ。

しかし僕の方は当時と変わらず、いくつになっても可愛い後輩のままで、「もう大人なんだから、、」と言われることがよくある。

息子さんファミリーを見送ったその日の昼食から、またマリアとエルマンと3人の食卓に戻った。

面倒だったり煩わしくても、みんなでワチャワチャしていた方が、楽しいのかも知れないと思った。

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