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たまにある涼しい日

町に来てから100日が経った。

熱帯気候ではあるのだが、気温が20℃台前半の日が割とあることに少し驚いた。

バウレスのみんなはというと、とても寒がって上着を着こむ。
少し肌寒くはあるが、個人的には気持ちが良いので、普段通り短パンTシャツで過ごしている。

会う人会う人に「上着はないのか?」「寒いでしょ?」と声をかけられる。
その度に「日本の冬はもっと寒いんだよ」と言い返し、みんなのヒ〜ッというリアクションを楽しんでいる。


さて今シーズンの野生のカカオ豆の発酵は結局うまくいかずで、来シーズンまで特にすることがなくなってしまった。

しかし幸いマリアママのホテルには、例のヴォルカーさんのカカオ豆の在庫があり(もちろん常温で置かれているため劣化している)、手持ち無沙汰でいる僕には格好のオモチャだ。

そう、たまにある涼しい日はチョコレートを作るいい機会。


何度かカカオ分70%のチョコレートを作っていたが、町のみんなは「苦い」「甘くないね」という反応であった。


しかし、それもそのはず、
彼らの砂糖の使用量はかなり多い。

ネスカフェにもホットチョコレートにも“だばだば”と砂糖を入れる。
それは普通のマグカップに対して、大さじ3〜5杯なのだから、日本人の感覚からすると本当に信じられない。

もちろん、マリアママもだ。
そのため、マリアにはチョコレートの試食はあげないようにしている。笑

以前「もう少し砂糖入れた方がいいね」と言われ、「ん〜、もう少し」「もう少し」と繰り返す間に、そのチョコレートはカカオ分40%くらいになってしまい、完全に砂糖の味しかしなかったことがあった。


そういうわけで、バウレス用にジャリっとしたチョコレートを作ることにした。

同じハイカカオのチョコレートでも、粒度が粗いと砂糖の甘味を知覚しやすいためだ。
口どけは悪くなるがスナック感覚で食べられるし、なによりバウレスのみんなにも砂糖の味じゃなくカカオ豆の味を美味しいと感じて欲しい。


チョコレートを作るのはやはり楽しい。
それだけチョコレートの沼は深いということか。

思えば5年前、手作りキットを貰ったのがきっかけだった。
長らく飲食業界に携わっていたが、カカオ豆は見たのも焙煎したのも、その時が初めてだった。

自宅ですり鉢を使ってチョコレートを作ったのだが、複雑で高揚感のあるカカオの香りに、何とも幸せな気分になったことを覚えている。

それからというもの、カカオ豆を購入してはチョコレートを作り、職場や友人に配ったりしていた。
そして蔵前のチョコレート店へと繋がるわけだ。


そんなことを思いながら、作ったチョコレートを試しに近所のひとにあげた。
おじさんもおばちゃんも子供も、みんな「Lindo」「Lindo」と言ってくれた。


Lindoとは「可愛い」と訳されるが、綺麗・美しいの意でも使われる。
そして、この地域では美味しいの意味でも使われている。

よし!作戦は成功だ。


まさか前回自分が苦いと言っていたチョコレートを、また食べているとは誰も思わないだろう。ただ粒度が違うだけだ。

この多様さが、チョコレートの作り手冥利に尽きるのだが、、
なにより美味しいと喜んでもらえることが、シンプルに嬉しい。


たまにある涼しい日、それはチョコレート作りの喜びを再確認する日でもある。


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