お客様の思い出、ドリトル先生のこと、そして「百まいのきもの」
というわけで(前回から続いています)
まずはブログに書いていたお客様の思い出を転載させて頂きます。
明日から9回に分けて更新しますので、
どうぞよろしくお願いします。
ところで、40歳を過ぎて思いがけず蕎麦屋で働くことになり、
何が驚いたって、とにかく毎日毎日、
知らない人が沢山暖簾をくぐっていらっしゃることでした。
飲食店なので当然のことなのですが…
基本的に一人でいるのが大好きで、
静かなところでうじうじと字を書いてるのが性に合っているから物書きをしていた人間です。
そんな人のところにどんどん人が来て(別に私が目的でいらっしゃるわけではないのですが)、
話しかけられて(オーダーして下さって)、
数字が苦手なのに計算もして(お代を頂くので。もちろんレジはありますが)、
…開店してすぐに確信しました。
ごめんなさい…
大変残念なことですが…
私はこのお仕事、一週間ともたないと思います。
身内びいきに聞こえるかもしれませんが、夫の作る蕎麦や料理はとても美味しく、
これをお客様に美味しく、気持ちよく召し上がって頂きたい!!
そんな気持ちは強くあります。
接客を手伝ってくれている義姉はきびきびと気が利いていて、
オフビートなユーモアもあって、
彼女と一緒に働くのはとても楽しいです。
だけど、だけど…
もともと私はどちらかというと人嫌いなんですよ。
あ、今言ってはいけないことを口走ったかもしれませんが、
小学生の時には深刻な、今なら犯罪レベルのいじめにも遭っていて人間不信だし、
ドリトル先生が牢屋で論文を書いているのが羨ましかったような、そういう子供時代だったのです。
いいなあドリトル先生…。
牢屋には動物が来てくれて、出たくなったら脱獄も手助けしてくれるし…。
確か、先生も牢屋にいるのは結構好きだって言ってたな…。
お蕎麦を運びながらも、頭の中は動物と話す小太りのおじさんのことでいっぱい。
足腰はずきずきと痛むし、
オーダーだけでなく調理補助も覚えないといけないし…
あ、またお座敷に行かないと…
そんな限界状況が10時間ほど続きました。
今でも初日の大変さを思い出すと軽い眩暈を催しますが
(フラッシュバックというのかもしれません)、
とにかく明日からは店の繁栄を祈って身を引こう…
そんな気持ちでいっぱいでした。
そんなダメな人がどうして9年も接客を続けているのか…?
結論から言うと、
私が部屋に引きこもりたかったのは物書きだったからですが、
だんだんと店に出るのが楽しくなったのも物書きだったからでした。
出会うお客様が、会う方会う方本当に素晴らしくて、興味深くて、
だんだんと取材しているような気持ちになってきたのです。
部屋に籠っていたら絶対会えない、
飲食店をしていたからお話できる方々が沢山いる。
一見するとごく普通の方、
二度見、三度見しても普通の方のお話が、
こんなに面白くて深くて、心揺さぶられるなんて…!!
はじめは
「知らない人が、暖簾をくぐってどんどん入ってくる…(恐)」
と圧倒されていましたが、
だんだんと、
「アポを取らなくてもどんどん取材できて楽しい (笑)」
と思えるようになってきました。
ほんとうに、
世の中に、
面白い人がこんなに沢山いるなんて知らなかった…!
というわけで、全員の方の思い出を書くのは出来ないと思いますが
(そして書かれたくない方がいらっしゃるのは重々承知していますので、できるだけ許可を得て、フィクションとして)、
出会いの味わいを記録したいと思います。
そうそう…
いじめられっ子だった私は本が友達でしたが、
忘れられない一冊に
「百まいのきもの」
(文/エリノア・エスティーズ 絵/ルイス・スロボドキン 訳/石井桃子 岩波書店)
があります。
BOOKデータベースによると
「百まいのドレス」を持っていると言い張る、まずしいポーランド移民の女の子ワンダ。人気者で活発なペギーが先頭に立って、みんなでワンダをからかいます。ペギーの親友マデラインは、よくないことだと感じながら、だまって見ていました…。どんなところでも、どんな人にも起こりうる差別の問題を、むずかしい言葉を使わずにみごとに描いた、アメリカの名作。
ネタバレになるので詳述しませんが、結局は転校してしまう絵の上手なワンダがしたことが、私のお手本です。
ご縁があってひととき触れ合ったお一人お一人への思いを、
感謝とともに残すことができたらいいな…。
人物を立体的に、
3D、4Dで表現するので当然ながら濃い陰影の描写もあり、
「こ、これはディス…?」
と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
そこはお手数ですが、一呼吸おいて、俯瞰して読んで頂けましたら幸いです。
文章を書くのは意外と体力を使います。
更年期の私に、嫌いな人のために使う労力は1ミリも残されていません。
大好きなお客様レポート(フィクション)、だと思って頂いて間違いありません。
ちょっと長いので、お時間のある時にでも、少しずつでもお付き合い頂けましたら幸いです。
※ちなみにお客様のインタビューはその後雑誌連載になり、
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