サイコパス・ドラッガー #08 死後の新世界

 現実を侵食するテレパシーワールド。有りと汎ゆる世界に足跡を残し明日美は私利私欲の為に、世界創造の為に只其れを愉しむ。食事。此れは捕食だ。次の獲物を探してプラス、命を吸う本能だ。彼女の前に出る者は全て喰われる。生き残れる者なんて皆無。誰もが喉から其の新世界を欲しがる相場が決まっているのだ。誰も彼女には勝てない。絶対に。

 ロキはナギからテレパシーの事実を聞いた。其れが本当なら我々が生きている意味すら無くなってしまう。其れは何時来るのだろうか。死後の新世界なんて本当に実現するのか。日本には恐ろしい才能の人間が居る。イギリスの障害者施設の施設長と云う自分の肩書なんて陳腐な物だ。独りで悩んでいても仕方が無いと思いナギにもう一度真意を説いた。ナギの部屋は閑散として自閉症の症状がよく体現されている。

「施設長。彼女は神ですね」

 夕暮れに染まる窓から温かな光が神々しく射し込む。まるで明日美の存在に様に。ロキは彼の目を見て言った。

「君は幸せに成れると思うか?」

「新世界の僕は病気でも何でも在りません。元気に活きています」

 言葉を選んで脳を使って話す。

「そうだな。皆が平和な世界が一番だな」

 現実の地球は未だに争いの絶えない世界だ。コロナウィルスの猛威や自然脅威に振る舞われ被害を被っている。もしも我々の居場所がもう一つ有ったなら。此れ以上の喜びや幸せは無い。事実を知らぬ他の障害者の利用者は今日も大人しく慎ましく生きている。只生きている。サイコパス・ドラッガーは天使か悪魔か。此れが地球全てに解放されたら何が起きるか。考えただけでゾッとする。でも……希望なのかも知れない。今も捨てたもんじゃ無い。残された者に出来る事は何か。落ち着こう。ロキは俯くナギを一瞥して去って行った。障害者。だからテレパシーが出来るのか。サヴァン症候群足る者は神成り得るのか。社会や健常者から批判の目を浴びるのでは無いのか。否、彼女は強い。あの人ならきっとー。

 明日美は嚔をした。きっと風の噂ね。嗚呼神の仕事は忙しい。穏やかな日曜日の朝を愉しんでいた。此れで良い。心の底からそう思う。両親に朝の挨拶を済ませ顔を洗いながらテレパシーを開いた。

「言え」

 先日と同じあの都内の盲学校だ。

「私達の負けよ。貴方の一存に従うわ。次のテレパシーは何?」

 あの時の先生らしき教師が喋る。

「この世界で働け」

 世界なんて私の情で廻っている。全てが駒だ。私は私の事を遣るだけだ。言いたい事は全て言った。あースッキリした。テレパシーを閉じろ。

 今日も一日が穏やかに始まる。



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