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 草木も凍る丑三つ時だった。
 内殿から登場した伯父さんはいつも見るよりも、一段と精悍に見えた。
 白装束姿に黒脚絆を履き、肩と手の間には赤襷がかけられ、右手に鈴、左手に扇を持っていた。
 ジッと透明な境界線を直視し、定位置である、天蓋の下で停止すると、あれだけ鳴り響いていた笛の音がやんだ。

 伯父さんは気が変わったように、真剣そのものの表情になり、荒ぶる鬼神のように軽やかな舞を星への祈りとして捧げた。
 その息を呑むような、刹那の合図が轟くと赤い襷を外し、襷を摘みながら四つ折りにし、襷を伸ばして大きく、天高く振り上げた。
 まるで、赫赫とした龍が空高く舞っているかのようだった。

 赤襷は生きているかのように大振りに上げられ、捻り上げる。
 笛の調べも音の大雨のようにうって変わり、大ぶりに高く上げられた赤襷を交互に捻り上げながら、伯父さんは激しいステップを繰り返した。
 足を高く上げ、大きくジャンプした。

 見るからに激しい動きで、見ている気を取られ、深夜に佇む時間を忘れてしまいそうだった。
 これだけでも迫力がある舞なのに、神楽保存会のおじさんたちが言うには序の口なのだとか。
 錦絵に描いたように、ハラハラしながら僕は見守った。
 伯父さんはちっとも、疲れた顔を見せず、今度はでんぐり返しをしながら、襷を十字に襷掛けし始め、でんぐり返しは一回や二回ではなく、何度も繰り返された。

 目が回らないんだろうか。
 それだけがひたすら心配になってくる。
 ケチがつけないような雄々しい舞。

 でんぐり返しの襷掛けを終えると、伯父さんはあらかじめ、置いてあった二つの小刀を持った。
 何とその二つの小刀を刃の方を下ろし、胸の上で十文字に握りながら、また先ほどのようにでんぐり返しを始めたのだ。
 手に当たったら、痛いだろうな。
 伯父さんの顔は文字通り、鬼気迫っている。

 そのときほど、心臓の高値が高く鳴り響きながらハラハラして見たことはない。
 伯父さんみたいになれたら、僕は今よりずっと強くなれる。

 笛の音も変わり、ついに悠久の歴史を紡ぐ神楽の祈りに新たなページが記された。
 惜しまない万雷の拍手を浴び、汗でびっしょりになった、伯父さんが内神屋から下ると、僕は真っ先に言葉を口にした。

「伯父さん、すごく迫力がありました。勇ましい姿でした」
「ありがとう、辰一君から褒められて嬉しいよ。辰一君もいつか舞えるさ」
 あんなに威勢よく、勇壮には舞えない。
 今夜の伯父さんはいつもより際立って、逞しく見えた。
 伯父さんがお父さんだったら、いや、本当のお父さんなんだ。
 いつかは一人剣をできるようになるんだろうか。

 僕はつい感傷に浸り、呟いた。お父さん、と。
 伯父さんは汗をだらだらと流しながら頭上にかぶった笠の御幣が風と舞った。

「ん? 俺のこと、お父さんって呼んだよな?」
「すみません、つい」
 いくら願望があるからと言って、あまりにも子供じみていた。
「いいんだよ。まるで息子みたいだからな」

星神楽㊺ 凍て星と秒針  |詩歩子 複雑性PTSD・解離性障害・発達障害 トラウマ治療のEMDRを受けています (note.com)


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