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第11回 選ばれ続ける「経年優化」という概念

ー INTRODUCTION ー

【Finding the GOOD presented by 鎌倉投信】

 [Finding the GOOD]は、“「いい」に逢いにいく” をコンセプトに、マンスリーゲストが選んだ、心地の“いい”場所・もの・人に実際に逢いにいき、次世代へと伝えたいものごとの「よさ」を探究していくゲストトーク番組です。

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ー PROLOGUE ー

 2024年6月マンスリーゲストは放送作家で脚本家の小山薫堂さんと、一澤信三郎帆布 代表の一澤信三郎さん。京都・東山へ、おふたりに逢いにいってきました。

世界有数の人気観光地 京都・東山

 テレビやラジオなどの脚本や制作を手掛けるN35インターナショナル株式会社や、企画を生み出す会社 株式会社オレンジ・アンド・パートナーズの代表取締役社長を務める一方、ご自身も放送作家であり脚本家でもいらっしゃる小山薫堂さん。
 小山さんの「いま、逢いたい人」に逢うために、120年の歴史を誇る一澤信三郎帆布へ。

120年続く「一澤信三郎帆布」京都本店

 人びとに愛され続ける「いい」ものとはどんなものなのか。
 いい「企画」との共通点はあるのか。「いい」が未来にもたらすものとは。

 おふたりの対談を全5回にわたり配信します。

▼前回までのインタビューを読む

2024年6月のマンスリーゲスト 放送作家で脚本家の小山薫堂さん
2024年6月のマンスリーゲスト 一澤信三郎帆布株式会社 代表取締役社長 一澤信三郎さん

ー INTERVIEW ー

100年以上、自分の形を保ち続けることは、なかなか難しいのではないかなと思うのですが、小山さんはどのように思われますか。

小山(以下、小):根っこはずっとありながらも、その時代にあわせた変化は恐れない、ということだと思います。”今”に流されないのが格好良いですよね。

120年続く「一澤信三郎帆布」ですが、ずっと変わらないところと、恐れずに変化したところがあるとすれば、変わらないところとはどんなところでしょうか。

一澤さん(以下、一):石油製品が世に出回って、それに席巻されてしまっても、相変わらずうちは天然繊維を加工してる。綿とか、麻とかね。人間の生活に一番近いもんを使って、鞄なんかを作り続けてる。それとね、製造直売っちゅうんかな。自分とこで作って、自分とこで売ってんねん。目の届く範囲の、ものづくりと商いをしてる。毎日直接、お客さんと接してる。

 今ね、修繕とか、傷まんことに工夫する時代がようやくきてるけど、うちらは昔から、自分とこで作って、自分とこで売ってるから、修繕は当たり前のことやねん。今はそれが珍しいって言われるけど、物を大事にせなあかんしな。

持ち込まれた鞄は一度解体され、修繕される。ほつれや破れさえ、味わい深い。

小:持ち込まれるお客様の使い古した鞄が、本当に格好良いんですよ。経年劣化ならぬ「経年優化」で、使うほどに味が出るんですよ。穴があいたり、取っ手がちぎれたりしたものを、職人が直して、使い続ける。それが、格好良い。

一:修繕して採算が合うかと言われたら、そら合わへん。複雑な修繕をせなあかんしな。糸目を一目ずつ外して、直すところを直して、また組み立てる。しかも、元あったミシン目に合わせて縫わなあかん。それでも、気に入って使ってくれてるからな。そら有難いと思わんと。

職人の技があってこそですね。

一:そらそやろな。

今、職人はどのくらいいらっしゃるのでしょう。

一:70人くらいかな。

70人!!何年続けたら、職人と呼べるようになるのでしょうか。

一:うちは、流れ作業的に、あるいは大量にものを作ってへんから、みんな、割と早よ色んな仕事をしだす。だから、技術を身につけるのにはそんなに時間はかからへん。それでも、ミシンが綺麗に縫えるようになるまで、10年はかかるかな。

・・・

ここからは、一澤信三郎帆布の工房を、一澤さんに案内していただきます。

一:ほな、いこか。

一:ここは「裁断」。染めムラとか、織り傷(糸の結び目など、帆布生地を織った際にできる傷のこと)がないか、一つひとつ見ながら、裁ち鋏で裁断してる。ひとつのチームで、一日につくる鞄は10〜20くらい。それに見合った裁断をここでしてる。ひとつの鞄ができるのに20くらいはパーツが必要になるかな。

一枚ずつ細やかに品質をチェックする。そのスピードと正確さに驚く。裁断の音が小気味よい。

一:よう切れそうな裁ち鋏やろ。鋏は、何度も研いで、使っていくと減ってくるねん。包丁も使えば減ってくるやろ。重いもんや。持ってみ。

うわ!!こんなに重いんですか!

一:重いし、刃も広い。それだけ、切れ味もいい。

研師によってピカピカに磨き上げられた裁ち鋏。予想以上に重たい。

目の前にいる職人の方は何気なく裁断してますが、これは高度な技術が必要ですね。

一:そやな。裁断だけは別チームがして、ここで裁断したもんを縫製のチームに持っていって、仕上げんねん。ほな、鞄作ってる方にいってみよか。

一:ここでは折り目をつけてんねん。帆布は厚くて、なかなか言うこと聞かへん。せやから、木株の上で成型してからミシンで縫う。化学繊維は、熱で切ったらほどけへんけど、帆布は天然繊維やから、鋏で裁断したあと、ほどけてくんねん。二重にすることで丈夫にして、テープで巻いてほどけ留めをする。一見、ええ加減に縫ってるように見えるかもわからんけど、1ミリ歪んでたらな、真っ直ぐ見えへん。

天然繊維ならではの「ほどけ」さえ、職人の技にかかれば、独特の丈夫さと美しさとなる。

(目の前にいる職人の方に向かって)何年続けてらっしゃるんですか。

職人:8年、9年くらいですかね。

一:つい、この間来た思ってんけどな。みんなそうや。しごかれてんねん。

こちらでは、今、何をやってらっしゃるんですか。

職人:これは、縫い終わった糸を入れ込んでいるところです。

一:普通、縫い終わったところは切りっぱなしや。でも、長年使ってるとほどけてくる。せやから、うちは、こうやって(縫い終わった部分を)引っ張り出して、結んで、しかもその結び目を入れ込んで隠してんねん。目に見えんとこほど、手間暇かける。

一:ここではミシン目を裏から叩いて、成型してる。そうしないと、表に返した時に形が悪いねん。もちろん、表側からも叩く。隅の部分は内側から押し出して、角を出す。で、また叩く。

裏からも、表からも。

一:そや。したら、最後は綺麗な形に仕上がんねん。割とめんどくさいことしてるやろ。

割とどころじゃないです。なんて手間暇かかってるんでしょう。全く違いますね。叩いたところと、叩いていないところの「浮き」が。こんなに違うんですか。鞄の形が浮かび上がってくるようです。感動します。

一:うん。ま、こういうことですね。

ミシンの音。叩く音。小箒で掃く音。工房は職人たちのエネルギーで充満していた。


(「第12回 「愛着とデザイン」を語る」に続く)


小山薫堂 Kundo Koyama

放送作家。脚本家。京都芸術大学副学長。料亭「下鴨茶寮」主人。
1964年熊本県天草市生まれ。日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。
「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画。
脚本を担当した映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。
執筆活動の他、地域・企業のプロジェクトアドバイザー、2025年大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーなどを務める。
熊本県のPRキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。

一澤信三郎 Shinzaburo Ichizawa
昭和24年生まれ。小さい頃から住まいが仕事場だったため、常にミシンの音を聞き、帆布のにおいを感じる暮らしだった。大学卒業後、新聞社に10年勤め、昭和55年に家業に戻る。一澤帆布の創業から110周年、一澤信三郎帆布になってから9周年。いつもの自然体で新しい企画を考え中。


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