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Valkan Raven

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終わる兆しの見えない長年の不景気の中、荒んでいく一方の人々の生活と心は、 いつしか歪んだ現実から目を背けるか、自らも歪むかのどちらかとなっていた。 不幸な半生により存在価値を見…
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2019年12月の記事一覧

Valkan Raven #3-0

 ーー長くて怖い夜が明けて朝日が出てきてくれる度に、あの日アパートの屋根の上で、彼と並んで座っていた事を思い出す。

 訪れた夜の出来事が忘れられなくて震えていた私を、彼はいつも微笑みながら見守ってくれていた。家族にさえ存在を認められなかった私なのに、どうしていつも嫌がらずに居てくれるのかが、不思議でしょうがなかった。
 「この町に来る人は絶望した人だけだと思っていた」とつぶやいた時、彼は可笑しそ

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Valkan Raven #2-6

  2ー6  

 孤独なカラスが声を出す。自身の身と同じ色に染まった空の中、誰とも分からぬモノへと発せられる訴えは、夜闇に溶けて瞬く間に、静寂となって消えていく。
 声を耳に受け止めた唯一の人間が、進めていた歩を止めて振り返る。荒れた息を整えながら眉間を皺で寄せると、感覚の疎くなった足で徐々に前進を再開しながら、姿無き厄介者に軽蔑の溜息で答えた。
 ――五月蝿い。やかましくうざったい鳥め、低俗で

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Valkan Raven #2-5

  2ー5  

 土道を踏む足音が空間に響く。靴が砂利を潰す音が不定期に鳴り、浅く断続的な息づかいが、耳の奥に流れて鼓膜を刺激する。
 周囲は完全に闇に覆われている。一足先に黒に染まっていた空の雲は、今は放出した夜の漆黒に溶け込み、その姿を晒す権利を何かから奪われたかのように、誰にも知られる事無く風に乗って流れていく。
 上半分が見えない視界で、鮮明に確認出来る目的地へ向かって駆けていく。研ぎ澄

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Valkan Raven #2-4

  2ー4

 家主も訪問者もいない廃アパートの1室に置き去りにされているMacBookに、メールが送信されてくる。不定期に送られてくるメッセージのファイルは軽快な着信音と共に、DOCKに張り付いている封筒の形をしたアプリの右上の数字の数を急速に増やしていく。
 誰も弄っていないのにもかかわらず、送られてくるデータ達が画面の中で勝手に開かれていく。短い英語と数字の羅列は徐々に大量になって瞬く間に

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Valkan Raven #2-3

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2363683/名前:akaituki
新学期始まったね!さーあて張り切って依頼しようぜ、人wwww殺しのwwwww
2363684/名前:匿名希望
>>2363683
ガキ死ね、厨臭え乳臭え死ね
2363685/名前:匿名希望
新年度めんどいんごwwwww新入社員めんどいんごwwww皆殺しにしてくれんごwwwww
2363686/名前

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Valkan Raven #2-2

 2-2

 止める事を許されない足で建物の中に入ると、コンクリートに囲まれた受付の無い玄関を通る。行く手にある幅の狭い階段に不安を募らせたが、――引き返そうとは思わなかった。あの怖い眼で睨まれるだけだから。――
 魅姫は時間を掛けて階段を上ると、最上段に立つスーツ姿の男を見つける。振り向いてきた相手に浴びせられた、サングラス越しの刺すような視線に警戒心を掻き立てられるが、右手で装飾品を外されて露

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Valkan Raven #2-1

 「勘違いするな」はあいつの口癖。実際に何をと具体的に言われた事は少ないけれど、どうやら私は何かと勘違いをしてしまう癖があるらしい。
 他人の勘違いには生きている内に敏感になってしまった。薄っぺらい嘘吐きと決め付けを誰もかれもが投げ合っているのは、気持ち悪くてもう沢山。それはこの異質な『数字の世界』で出会った人達も殆どが感じているだろうと思う。そう決め付けてしまっているのも私の勘違いでしかないのだ

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Valkan Raven #2-0

 「生きる」という事の意味を生きている内に忘れてしまうのは、頻繁に起こり得るが本来はあってはならない事である。
 「死ぬ」という事の意味は、自らが死ぬ時に深く知るのかもしれない。それは自分以上に生かそうと努めた他人のその時であったり、時には知恵を得た後に直面した死から逃れられる事もあったりするが。
 この非常に単純で尊い二つの宿命を疎かにした人達は、底無しに歪む世の中で果て無く末無く歪み混ざってい

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Valkan Raven #1-6

1-6

  鴉夢桜魅姫をアパートに帰らせると、鈴鷺璃音は田道で待機する。湿気を含んだ風が濡れた身体に纏わり付くが、生臭さは吸っている煙草の臭いが殆ど殺してしまっている。
 気まぐれな雨雲は夜闇に身を隠しながら流れていく。登場も滞在も存在すらも望まれていないモノは、自己陶酔の勘違いをしたまま真実を知ろうとせずに離れ去っていく。
 ――滑稽だな、まるで何処かの誰かのようだ。――見えない景色を鼻で笑っ

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Valkan Raven #1-5

1-5

 景色の消失した空間に靴音が響く。踵に埋め込まれた鉄板が一定のリズムで地を叩いていたが、音が唐突に止むと別の金属音が鳴る。
 銃声が弾けた水音と混じる。溝の中で漂っていた微小の光が砕けると、水が流れ落ちる音が2度する。
 再び靴音が鳴り始めると、音は急激に加速していく。毒の煙が辺りに振り撒かれると、煙草を噛んだ殺し屋は歯を剥き出して笑った。
 ――そろそろ風呂敷を畳もう、試験時間は数分が

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Valkan Raven #1-4

1‐4

 夜が更けるまで魅姫は璃音の部屋で過ごしていた。結局欲に負けて掃除をしたが、色んな意味で怖いのでギターケースと押入は触らなかった。
 夕飯は渡された塩味のカップラーメンを食べた。「飯炊き用だ」と言われてカセットコンロと調理道具も渡されたが、「コレを使えるか使えないかはお前の結果次第だ」と補足された。
 時計代わりのMacBookが布団の上に置かれていたが、左腕に付けている腕時計を見せると

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Valkan Raven #1-3

1-3

 ――1羽のカラスが、空を飛んでいる。
 真下に広がる繁華街が玩具の塊のように見える。隙間で狭苦しそうに蠢いている人間達は、砂糖に群がる蟻か増え過ぎて身動きが取れないシャーレの中の微生物のようだ。
 真上にあるのは果ての無い空。雲一つ無く、その美しい青は地にいる色とりどりの化け物達も、 天を漂う孤独な漆黒の化け物も拒む事無く包んでいる。
 舞い上がる桜の花弁が、下劣な世界に純潔の花言葉を

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Valkan Raven #1-2

1-2

 『指名型殺人掲示板』の管理人に指示された『帝鷲町(ていしゅうちょう)』は、関東地方のとある場所にある小さな町である。
 辺境に近く名産品も郷土料理も無いので、関東地方の人間すら名前を知らない者が多いらしい。と言っても関東地方なぞ、他の地方や外国からの移民と旅行者ばかりに溢れた出稼ぎと観光の土地なのだから、自分の住んでいる場所の情報を事細かに全て知っている人間は滅多にいないだろう。
 小

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Valkan Raven #1-1

#1

 1-1

 ――身体が、生臭い。――
 数十分前にクラスの女子達に振りかけられた牛乳の臭いは、公園の水だけでは取り切れないようだ。
 鴉夢桜魅姫(あゆおうみき)は空を見上げた。胸まである湿った黒髪が重々しく風に揺れる。歳に似付かない豊乳を持った容姿は小柄で決して醜くなかったが、色白の顔に付いた大きな焦茶色の瞳に、感情というものが欠落してしまっている。
 所々に白い染みが付いた制服は、胸

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