Valkan Raven #3-0

 ーー長くて怖い夜が明けて朝日が出てきてくれる度に、あの日アパートの屋根の上で、彼と並んで座っていた事を思い出す。

 訪れた夜の出来事が忘れられなくて震えていた私を、彼はいつも微笑みながら見守ってくれていた。家族にさえ存在を認められなかった私なのに、どうしていつも嫌がらずに居てくれるのかが、不思議でしょうがなかった。
 「この町に来る人は絶望した人だけだと思っていた」とつぶやいた時、彼は可笑しそうに笑った。そしてこう言って私を慰めてくれた。「まあそういう人はいるかも知れないけど。此処には俺は、今までから生まれ変わるために来た場所だから」
 私は絶望してこの町にやってきた。産まれてから今まで、生きている心地がしなかった。彼もきっとそうなのだろう。……でも、私は絶望しているのかそうじゃないのか分からない人を知っている。何も分からない故に、怖さと一緒に儚さを感じる人を知っている。

 私を此処に呼び寄せて、生まれ変わるきっかけをくれたあいつは、

 嘘を付く事は無いが真実を教えてくれない人。

 本当しか話してくれないが、何も本当が分からない人。