![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/121493771/rectangle_large_type_2_e300c4afb5e3b2771da826a31636c866.jpeg?width=1200)
あげてないのにあげ潮
ある特定の音楽や歌が、頭の中でぐるぐるまわる現象を、イヤーワームというらしい。
しばらく、自作の替え歌が頭から離れなかった。
銀歯くん さよなら
さよなら 銀歯くん
また逢う日まで
君は 僕の 友達だ
この世はおいしいものだらけ
君なしでは とても 生きて行けそうもない
約20年つれそった銀歯が、ある朝、突然出ていってしまったのだ。
かたいパンにそそのかされて。
わたしの心と奥歯には、大きな穴が開いた。
あれから一ヶ月、少し大きくなった銀歯くんがやっと帰ってきた。
歯がある。ちゃんと噛める。あじわえる。
先日静岡に行ったとき、目的買いしたこれをようやく開封できる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699677303620-4lHNatqwhP.jpg?width=1200)
かつて、シルシルミシルという、いろいろなことを深掘りして調査するテレビ番組があった。
グルメ系の企画によく出ていた、「とってもおいしいです」が決めゼリフのAD堀くん、お元気だろうか。
その番組の「隠れたご当地お菓子No.1決定戦」という企画の上位に入っていたのが、このあげ潮(しお)である。
1949年に創業した地元洋菓子店の看板商品だという。
包装も見た目もシンプルなこのお菓子が、とっても気になっていた。
番組で特集されたのは、なんと10年以上前。
思い出せた自分の記憶力をほめたいし、食べ物に対する執念を省みたい。
もとい、10年前なんてつい最近だ。ようやく、2000年がちょっと昔であることを受け入れたばかりである。
![](https://assets.st-note.com/img/1699677354359-WuOrbxYA36.jpg?width=1200)
浜松銘菓
果実、木の実のサクサククッキー
あげ潮
電報の文面のような、最低限の情報量。
昭和の体操服のような、白・赤・えんじのデザイン。
いにしえ感あふれるフォント。
むかしの児童書やカラー図鑑にありそうな、妙に説得力のあるフォント。
すこし日焼けした、ざらざらのページが似合いそうなフォント。
![](https://assets.st-note.com/img/1699677466564-QxGRPRPKPJ.jpg?width=1200)
裏側には商品の説明と商品名の由来が書いてあるのだが、白ベースに白文字なので、ほぼ見えない。
だが、隠し文字のようで興味をそそられる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699677424806-6tX7I41zmU.jpg?width=1200)
裏面表示は下のほうにあるから、ちゃんと読める。
約60年の歴史がある商品だというが、食品表示法の改正のたびに改版したはずだ。
それでも、ほかの部分のデザインはあえて変えていなさそうな雰囲気。
老舗洋菓子店の看板商品はかくありたい、という矜持を感じる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699677488381-ioVuJVxubK.jpg?width=1200)
あげ潮、というこってりした名前だが、油で揚げてはいない。
「浜名湖に潮が満ちてくるように、皆様のもとへ幸運が打ち寄せ、運気が上昇しますように」という願いをこめて名付けられたという。
浜松みやげといえば、まずはうなぎパイ。
こちらは、まったく隠れていないご当地お菓子である。
夜のお菓子、というキャッチフレーズは、ともすればあらぬ憶測をしてしまいがち。
しかしこれには「女性の社会進出が進むなか、家族がそろう夕食のだんらんの時間を大切にしてほしい」という願いがこめられているそうだ。
こういう情報はシルシルミシルで紹介していたはずだが、全然覚えていない。
10年の月日を思い知らされる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699677505218-cbnXgUlxyT.jpg?width=1200)
レーズン、くるみ、オレンジピールを練り込んだ生地に、コーンフレークをまぶして焼き上げた、絵本に出てきそうなクッキー。
コーンフレークの軽く甘い香ばしさと、パリパリの食感がそのまま残っている。
クッキー部分とくるみの香ばしさが、それに続く。
そのあとは、しっとりドライフルーツが一手に引き受ける。
レーズンの濃厚な甘みと、オレンジピールの華やかな酸味が、円熟した果実感をかもし出す。
大きさやかたちはふぞろいだが、おおむね500円玉くらいのサイズ感。
食べごたえがあるのに、バターをつかっていないからか、食感が軽いので次から次へと口へ運んでしまう。
見た目の素朴さに反し、味はカラフルではなやかだ。
ただ、ドライフルーツがぜいたくに大きいので、奥歯にシンデレラフィットしがち。
奥歯に穴など空いているときは、気を付けたほうがいい。
心を満たしながら、よかれとおもって奥歯のスキマまで埋めようとしてくる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699677525923-Y0neXpE1fq.jpg?width=1200)
銀歯くんが帰ってきてくれてよかった。
この一ヶ月、仮の詰め物がとれないように片側で噛んでいたので、何を食べても半分くらいしか味がしなかった。
いま、AD堀くんの決めゼリフ「とってもおいしいです」がイヤーワーム状態である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?