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あげてないのにあげ潮

ある特定の音楽や歌が、頭の中でぐるぐるまわる現象を、イヤーワームというらしい。

しばらく、自作の替え歌が頭から離れなかった。

銀歯くん さよなら
さよなら 銀歯くん
また逢う日まで
君は 僕の 友達だ
この世はおいしいものだらけ
君なしでは とても 生きて行けそうもない

涙くんさよなら改め、銀歯くんさよなら

約20年つれそった銀歯が、ある朝、突然出ていってしまったのだ。
かたいパンにそそのかされて。

わたしの心と奥歯には、大きな穴が開いた。

あれから一ヶ月、少し大きくなった銀歯くんがやっと帰ってきた。

歯がある。ちゃんと噛める。あじわえる。

先日静岡に行ったとき、目的買いしたこれをようやく開封できる。

奥歯がないときには不向きな様相

かつて、シルシルミシルという、いろいろなことを深掘りして調査するテレビ番組があった。

グルメ系の企画によく出ていた、「とってもおいしいです」が決めゼリフのAD堀くん、お元気だろうか。

その番組の「隠れたご当地お菓子No.1決定戦」という企画の上位に入っていたのが、このあげ潮(しお)である。

1949年に創業した地元洋菓子店の看板商品だという。

包装も見た目もシンプルなこのお菓子が、とっても気になっていた。
番組で特集されたのは、なんと10年以上前。

思い出せた自分の記憶力をほめたいし、食べ物に対する執念を省みたい。

もとい、10年前なんてつい最近だ。ようやく、2000年がちょっと・・・・昔であることを受け入れたばかりである。

背景選択ミス

浜松銘菓
果実、木の実のサクサククッキー
あげ潮

電報の文面のような、最低限の情報量。

昭和の体操服のような、白・赤・えんじのデザイン。

いにしえ感あふれるフォント。

むかしの児童書やカラー図鑑にありそうな、妙に説得力のあるフォント。

すこし日焼けした、ざらざらのページが似合いそうなフォント。

文字もえんじ色にしてよう

裏側には商品の説明と商品名の由来が書いてあるのだが、白ベースに白文字なので、ほぼ見えない。

だが、隠し文字のようで興味をそそられる。

ここは重要な情報

裏面表示は下のほうにあるから、ちゃんと読める。

約60年の歴史がある商品だというが、食品表示法の改正のたびに改版したはずだ。

それでも、ほかの部分のデザインはあえて変えていなさそうな雰囲気。
老舗洋菓子店の看板商品はかくありたい、という矜持を感じる。

からあげじゃないぞー

あげ潮、というこってりした名前だが、油で揚げてはいない。

「浜名湖に潮が満ちてくるように、皆様のもとへ幸運が打ち寄せ、運気が上昇しますように」という願いをこめて名付けられたという。

浜松みやげといえば、まずはうなぎパイ。
こちらは、まったく隠れていないご当地お菓子である。

夜のお菓子、というキャッチフレーズは、ともすればあらぬ憶測をしてしまいがち。

しかしこれには「女性の社会進出が進むなか、家族がそろう夕食のだんらんの時間を大切にしてほしい」という願いがこめられているそうだ。

こういう情報はシルシルミシルで紹介していたはずだが、全然覚えていない。

10年の月日を思い知らされる。

からあげじゃないぞー(2回目)

レーズン、くるみ、オレンジピールを練り込んだ生地に、コーンフレークをまぶして焼き上げた、絵本に出てきそうなクッキー。

コーンフレークの軽く甘い香ばしさと、パリパリの食感がそのまま残っている。
クッキー部分とくるみの香ばしさが、それに続く。

そのあとは、しっとりドライフルーツが一手に引き受ける。
レーズンの濃厚な甘みと、オレンジピールの華やかな酸味が、円熟した果実感をかもし出す。

大きさやかたちはふぞろいだが、おおむね500円玉くらいのサイズ感。
食べごたえがあるのに、バターをつかっていないからか、食感が軽いので次から次へと口へ運んでしまう。

見た目の素朴さに反し、味はカラフルではなやかだ。

ただ、ドライフルーツがぜいたくに大きいので、奥歯にシンデレラフィットしがち。

奥歯に穴など空いているときは、気を付けたほうがいい。
心を満たしながら、よかれとおもって奥歯のスキマまで埋めようとしてくる。

サクサクからのジューシー感は、からあげ

銀歯くんが帰ってきてくれてよかった。

この一ヶ月、仮の詰め物がとれないように片側で噛んでいたので、何を食べても半分くらいしか味がしなかった。

いま、AD堀くんの決めゼリフ「とってもおいしいです」がイヤーワーム状態である。

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