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たまらない鎌倉カヌレ
前はそんなに並んでなかったじゃない、とすこしさびしくなる。
先日大阪に行ったとき、ダニエルの《うなぎの寝床》というチョコレートケーキを買おうと思っていた。
しかし、店外には開店前から老若男女とキャリーバッグの長い列ができており、あえなく断念。
ダニエルは、芦屋・大阪を中心に展開する洋菓子店である。
看板商品がカヌレなので、近年のブームが拍車をかけ、しらぬ間にりっぱな関西みやげに成長したようだ。
後ろ髪を引かれる思いで、大阪をあとにした。
カヌレも食べたかったなァ…
と思っていたところ、これもまたしらぬ間に、鎌倉の丸七商店街にカヌレ専門店がオープンしていたことを知る。
小町通りや若宮大路ではなく、丸七商店街というところがシブい。
ここは、鎌倉駅から徒歩3分ながら、昭和の風情を残しすぎている商店街だ。
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トタン、サビ、むき出しの鉄骨、手描きの看板、黄ばんだ蛍光灯。
建築基準法とか耐震性とか大丈夫なのだろうか、と心配になるような造りだし、昼間でも早朝のようにひっそりとしている。
「いらっしゃいませ」と書いてあるが、ほんとうにいらっしゃっていいのか。
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昭和33年にできたというこの商店街は、大通りに面しているわりに入り口が分かりづらく、街中ながら秘境めいている。
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地元のたまり場のような居酒屋や、むかしながらの精肉店、新進気鋭のベーグルの店など、新旧入り乱れている。
細く入り組んでいて、むしろこちらのほうがうなぎの寝床っぽい。
そのカヌレの店も、今年オープンしたばかりだった。
カヌレの独特のかたちと、千世ノ菓の「千」を組み合わせたであろうロゴがかわいらしい。
カヌレを一時のブームで終わらせたくないという想いで、「千代」ノ菓という店名になったという。
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わずか3畳ほどの店内は、店員さんひとり、客ひとり、で満員。
店というより、カヌレの部屋におじゃましているような感覚になる。
狭すぎて、人がたまることはできない。
木枠の番重の中には、5~6種類のカヌレが並んでいた。
4種類購入したところ、「見た目がほぼ同じなので」と、ご丁寧にふせんをつけてくださった。
わたしが持ち帰り時に振り回さないかぎりは大丈夫だ。
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箱を開けたら、これまた丁寧に仕切が入っていた。多少の振り回しは大丈夫。
左から時計回りに、プレーン、バニラ、コーヒー、紅茶。
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確かに、判別できない。
大きさ、見た目はごく一般的なカヌレである。
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横からみると切り株のようで、真上からみると小花のようで、天面のくぼみにたまったシロップは、潮だまりのよう。
カヌレは「溝のついた」そのかたちが名前の由来になっているので、どの店も基本的なかたちは同じだ。
天面にトッピングしたり、カラフルなアイシングをしたりして映えさせる店が多い中、ここまですべてシンプルなのもめずらしい。
無添加・厳選素材をうたっているので、よほど味に自信があるのかもしれない。
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カヌレの標準仕様は「外はカリッと、中はもちっと」と聞く。
見た目は似ていても、その食感は店ごとに差があるように思う。
もっちり感が強すぎるとお腹にたまるし、スポンジ感が強めだとこれはカヌレと呼んでいいのか、と疑問がのこる。
外皮が厚すぎて、モソモソするときもある。
さて、千代ノ菓のカヌレはどうか。
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半分に切ってもつぶれないし、見た目からもちもち感がつたわってくる。
なんなら、ぷるぷる。
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それほどお腹が空いていたわけでもないのに、あっという間に食べてしまった。
外皮は薄めで、一瞬カリッとパリッとしたあとにいつの間にかなくなる。
肝心の中身は、もちっと言うよりぷるっとしっとりしている。気候にもよると思うが、水分量が多いのか、飲み物なしでぺろっといけてしまう。
プレーンはとにかくラム酒の香りが効いていた。味がしっかり深いのも、ぺろっといけた理由かもしれない。
本場ボルドーの味ってこんな感じなのではないか、と思った。
行ったことないけど。
そのまま、立て続けに紅茶にも手を伸ばした。
わかりやすい紅茶フレーバーではなく、ほんのり香る程度なのがいい。
いろんな意味で、たまらないカヌレである。
ちなみに、この店の向かいにはミニチュア専門店があり、小柄なウルトラマンが門番をしている。
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千代ノ菓のレジ上にも、この店で調達したとおぼしきミニチュアカヌレが置いてあった。
そのとなりは空き店舗なのか、これでもかというくらい立ち入り禁止の貼り紙が。
この商店街は場所が場所だけに、あたらしいお店は入れ替わりが激しい一面もある。
まだ知る人ぞ知るお店だが、今後、ダニエルのように鎌倉みやげの定番になるだろうか。
数年後、ここに長蛇の列ができて人がたまっていたら、それはそれでちょっとさびしくなるかもしれない。
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