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花火のサンドウィッチ

東京駅の京葉線ホームは、嘘みたいに遠い。
新幹線からの乗り換えだと、およそ20分かかるという。

東京駅から京葉線に乗るひとの多くは、ディズニーランドに向かう。
現実から夢の世界へのトンネルとして、このくらいの距離はあっていいのかもしれない。

その手前にある商業施設、グランスタ京葉ストリートエリアも、結構な夢の島である。

いま流行りのカヌレの専門店をはじめ、駅弁、総菜、鮮魚店、パン屋、雑貨、花屋など、多種多様な店が一区画に集結。

《Butz SANDWICH》をのぞいたところ、見逃せない商品がならんでいた。

《クリームチーズ&チキンのサラダ 清見オレンジ使用》のサンドウィッチ。

クリームチーズとチキンだけでも垂涎ものだというのに、そこにニッポンエールと称して国産オレンジの清見を挟んでくれたそうだ。

柑橘には目がない。

清見オレンジは、鹿児島原産とされる温州みかんとアメリカのトロピタオレンジを掛け合わせたもので、オレンジのような香りと、あふれる果汁のまろやかな甘さが特徴。

意気揚々と手に取ったものの、肝心の清見さんの姿がみえない。

このオレンジはゆで卵とキャロットラペ

プライスカードの位置がずれていたり、先客がちがうところに戻していたりして、求めているものとちがう商品を連れ帰るミスに見舞われがちだから、裏面を確認しなければ。

サラ・・・?

清見さんの姿がみえない以前に、品名が堂々と《サラダ》。

ひとり時を止めていると、店員さんが「お日持ちは明日朝9時までです~」とやさしく声をかけてくれた。

わたしの購入の決め手は清見さんの有無なので、多少消費期限が短くてもかまわない。

清見さんが入っているなら、どうみてもサンドイッチに見えるサラダでもかまわない。
多様性の時代だから、と強引な主張をされても、甘んじて受け入れる。

目を凝らして原材料欄をみたところ、キャロットラペとゆで卵の間に《清見オレンジ(国産)》としっかり書いてあった。
疑ってすまない。

近頃はロゴに表情をはさむのが流行っているのだろうか。Uのうえの点々が目のようで、こちらにニッコリ微笑みかけているように見える。

片手におさまるほどのサイズだが、パンがたわむほど具材がぎっしり。

とてもきれいだ

紫キャベツの紫と、グリーンリーフの緑、中性色どうしの補色コントラストがあざやかで、蒸し鶏の薄ピンク、ゆで卵の山吹色、キャロットラペのオレンジ、の暖色グラデーションをひきしめる。

パンにめりこむ具材

清見さんは、キャロットラペの上にひかえめに乗っているつぶつぶだろうか。ペーストやソースではなく、ピールで入っているようだ。

ニッポンエールとのコラボ商品のニッポンエールたる部分だというのに、やはり見た目では清見さんの存在感が薄い。

清見さんがんばれ、とエールを送りながらかじりつく。ニッポンエールってそういうことなのだろうか。

紫キャベツとグリーンリーフのみずみずしさ、キャロットラペのほのかな甘み、ゆで卵のほろほろ感、クリームチーズのなめらかさ、蒸し鶏のしっとり感。

全体的に、朝のねぼけた胃にやさしい。

たっぷりの具を頬張りながら、ああこれはサンドイッチというよりサラダと言ってもいいな、と思っていると、突然オレンジの香りがパッと弾けた。

柑橘特有の華やかな香りが、やさしくまろやかな味わいの背中を押すように彩る。それでいて、酸味が少ないから後を引かずスッと消える。

オレンジの語源は、「香り高い」を意味する言葉だという。
姿は見えねど、素材のいいところを最大限に後押ししたサンドウィッチであることは間違いない。

清見さん、夜空に打ち上がった花火のようだ。

めぐり逢えたことでこんなに世界が美しく見えるなんて、君に心からありがとうを言うし、もう1回もう1回、何度でも君に会いたいし。

花火の炎色反応のようにも

そういえば、今はどうかわからないけれど、ディズニーランドも夜になると刹那に花火があがっていた。

グランスタ京葉ストリートから、夢の島へのトンネルは始まっているのかもしれない。

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