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「動き」のメタ認知〜WELL-BEINGを感じるための「目」のワーク

「見る」という動きは、世界を理解し、生活していく上でも、創造性を発揮する上でも大切な体験の源です。つまり、ウェルビーイングに直結する行為です。

ウェルビーイングであるために目はどんな状態であれば良いのでしょうか?

一つあげるとすれば、目を快適に動ける状態にしておくことです。

目は常に動いています。

例えば、サッケードと呼ばれる瞬時の眼球運動が、文字や物体を追跡したり、周囲の景色の情報を取り入れる際に起こっています。
自動車免許がある方は、教習所でこのような動画で講義を受けたことがないでしょうか?


ドライバーは周囲の情報をキャッチするために、眼球を盛んに動かしている様子が、アイトラッカーの軌跡からそれが確認できます。
特に初心者ドライバーは、近くのものに注意が集中し視野が狭くなり、緊張しながら運転している様子が分かります。(2分30秒あたりの様子)。
一方、優良ドライバーの視線の動きは、近くだけでなく遠方やミラー、歩行者にも目が行き来し、注意の幅が広がり余裕を感じさせます。俯瞰して状況を把握している様子がわかります。
どちらがウェルビーイングな状態を引き寄せるかと言われれば、優良ドライバーのような目の動きでしょう。

目の固定化と眼圧の関係

目に緊張を生むと眼球の動きは固定化されていきます。
例えば、長時間のスマートフォンの使用のように、至近距離の非常に小さなディスプレイに視線をやり二次元情報を長時間注視することは、目に負担をかける習慣であり、目の緊張状態を生んでいます。
この視線の固定化が続くと、近視になりやすいです。

近くのものに焦点を当てることは、眼球のレンズ(水晶体)が変化することでも調整がなされるのですが、近視の方の眼球は、眼軸が長いことも知られています。

図1のように眼球自体が楕円形のようになると、網膜に焦点が当たらずに手前で像を結んでしまう状態になります。

図1 軸性近視

アメリカの眼科医、ウィリアム・ベイツ(1860-1930)は、「近視者の場合、外眼筋が高い緊張状態にあるために眼球が変形し、それによって視野のぼやけが生じると論じました」注)(1)

外眼筋は、下図のように眼球を四方で覆い尽くすように筋肉で、協調的に働いて眼球を動かしています。近くばかりをみていると外眼筋の使い方に癖が生まれるでしょう。細かい字を見るときは特に内側へ引き寄せるので、内直筋が緊張状態を強いられるかもしれません。

図2 外眼筋(Encyclopaedia Britannicaより)

また、目は自律神経系の影響を直接に受けています。交感神経系が働くストレス下では、アドレナリンの影響により瞳孔は拡大し、血液は影響を受け眼圧は高まります。

危機的状況にいて、戦うか逃げるかの場面ではもちろん瞳孔は拡大しますし、刺激が強い動画、事件性のニュース記事でも反応してしまいやすいでしょう。

図3 目は自律神経系の支配を直接受け瞳孔を調整している
McDougal DH, Gamlin PD (2015)より(2)

「見える」という体験を考慮すると、もちろん局所的に目のことにフォカスすることも大切ですが、体験は、注意や認知、情動や姿勢からの影響も受けるので、目と体全体の反応や繋がりを俯瞰することが大切です。

では、どうすれば目をよりよく使っていけるのでしょうか?


目のパーミングと「動き」のメタ認知


先日、THE WELL-BEING WEEK 2023にて、「動き」のメタ認知〜WELL-BEINGを感じるための「目」のワークを開催しました。

意図としては、Zoomで画面を見る講義をなるべく減らして、半分以上の時間は、仰向けで寝て、声かけの誘導で、それぞれが自分の目や「からだ」との繋がりを感じていくようなワークをしました。興奮した視神経をやすませるよう、神経系の興奮と抑制のバランスを回復するために、ノイズを目から光の刺激を少なくするために、パーミングという手法を使いました。
パーミングとは、「額の上で指先を交差させ、閉じた目の上に掌を軽くのせるメソッドのこと」(2)です。眼球を圧迫しないように、両手でカップ状にし、光を完全に遮断します。
こうすることで、暗闇に意識を集中させ、眼球周囲の緊張を和らげることに役立ちます。

当日のアーカイブは残ってはいませんが、you tubeに似た音声は作成してありますので、記事の最後に添付しますので、よければ試していただけたら嬉しいです※。

ワークの旅路の後、参加者からは、

「途中、光の粒の残像がたくさん見えはじめ、そこに意識が向いてゆくと虹彩のような筋が見えてきて、ちょうど円を描く指示が来たところから全体に境界のないもやのようなイメージになりました。最後はやさしいテクスチャーになって、座って目を開ける頃には目のあたりが軽くなった気がしました。」

「ボーダー柄など、やる前よりもくっきり見える気がします!」

「不思議な感覚拡張体験でした」

「座ったら、視野が広がっているのに驚きました」

などなど、言語化できるのはほんの一部かもしれませんが、感想をいただきました。ました。それぞれの感覚体験も違うのも面白いです。
本当に身体は奥が深いし、変えていく力が自分の「からだ」には備わっています。ご参加いただいた方、ありがとうございました!


日常の暮らしの中で、ほんの少しだけでも目の使い方に意識を向けてあげることは、姿勢や行動が変化していくきっかけになります。
自分の「からだ」がもつ豊かな感覚を味わい、well-beingへのプロセスのヒントになれば幸いです。
よい眠りで、よい明日が来ますように。

注)
<付記>
ベイツは、近視の問題を根本的に解決するために、メガネでは眼精疲労や近視が維持されてしまい効果がないと考えました。彼は目の緊張が視力低下に影響していることに注目し、パーミングのような主観的な経験を通じて視覚を訓練する方法を提案しましたが、同業者からの反発を受け教職から追放されました。
彼は外眼筋が眼球の長さを調整し、焦点を変えることを実証しましたが、現在の眼科学の主流は、視力低下を目の形状や屈折異常が主な原因であり、筋肉の緊張とは直接関係がないとする傾向があるようです。また、ベイツのコンセプトの効果を実証する大規模な研究や詳細な実験が行われておらず、医学的根拠が不十分とされています。
私が身を置いているリハビリテーションやソマティックの分野では、クライアントの主体的な経験や個別性を重視しています。大規模な研究をデザインし、効果を実証することはなかなか難しいですが、科学的知見を駆使しつつ、クライアントの独自性を引き出す方法を模索しています。
サイエンスとアート、エビデンスとナラティブのバランスは大切ですが、自分の行動の質を高めるためには、自信をもって選択していく力が必要で、そのために俯瞰すること、行動の源である「動き」をメタ認知することが、大きな助けになると考えています。
 ただ、関係性の中で体験を創造していく場であれば、患者-医療者関係、生徒-教師関係という非対称性を留保して、「学び」に高め、お互い探究していくことで、新たな「気づき」につながると思います。
 身体への負担を軽減するパーミングの手法を考案したベイツと、それを発展させたフェルデンクライスに感謝の念を捧げます。

※暗がりを探し目をやすめるのyoutube



<参考資料>
(1)ノーマン・ドイジ(2016)「脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線」,紀伊國屋書店.
(2)松田好子(2017)「いろはシートを見るだけで眼がよくなる!ベイツ式 奇跡の視力回復メソッド」,宝島社.
(3)McDougal DH, Gamlin PD (2015),”Autonomic control of the eye”.Compr Physiol.
(4)日本自動車工業会「自分の運転を振り返るー「運転の自己評価2 運転中の視線の動き」you tube動画


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