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■三州製菓 斉之平伸一  × FeelWorks前川孝雄 対談/管理職ではなく支援職。 長期視野のボトムアップ経営で真に人が活きる


※この記事は2016年に取材・制作したものを転載しています。

三州製菓株式会社/高級米菓(せんべい、あられ)、高級洋菓子(揚げパスタ、サブレ)の製造販売を手掛ける埼玉県の菓子メーカー。創業は1947年。斉之平伸一社長は、松下電器産業株式会社に5年間勤務した後、1976年に父親が創業した三州製菓に入社、1988年に社長に就任。社長就任当時の売上げは7~8億円だったが、デパート、専門店、テーマパークなどへの OEM 製造を中心としたニッチトップ戦略と、現場の人材を育てるボトムアップ型の組織作りによって経営改善に成功。2015年6月期の売上高は25億132万円。売上げの30%を発売から3年以内の新商品で占めることを目標に掲げ、「揚げパスタ」「米粉バウムクーヘン」などのオリジナル商品を次々に生み出してきた。福祉や教育などの社会事業も力を入れる企業家を表彰する「第14回渋沢栄一賞」、経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」など受賞歴多数。従業員数は246人。そのうち女性が182人、非正規従業員が181人(2016年2月現在)。

■「一人三役」「正社員登用」などで、女性が大活躍


埼玉県春日部市に本社を置く三州製菓株式会社は、経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」、厚生労働省「子育てサポート企業」を受賞するなど、女性の活躍を推進する企業として高く評価されている。

同社の製品作りは製造現場で働くパートタイマーの女性従業員に支えられている。そのため、同社では、世の中でダイバーシティが話題となるずっと以前から、パートタイマーを含む女性従業員の力を引き出し、長く安心して働き続けられる組織作りを徹底して行ってきた。

代表的な取り組みの一つが「一人三役制度」。例えば、総務の一人ひとりがメインのスキル以外に応援できるレベルのスキルを2つ、身につけることにより、誰かが育休を取得して現場を離れても、すぐに他の従業員がフォローすることができる制度だ。育休を取得する際には「自分の代わりがいる」ことへの安心感があり、「次は自分がサポートしよう」という助け合いの精神も育まれる秀逸なシステムだ。

また、パートタイマーを対象とした「正社員登用制度」も同社のダイバーシティを象徴する制度。同様の制度はあっても、ほとんど機能していない企業も多いが、同社では女性正社員のうちなんと31%がパートタイマーからの登用組だ。パートタイマーから正社員となり、課長にまでステップアップした事例もあるという。

これらの取り組みを見てもわかるように、三州製菓は単に「女性の働きやすさ」を整備するだけにとどまらず、「女性の働きがい」も同時に追求してきた。そこでは正規・非正規の雇用形態の壁も取り払われている。背景には斉之平伸一社長の次のような考え方がある。

「当社の社志は“すべてのものを真に活かす”。一人ひとりの潜在的な能力を引き出していくことが、会社としての目標であり、それは私個人にとっての目標でもあるのです」

埼玉県の教育委員長を務めた経験もあり、現在も中学校、高校、大学などで、外部のスピーカー、講師として教壇に立つ斉之平社長は、経営者であると同時に教育者としての顔も持つ。「人を育てる」ことは斉之平社長にとってのライフワークなのだという。

■マネージャーは“支援職”。逆ピラミッド型の組織を形成


社長就任当初、経営改善のために斉之平社長が取り組んだのは、ニッチトップ戦略など戦略面での仕掛けと人材育成だった。一人ひとりが社長のように考え、主体的に動ける自律型社員を育てたい──。成長前夜の状態にあった三州製菓にとって必要なことと社長の個人的な思いがそこで一致した。

消費者のニーズが多様化するなかで、斬新な新商品を開発するには女性のアイデアが不可欠だという考えもそこにはあった。製造業では特に根強かった“男性正社員中心主義”では時代の変化に対応できない。そこで、現場で働く女性の能力を引き出せる組織へと大胆なシフトチェンジを図ったのだ。

しかし、上からの号令や単なる制度改変だけでは、働く人たちのマインドは変わらないし、容易に自律型の人材は育たない。三州製菓の改革を成功に導いたのは、徹底した“ボトムアップ型”の組織作りだ。

「当社の組織図は、最上位にお客様があり、その下に従業員、さらにその下に支援職(マネージャー)、そして社長がいちばん下に位置する逆ピラミッド型です。最も大切なのは現場の発想や自主性。上からの指示・命令で人を動かすのではなく、現場を下から支えるのが当社のマネジメントです。上司は管理するのではなく、従業員に権限を与え、自由に仕事をさせることが役割ですから、“支援職”という呼称を使っています」

“下から支える”ために重要なのがコミュニケーションだ。

例えば、同社では、部下にミスがあった場合、社長も支援職も頭ごなしに叱ることはしない。なぜミスが起きたのかを部下と話し合い、業務改善につなげていく。また、適材適所の人員配置にも気を配っている。一人ひとりの強みを日々の“聴く”コミュニケーションを通して把握し、それぞれが能力を発揮できる役割や業務を与えていく。

■企画部門は全員女性。会議では「男性発言禁止タイム」も!


次に現場の知恵を活かすための同社の工夫を見ていこう。

企画部門は現在全員が女性。しかし、新商品の企画やネーミングのアイデアは常に全社的に募集しており、誰でも発案することができる。いい企画があれば、パートタイマーでも派遣社員でも企画会議に参加できる。

「ただし、上層部の男性が会議を仕切ってしまうと、女性は言いたいことがあっても発言しにくいものです。そこで、会議では男性の発言を禁止する時間帯を設け、女性が自由に発言できるようにしました。また、新商品のアイデアに関しても、私がいいと思うかどうかではなく、女性従業員の反応を重視しています」

「1人1研究」という制度もユニークだ(上写真)。

パートタイマーも含む全従業員が、年間に1つ、自分で見つけ出したテーマ(業務から離れたどのようなテーマでも良い)を研究し、全社的にプレゼンテーションするという取り組み。実際に製造工程の効率化などに採用されたアイデアも多数あり、現場の日常的な気づきを改善に反映させる仕組みとして機能している。

委員会活動も従業員の自主性を引き出す仕掛けの一つ。「クレームゼロ」「男女共同参画推進」など、5~6人で構成される13の委員会があり、権限と予算を委譲。これまでに、中小製菓業界で初めてとなるトレーザビリティシステムの導入など多くの成果を残している。

そのほか、毎月最も優れた働きをした従業員を従業員同士で投票して選出し、賞金を出す「月間優秀従業員制度」、お互いに助け合った事例を朝礼で自ら発表し、優秀なものを表彰する「一日一善制度」も従業員のモチベーションアップやチームワークの醸成に貢献している。

従業員が“社長のように考える”ことを促すための仕掛けはまだある。月次決算は全従業員にオープンにされ、月次の業績連動賞与や決算賞与はパートタイマーにも与えられる。自分の収入に直結するから、誰もが常に経営や売上げに高い関心を持つようになるというわけだ。なお、発行株数に限りがあるため、持ち株会への参加は正社員のみだが、社債はパートタイマーも購入することができる。

■ボトムアップ型経営は日本人の気質にマッチしている


「企業経営にとって最も大事なことは良い企業風土を作ることです。お互いに助け合い、チームワークで困難を乗り越えていく、常に新しいことにチャレンジし、改善していく、全員で情報やノウハウを共有し、お互いに学び合う。そのような土台がなければ、どんなに優れた戦略であっても実行することはできません」

企業風土を醸成するのは一人ひとりの従業員の意識であり、行動である。だからこそ、斉之平社長はじっくりと時間を掛けて人を育てる。上から命令するのではなく、メッセージを発し続けることで、自ら気づき、理解することを促す。

そんな斉之平社長の座右の銘は「開示悟入」だ。

「“開”は心を開かせるという意味です。こちらがどれだけ熱心に話しても、相手が心を開いていなければ学びにはつながりません。心を開いた相手に説明をすることが“示”、それを腹の底まで理解することが“悟”、そして、学んだことを意識しなくても日々の生活で実行できるようになることが“入”です。そこまでやって、知識は知恵になるのです」

もともと日本の農業は家族経営が基本。小規模な現場の組織が自律的に動くことによって産業が成り立っていた。そこには現場の知恵があり、誰に強制されずともルールを守り、助け合うチームワークがあった。そんな日本人の潜在能力を引き出すには、トップダウン型より、現場優先のボトムアップ型経営のほうが適していると斉之平社長は言う。

三州製菓では、毎年従業員一人ひとりに「事業計画」手帳を配布している。そこには、同社の経営理念、事業計画が記載されており、月次決算などの数字を記入する欄もある。ここまでに紹介してきた同社の考え方や取り組みが集約された一冊だ。その1ページ目には、一人ひとりに向けて社長直筆の期待と感謝の言葉が記されている。

斉之平社長が追求する新しい日本型経営を支えているものの一つは、経営者と従業員との、そんな細やかな配慮のもとに成り立つ、日本人らしい“つながり”なのだ。

【前川孝雄の取材後記】

主役は現場!日本的経営の強みを活かす「下から支える」リーダー

 世界でもまれに見るほど長寿企業の多い日本。かつての日本企業には、長期視野で人を大切にする風土があり、人を育てる力もあった。しかし、アメリカ型の株主至上主義やグローバル化の波にのまれ、短期的な利益最優先の経営が台頭することにより、古き良き日本的経営は失われつつある。しかし、時計の針を戻すことはできない。懐古主義に陥ることなく、温故知新で日本の強みを活かせる経営とは何か──?これが、今、日本の経営者に突きつけられている課題である。

 斉之平社長の“現場の知恵”を大切にするボトムアップ型経営は、まさに日本企業が目指すべき一つのモデルだ。斉之平社長が若き頃に務めた松下電器産業創業者・松下幸之助翁が重要視した衆知経営にも通ずる。この衆知を、女性をはじめとし性別や雇用形態にとらわれず、現代ならではの多様な働き手まで飛躍拡大させた観点が注目に値する。まさに社志にも掲げられる“すべてのものを真に活かす”の徹底である。

また、これらの経営思想の根幹にあるのは、渋沢栄一が提唱した合本主義だという。合本主義とは「使命や目的を達成するのに最適な人材と資本を集めて事業を推進すること」。“資本”と“人”、その両方の視点を両立させることこそが、今、求められているのだ。

 そのために必要なものの一つは長期的視点である。同社は人材育成のみならず、同様の長期的視点で教育や福祉などの社会貢献活動にも力を入れている。短期的には利益につながらなくても、そこで蒔いた種が地域を活性化させ、地域の信頼を地道に得ていけば、いずれは会社にとってもプラスになっていく。最近は、目先の利益にとらわれた企業が、社会や従業員からの信頼を失っていく姿を目にする機会も多い。経営者が社会に目を向け、未来を見据えること。その意味を見つめ直すべき時代に来ている。

 同時に、時代の先を読み、臨機応変に変わっていくことも今の経営には必須だ。三州製菓は、現在女性管理職が27%に達しており、2030年には35%をめざしている。国の目標を上回る数字だ。また、女性活躍推進法の施行に伴い、企業規模的には義務ではないのだが、率先して行動計画の届出を行った。時代に追従するのではなく、自らが先導して時代を作っていく。そんな気概やスピード感、柔軟性も三州製菓の強みといえるだろう。

 取材時には予定にはなかったものの、斉之平社長のご厚意で、社内フロアを案内して頂いた。取材陣が突然訪れたにも関わらず、全社員が立ち上がり笑顔で挨拶をしてくださった。その大半が女性。その活気とおもてなしの雰囲気がとても印象的であり、ボトムアップによる自律型社員の活躍を実感できた。

 対談をするなかで、斉之平社長の穏やかな人柄にも感銘を受けた。自らのカリスマを前面に出してトップダウンで組織を引っ張るほうが有能な経営者にはやりやすい方法かもしれない。しかし斉之平社長は、「現場が主役」という考えのもと、穏やかに組織を下から支え続ける。これこそが、新しい日本型経営にマッチしたリーダー像なのだと改めて感じた。

構成/伊藤敬太郎

すべては、日本の上司を元気にするために。

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