細谷功著(2016)『無理の構造 この世の理不尽さを可視化する』dZERO
『具体と抽象』を読んだ後だとわかりやすい
先に読んだ『具体と抽象』に引き続き著者の本を読んでみた。
世の中の不条理や理不尽と感じるものの多くが、世の中が悪いのではなく、自分の頭の中の理解が悪いのだというテーゼということで、これから老害の道を歩きそうな自分にとっては丁度よい題材の本なのかも知れない。
本書の構成はやや分かりにくくて、まずは物理的非対称性、知的非対称性、心理的非対称性について言及し、その後、時間的非対称性として時間的不可逆性とストックの単調増加性、空間的非対称性として自分他人の非対称性と見えているいないの非対称性が語られる。これだけ見ると、なんて難しい内容だろうと思われるが、実際に読んでみるとそれほどでもない。
本書では、具体の個別事象から法則を導き抽象度を上げることに帰納、抽象から法則を様々な事象に当てはめ具体化することを演繹と解した図(p.28)を掲げており、この図は理解促進に大きく寄与すると感じた。
また第4章にて「わかっているつもり」を二円図で表すところで、分離、交差、包含という重なり具合、これに大小関係を加味した9つのパターンが図示され、単に理解するという感じ方においても、その理解の仕方がかなり違うことを例示しており、なかなかにわかりやすい解説だと思った次第である。
第10章の上流・下流の法則というのも面白い気づきがあった。川の流れをアナロジーに使うと、確かに上流では岩のように大きくて尖っていて形がみな違う。対して下流では小粒で丸くて皆同じ形をしている。上流ではコンセプトなど抽象度の高いことが議論されるが、下流では個別具体的な目標や施策に基づいて作業されるわけで、作業工程においても組織においても、このアナロジーの使い方は理解しやすいと感じた。
第12章ののこぎりの法則も、ルールや規則、信号機の数、電子機器の機能やマニュアルなど、一度増えだすと減ることが無い。著者は、これらの技術や機能がやがてニーズを追い越してしまう、これをプロのこだわりというか細部の作り込みと言うのか、結果的に利用者が置き去りになることを憂いてしまう。
第13章の折り曲げの法則で、わたしたちが対極だと思っていたことも、実は紙一重であることがあることを見事に図示している。この辺の解説は本書を読むためのお楽しみとして、ここでは明かさないが、イラスト風にかかれた図が随所に出てくるが、これが理解促進に役立つ仕組みになっている点が、本書の面白さの1つかも知れない。
第15章では、いわゆるネット批判として現れている指摘に関しても非対称性として納得できる解説が加えられている他、第16章以降の意味の共有や公平という幻想、物事の概念が見えているのか見えていないのかの非対称性による認識の違い、経験則の幻想など、コミュニケーションや物事の理解をする上で、理解しておかなければならないことが、この本には書かれてあり、全体として無理の構造を成していることがわかる。
最初から本書を読むと、とっつきにくい感じがするかも知れないので、事前にこの著者の『具体と抽象』を読んでから、続けて読むと理解促進につながると思われる。コミュニケーションや意思疎通を重視する職業に就いている人は一読していても良い気がする。そんな本だった。