SBMを勉強してみた Part 11(完) ー私が思ったこと、感じたことー

過去10回にわたって紹介した「SBM(science-based medicine)について」のレクチャーは、私がエビデンスベースで鍼灸マッサージ、骨格筋痛について考えるようになってからの多くの疑問に答えてくれました。そしてますます「エビデンスと科学に基づいたマッサージ」の普及(「マッサージを見直そうキャンペーン)」に励みたいとも思いました。とはいえ、あいも変わらず「◯◯が治る」といって鍼を打ったり、筋硬結を”緩めたり”、関節を矯正していると”主張している”人達を私は否定はしませんし、ブログ等で非難や批判はしません。距離を置くだけです。(私の友人や家族が病気や痛みを治してもらうために、そのような代替医療に頼ろうとしているのであれば、色々と説明はしますが。)

このSBMのレクチャーは、有料ブログ読者でない方々にも、なんとか字幕を見つつ、辞書を引きつつ見てほしいです。またTEDトークでも多くの科学に関するトークが紹介されており、有志達が日本語字幕を付けてくれているサイトもあり、それらを見る事も役に立つと思いますので、紹介します。(特にコロナウイルスのワクチンに関する話もネット上で多くでているの現状、科学について再考する上で参考になると思います。)

まずひとつめは、科学全般について。

ふたつめはベン・ゴールドエイカーの製薬会社がいかにデータを悪用しているかの説明。「代替医療のトリック」(「代替医療解剖」)の著者の1人Simon Singh氏に以前、信頼をおけるエビデンスをどうやって探し出せばいいのかの質問(下にその返答があります)をした時に、Singh氏も「ビッグファーマ(大きな製薬会社)がだすデータは信じない」って言っていました(笑)ちなみにSimon Singh氏が「代替医療のトリック」で批判したカイロプラクティックですが、イギリスカイロプラクティック協会から訴えられました。最終的にはSimon Singh氏が勝ったみたいです。(日本語のリンク)

次に、脳科学がいかに単純なものじゃないかの説明。以前、youtubeで「鍼を深く刺すと、脳の島皮質の細胞が活発になるので、痛みの抑制によく効く」というビデオを見て、「ああ~、だから深刺をしたほうがいいんだあ!」と思ったのですが、間違いっぽいです(笑)。また以前「Explain pain」のコースに参加した時、講師に「ある鍼治療のグループは、鍼を刺したら脳細胞のある部分が活性化されるから、その鍼の手法は効果があると謳っているが、どう思う?」と質問したら、その講師は「うーん、何をやったって脳細胞は活性化するんだよなあ・・・」と言っていました。その詳しい理由は下のビデオをみたらわかります。あと以前のブログでも紹介した「インテロセプション」の話も、そうは単純ではないということです。(超簡単にその説明をすると、肌を撫でるような軽いマッサージは、C-t線維を刺激し、それが島皮質に伝わる。島皮質は痛みと関連が強いので、マッサージは軽い刺激のほうがいい、でした。)

TEDトークには科学、医学に関する専門家のトークが数多くある中のたった3つですが、それらを見てまだ尚

「俺の患者は、みんな俺の治療で治っている!(と実は思っている)」
=「俺の経験では」

と思う人にはもう何も言うことはありません・・・。


ここからは、各回で私が印象に残ったことを書き連ねていきます。

まず第1回目のレクチャーで、「私の経験では(in my experience)」が非常に危険な言葉だと再認識しました。特に治療家が「私の経験では、(例えば)胃の痛みに足の三里への鍼や灸が効くから、やりましょう」という事が果たしてどうなのか・・・。他にも「"良くなった"と"治った"は違う」とか、「相関関係と因果関係は違う」など非常に勉強になりました。それらを混同している治療家がほとんどではないでしょうか?それとこれがこの回の一番のメインでしたが、「EBMとSBMの違いについて」。エビデンスの妥当性は時代とともに変わる。エビデンス重視の考えは非常に危ない。エビデンスベースドメディシンは事前確率(prior probability)を考慮していないので、大問題だ、でした。詳しく知りたい方はレクチャーを見てみてください。

第2回、代替療法側の問題点、それは代替療法家は科学を全く理解していないこと、そしてプラセボ効果について重要な指摘というか、実はほとんどの代替療法家が理解していないことであろう事が指摘されていました。またDr Hallの重要な指摘、「代替医療法同士が検証しあわない」もありました。私もかねてから、例えば鍼の例でいうと、ある流派は胃痛に◯◯穴を使う。しかし別の流派は◯◯穴を使って治す。結局どっちでもいいのか?片方が間違いなのか?がずっと疑問でした。他にも、例えば腰痛に対してカイロ側は◯◯関節を”矯正”して腰痛を治す。一方トリガー側は腰まわり筋肉のトリガーポイントを鍼やマッサージで刺激して治すという。少なくともトリガーで関節がアジャストされるとは到底考えにくい。逆の関節のアジャストでトリガーが「緩んだ」、「治まった」、「不活性化した」と言えるのかもしれないけど。これらの矛盾点をどう考えたらいいのか?もしかしたら別のこと(たいていはタッチ効果と演劇型プラセボ効果なのでしょうが)がきっかけとなって、症状が「良くなった」(治ったのではない)のではないかと思っていました。

第3回、カイロの”成立過程”、歴史、解剖学などが面白かったですが、やはり「確率は不明だが脳卒中を起こすテクニックがあいも変わらず行われているのは意味不明。もしある薬が年に数例ででも脳卒中を引き起こすのであれば、その薬はまず使用禁止にされるであろう」というDr Hallの指摘にはハッとしました。

第4回はなんと言っても、嘘か本当かは私にはわかりませんが、鍼の歴史の話が面白かったです。昔のテレビ番組「EXテレビ」で、今は引退してしまった上岡龍太郎氏と西洋占星術の占い師の人とのやり取りを思い出してしまいました(笑)。ブログ内でyoutubeの動画を引用しようと思ったら、もう削除されてしまってましたが。そして鍼に関する結論は私には納得がいったし、我々「鍼灸あん摩マッサージ師指圧師」が本当に目指すべき方向が示されていたような気がしました。また第1回で少しだけ触れられていた「良くなった」と「治った」の違いをデータを元に説明していたのが非常に参考になりました。

第5回から第8回はいわゆる”インチキ医学”のオンパレード(笑)。ホメオパシーは論外中の論外として、私はホメオパシーの「問診」の手法を知らなかったので面白かったです。なぜかJulian Baker氏のBowen Techniqueでの問診方法を思い出しました(過去のブログでそれに触れてあります)。いい意味ではBPSに基づいた、悪い意味では「こじつけ」に近い手法の問診はちょっと考えさせられました。そして自分の「問診」方法も今また考え中です。

第6回のナチュロパシーでは、「ナチュラル(自然)」という言葉の響きに人々はいかに騙されているか、ハーブやサプリメントがいかにエビデンスがなく怪しいものなのかを再認識しました。私も日本で働いていた時はビタミン・ミネラル信者でしたが、今は何も飲んでいません(笑)。

第7回のエナジーメディシンと第8回のその他いろいろな代替療法は、私の大好きな「インチキ中のインチキ」の手法(笑)。単純にレクチャーを見ていて面白かったです。きっとそれらの「治療法」をやっている人(受けている人)はレクチャーをまともに見ることはできないでしょうね(笑)。それと、私も知らなかった磁石を使った機械やシールやアクセサリーの類いの「矛盾点」は面白かったです。

第9回はエビデンスベース、サイエンスベースの考え方の話。信頼のおける論文の探し方、論文の読み方は非常に難しいと改めて思ったし、正直にいうと「めんどくせー」と思いました(笑)。チェック項目が20近くあり、それら全てを考えながら読むのは私には不可能だし、というか、そこまで労力をかけるのは難しいし、データをちゃんと読むには統計学の知識も必要だしで、これからは一生ネットかどこかで引用された論文をまともに読まずに紹介することはしません。どこぞのグループで英語の論文を訳して読んで「やったー!鍼は◯◯に効果があるとなってる!」と短絡的に解釈はしたりしません(笑)。ちなみに以前のブログでも紹介したかもしれない「代替医療のトリック」の著者の1人、サイモン・シン氏にメールで教えてもらった「信頼のおける論文の探し方」ですが、

1. 膨大な量の時間を費やして、その問題を研究する方法を学び、さらに研究することに時間を費やす。

2. あなたが最も信頼できる2つまたは3つの人々/組織を決定し、彼らがこの問題についてどのような結論を出しているかを見てください。私は、例えば、オステオパスやビッグファーマ(大きな製薬会社)はバイアスがかかっている可能性が高いので、信頼しないだろう。しかし、もし私が急いでいたら、私はウィキペディアとEdzard Ernst氏を信頼するだろう。どちらも完璧ではありませんが、私はどちらも偏っているとは思っていません。

でした。

そして第10回ではメディアや政治家の代替療法との関わりが紹介されていました。下の動画はその中で紹介されていたやつです。アメリカでは毎年莫大なお金を代替療法につぎ込んでいるという話です。


日本の番組も多かれ少なかれ同じですね(笑)。

それと政治家(政治)と代替療法の関わりについての日本の動きは私には全くわかりません。日本の政治家がある代替療法を推し進めるような動きってあるのでしょうか?

あとこの第10回では「倫理違反」についての言及が非常に参考になりました。プラセボだとわかっていながらそれを行うのがなぜ倫理違反(非倫理的)なのか、またリサーチにおける非倫理的行為についても非常に参考になりました。

この回でも最後に「Evidence-based medicine VS Science-based medicine」について言及されていましたが、別の動画でそれに焦点をあてたのがありました。Dr Hallの10回のレクチャーをコンパクトに要点だけをまとめた感じです。

超簡単にまとめると

EBM(evidence-based medicine)はあまりにも臨床データ(臨床エビデンス)を重要視しすぎており、科学、化学、物理学、生理学などから導き出された事前確率(prior probability)を軽視しすぎている

ということでした。事前確率についてはリンクを参照するといいかもです。


以上、SBMについて今回さらっと勉強してみましたが、私には難しすぎます(笑)。なので、自分の実践している治療法に都合のよい論文を見つけたら「ほらっ!だから◯◯は◯◯に効果がある!」と短絡的に考えないようにします。


っていうか、個人的にはマッサージがanxietyの軽減に効果があるという比較的強いエビデンスがあるんだから、鍼灸あん摩マッサージ指圧師は鍼の幻想は捨てて、マッサージしたらいいんじゃないかなあ、と思っています。


PS

ここから先は

188字
このマガジンを購入すると、更新記事はずっと追加料金なしでよむことができます。またコメントもできますので、書籍とは違い、読者とのインターアクションも積極的に行っていきたいと思います。よろしくお願いします。

ファシアについて徒手療法家が知っておくべき情報を随時更新していきます。またファシアに限らず徒手療法に関する事柄も随時追加していきます。

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?