SBMを勉強してみた Part 9 リサーチの落とし穴

今回はリサーチ(論文・研究)の落とし穴についてです。この回は超重要な回なので、普段「エビデンスが〜」とか「◯◯は証明されているから◯◯に効く!」的なことを謳って、患者さんに説明している人たちは必見です。それと、何かが効く!とネットや雑誌で紹介されたら、すぐに治療院の壁にそれを貼ったり、自分のウェブサイトやSNSアカウントでシェアする人たちも必見です。果たして自分がやっていることが正しいのかどうかを省みるいい機会になると思います。

今回は内容が濃く、読むのが大変かもしれないので結論から書いてしまうと、質の良い研究(リサーチ)を行うには、手順がすごく厳しく難しい。ド素人が何かの機械を使って”研究”をして「ほらっ!だから俺の治療は効果あるんだ!」的なことは言わないほうがいいと思います。(よく◯◯療法をやったら血流が増えたから、痛みが楽になる!云々とかありますね。だから何?です。素人が手をださないほうがいいと思います。)また、どのリサーチが信頼に足るのかをうまく判断できない徒手療法家達が、論文を引用して、自分たちの治療の有効性を示すのはあまりにも短絡的だし、下手すりゃ詐欺的行為です。

私個人としては、そういうことは今後一切やりません。責任がもてないので。

(注1:今回のブログで「リサーチ」「論文」「研究」と言葉を使ってしまいましたが、すべて動画内では「study」や「research」と言われていました。日本語文脈的に私はそう使っただけですが、全て同じと思ってもらっていいと思います。)

(注2:今回の内容は統計学を勉強したことがない人には難しいかもです。私も纏めるのに相当時間がかかりました。まあ、私の駄文を全部読む気力や時間のない人は、今回の内容は「どの論文がより信頼をおけるのか?」を考えることは相当難しい!だった、と思ってくれればいいと思います。)

(注3:有料ブログ読者で、小難しいことを長々と読みたくないわい!っていう人でも、下のほうにある「臨床研究の倫理(Ethics of clinical research)」だけは読むことを勧めます。代替療法のリサーチがいかに倫理に反しているかがわかります。)


科学は完璧ではない。我々は、”何か”が科学的研究で事実だとして言われても、自動的に受け入れてはいけない。リサーチ(論文・研究)は不完全(imperfect)な人間によって行われているからだ。人間は間違いを犯す。このレクチャーではリサーチがどのように失敗するか、嘘の、間違った結論にどのように導かれるかの落とし穴について話す。

*信憑性の範囲

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全てのリサーチが同等の価値を持つわけではない。これを代替療法家(CAM=Complimentary and Alternative Medicine)側の人達はよくわかっていない。彼らがよく「俺たちの治療法は科学的に証明されている。これがエビデンスだ!」と自分たちの治療法の効果を示すエビデンスを出すが、科学者側から否定されると、彼らは「薬の臨床試験と同じレベルのエビデンスを求めているのか!?、それは不公平だ」という。また、RCT(無作為試験)でも、良い質のものと、それほど良くないものと、完全にゴミなものもある。代替療法を信じている人たちは、自分達に都合の悪いリサーチを信じようとしない。彼らは悪い質のリサーチを科学者側に受け入れてもらえない理由を理解できない。また、それは代替療法側だけでなく、医師達も、質の良いリサーチとは何かがわかっていない。そういう人たちは大抵、論文の全てを読まずに、結論や要旨(abstract)だけを読み、その論文で証明されたことが正しいと信じてしまう。それに医学部でどのようにリサーチを読むかを習っていない。


*ジャンクサイエンス(Junk Science)とは

・歯の妖精(tooth fairy)研究はすべきでない(ないことの証明をするな)
・お粗末な研究の結果は全く役に立たない
・「エビデンスが実際に証明(正当化)出来る事以上の事を主張して
  いる場合、大抵は政治的または商業的な目的があったり、個人的な信念
  を推し進めたりするために行われている。」   By Dr Joe Schwarcz


*医学的研究はいろいろと難しい

・化学の実験、物理の実験は「簡単だ」(結果が明らか)
 なぜなら化学式や物理式は答えが一つになるから
・一方、人間対象の実験は複雑だ
 例えば水素イオンはすべて同じ。しかし人間は皆それぞれ違う。しかも
 実験にはいろいろな要素(プラセボ、信念など)も関わる
・「House」というアメリカのドラマの医師が言ったこと、「患者は嘘を
  付く」はある意味正しい。症状や経過などをわざとか、無意識にか
  間違って報告もするし、詳しく思い出せなかったり、隠したりする
  こともある。


*もしある一つの研究でこう報告されたら・・・

代替療法家達はよく「このリサーチで我々の治療は効果的だと出ている」と言い出すが、まずは以下の事を考えてみてほしい。

・6500ものピアレビュー科学雑誌(査読付き科学雑誌)があり
 毎年200万もの論文が発表され、毎日、毎分4つの論文が発表されている

・つまり、自分たちに都合のいい論文を探そうとすれば探せる


* Loanidisが「ほとんどのリサーチの結論が嘘だ」と言った。

 特に、もしそれが
  ・研究対象が小さく
  ・効果の幅が小さく
  ・いくつもの評価項目(endpoints)があり
  ・研究費をどこかからもらっていて、バイアスがかかっていたり
  ・同じ研究にライバルが多い場合

かといって、科学を全く信頼できないというわけではない。科学的プロセスは詰まる所、自己修正のようなもので、初期のリサーチが間違っていれば、後になってもっといいリサーチがでてきて、結論が修正される。こうしてエビデンスが積み重なっていき、コンセンサスとなっていく。では、ほとんどのリサーチが間違っているとするならば、どれを信じればいいのだろうか?どのようにリサーチに騙されないようにすれば良いのだろうか?

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