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〈文学フリマと雨〉

Ep.2

5月19日。
小雨の降る中、私は胸を踊らせていた。

電車を乗り継ぎ、浜松町からモノレールで流通センター駅へ向かう。初めて来るモノレールの浜松町駅はとても綺麗だが、雨と人の多さのせいか少し空気が籠っていた。

羽田空港まで行くであろうスーツを持った人も多くいて、私と同じ目的地の人がいるのか不安になる。

でも、その不安はすぐに消えることとなった。

流通センター駅に着いて扉が開いた途端、人が流れるように出ていくではないか。あっ私も、と自分も忘れず降りる。後にある予定のために履いた少しヒールのある靴のせいで足に疲労を感じ始めていたが、それよりも初めての文フリに気分は舞い上がっていた。

入り口で意気揚々と写真を撮り、入場口へと向かう。私は事前にチケットを持っていなかったので当日券を買ってリストバンドをつけた。イベントっぽい、と至極当たり前な感想と共に中へ入ると、そこには人、人、人。溢れんばかりの人間たち。

私はそこで初めて生で創作をする人の多さを目の当たりにした。今までインターネット上でしか見えなかった世界の本当の広さを痛感して、自分の小ささを振り返ってしまう。私はなんて狭い視野だったのだろう。

ダメだ、ダメだ。

そう頭で振り切り、とにかく目の前の創作の海に集中した。飲み込まれないように、だけど愉快に溺れたい。それだけだった。

でも、慣れない場所はそう簡単ではない。

ろくな下調べもせず来てしまったため、まずは見本誌コーナーに立ち寄る。本屋さんで物色するような楽しさ。自分好みな雰囲気のある本やnoteで出店をする投稿された方の本を手にとって試し読みもしたりする。ここまでは順調だった。ここまでは。

さて、その本たちのブースへ行こう。
歩き始めたものの、私はその賑やさに圧倒された。
話したい、でも怖い。
怯えてしまったのには大人になっても人見知りが治らないことに加えて、もう一つ理由があった。

茹だるほどの本や文章に対する熱気。
自分の熱量と比較し、足りていないのがバレてしまいそうで怖かったのだ。
私なんかが、畏れ多い。
そう思ってしまった。

私にとって、作者や製作者の方がいるブースに行って目の前で本を買うという行為はとても勇気のいることだということを今更ながらに気づく。近くまで行ってはブースを横目に素通りすることを何回か繰り返してしまう。

結局最後まで勇気が出ぬまま、次の予定の時間が迫っていたのでイベントを後にした。この後私は何も買えなかった事を後悔をする羽目になる。

もちろん、オンラインで探せば出てくるかもしれない。だけど、"文フリのブースで買う"は達成できないことに変わりはない。

ヒールで足が限界を迎えた挙句、何も買えず、誰とも話せず。シトシト、空からは小粒の水滴が頭を濡らした。

2024.5.31


後記

読んでいただきありがとうございました!
6月になってしまいましたが、5月に執筆したという事で5月分ということにしたい…。
気候の変わりやすいこの時期、ご体調にお気をつけてお過ごしください。

それでは、また来月(今月)。

祗燈 柃夜  

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