見出し画像

【上演台本/ふたつのモノローグ】 毛と眼鏡

第一話 「毛」


 
 
キャスト:女性1・女性2 

◎舞台に、バランスボール2つ。
◎音楽in 
 (音楽はBGMとしてずっと微かに聴こえている)
 [que sera que sera(Whatever will be will be)] Sly and the family stone Ver.
◎照明、溶明。音楽とほぼ同時にスタート
 バックホリゾント。最初わりと素っ気ない一色。後半のよいタイミングで
    変化。(ex.水彩のような虹モチーフ、虹色のグラフィカルな何かなど)
◎女性1上手、2下手から同時にバランスボールを持って登場。
 ややアンバランスな配置で、バランスボールに座る。
 
 
女性1:
これ、言っていいのかな とくに理由はなかったんです なんとなくほったらかしにしてみたっていうか コロナで家にいたっていうのもあるけど でも ほんまになんとなく 
 
考えたら 中学生くらいからずーっとカミソリで剃ったり毛抜きで抜いたりリムーバーで溶かしたり 傷めつけまくってました ワックスでベリってやったりとか せえへんかった? わたし神経質なとこあって冬でも処理し続けてて ちょっとでも黒い点々が出てきたら わ出た!悪魔!みたいになって めっちゃ大変やった 大人になって永久脱毛も考えたけど昔は何十万円もしたからまあタイミングかな  
 
で ふと ね そのままにしたらどんな感じなんやろうって だって自分の身体やのに知らんって変ちゃうかなって思ってね 最初 ぽつぽつ黒いの出てきて チクチクくらい伸びてきて ちょろちょろしてるぐらいのときって やば 汚な て思ったんですけど わりとあっという間にふぁふぁふぁってなってきて ああ こんな生え方なんやって くんくんしてみたら 甘いような汗臭いような動物っぽい匂いして 黒くて 湿ってて それぞれ一本一本が好き勝手に思いのままにあっち向いたりこっち向いたり かわいいなっていう気持ちになりました 寝る時さわったらうっとりしてよく寝れるんです 
 
え ダンナ? ダンナは知らないですよ だって ずっとなんもないですもん 私の毛のことなんか・・・それに これは私自身のことであって ダンナとは関係ないというか 毛の先までありのままの私の身体なんや ああ私は生きものなんやなぁ 生きてるなぁ 生きてていいんやなぁって 初めてやったんです こんな気持ち 自由で むっちゃ強くなれた 
 
せっかくね あふれるホルモンの証として けなげに生えようとしてるのに 存在を全否定してた こんなとこに毛なんていらんって思ってた 何か言いたいこともあったかもしれんのに 今までごめんねって思いました
 
でも やっぱり 弱気になることもあって ハリウッドセレブみたいに堂々となんかできるわけないし でも いつか いつか 生えてて何がおかしいんですか? これが私なんです って・・・
 
 ◎はおりものを脱いで腕をあげてポーズ。
        脇の下にピンクのボンボンがついている。
 
ノースリーブで 電車の吊り革持ってみたいって 思ってるんです
 
 
女性2:・・・・・(ポーズの女性1を穏やかにみつめる)
 
 
  ◎女性1は、すっと溶けて腕を下ろし、2人微笑み合ってから、
   ボール持ってさらっとはける。

         照明・溶暗、音楽ややレベルあがる。


(終)
 
 
 
 
 
 
 

第二話 「眼鏡」



キャスト:女性2・女性1 
 
◎舞台に、バランスボール2つ。
◎音楽in 
 (音楽はBGMとしてずっと微かに聴こえている)
 [que sera que sera(Whatever will be will be)] Sly and the family stone Ver.
◎照明、溶明。音楽とほぼ同時にスタート
 バックホリゾント。最初わりと素っ気ない一色。後半のよいタイミングで
    変化。(ex.水彩のような虹モチーフ、虹色のグラフィカルな何かなど)
◎女性1上手、2下手から同時にバランスボールを持って登場。
 ややアンバランスな配置で、バランスボールに座る。

第一話と全く同じ始まり方で、二人の位置前後だけが入れ替わっている。
 
 
女性2:
これ、言っていいのかな。不思議な話なんです。ある夜、お風呂からあがったら眼鏡がなかったんです。確かに洗面台の上に置いたのに。ボストン型のこの眼鏡は当時からの私のデフォルトで、ちょっと賢そうにみえるし。その頃、まあいろいろあって気分変えてみようかなって。
 
で、裸眼だと0.1とか2やし家の中でもずっと眼鏡。だからお風呂に入る前に他の場所で外すことなくて。ぜったいなくて。それがない。急いで服着て、息をひそめてリビングを探してみました。どこにもない。ありえないけど、キッチン。まったくありえないけど、トイレ。おそるおそる玄関。それから。ベッドサイドの小さなテーブル。眼鏡は、そこに、丁寧にたたまれてきちんと置かれていたんです。
 
いや。だから。
 
だから。
それってぜったいおかしいんです。
 
 
数日後の朝のことでした。
ふと
気づいたんです。
 
冷蔵庫のドアにマグネットでとめた実家の猫のシマ子の写真が、上下逆さまになっていました。すうっと冷や汗が出てきて、とっさにドアの鍵確認して家中の窓のカーテンを全部閉めました。
 
決定的なことは、一週間後におこりました。
夜、仕事から帰ってドアを開けると、廊下に脱いだはずのスリッパが、一段下の玄関のたたきで、サンダルの隣に並んでいました。
 
迷わず警察に電話しました。
そして、真相はまったく何ひとつわからないまま、無我夢中で引っ越しました。
今は、別の沿線の新しい部屋で、やっと落ちついて心穏やかに暮らしています。
 
・・・それだけ  おしまい。
 
 ◎女性1 立ち上がり、帰りかけるが、再び話が始まると、止まる。
 
ただ、
警察には言わなかったけど、春にお別れした人がいました。
 
 ◎女性1 位置に戻る。
 
もちろん鍵は返してもらったし、それに、そういうずるずるするようなタイプの人じゃなかったし、そこは誰より私がよく知ってるし。だいたい写真逆さまとか眼鏡きちんとたたむとか、そんな気の利いたことができるくらいやったら別れる時にもうちょっとましな嘘でもついてくれたらよかったんちゃうの本当のことしか言えへんなんてクソ真面目なくせに心変わりしたのは向こうやったんやしあいつがストーカーみたいに戻ってくるなんてことぜったいないぜったいありえへん。わかってたよ。
 
でも、
ほんとうは、
 
本当は、かえってきてほしかった。
だから、きっぱりと引っ越す勇気が  なくて。
ずるずるしてたのは私の方で・・・
 
背中を押してくれたのは、無意識の、もうひとりの私やったんです。
 
女性1:・・・・・(女性2を穏やかにみつめる)
 
 ◎2人微笑み合ってから、ボール持ってさらっとはける。
      照明・溶暗、音楽ややレベルあがる。

(終)


作・演出:緑ファンタ 出演:天王寺春雨・舞子わかめ
2022年9月22日~25日@大阪・道頓堀ZAZAHOUSE
ともに「満員劇場御礼座」公演<これ言っていいのかな>にて上演しました


応援いただけたらとても嬉しいです。