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エンターテインメントの終焉 [2021年に映画館で観た映画]

2021年はなんと映画館に12回しか行きませんでした。いい映画もそれなりにありましたが、振り返ってみると今の気持ちは、あぁエンターテインメントは終わりの時期を迎えているのだろうか、という寂しい気持ちです。理由も含めて今年観た映画をレビューします。まず先に、今年のベスト3は、

2021年のベスト3

第1位『シカゴ7裁判』
第2位『オールド』、『ラストナイト・イン・ソーホー』
(同率)
第3位『007 ノータイム・トゥ・ダイ』
です。

では2021年1月から鑑賞順に、[※ネタバレ気味に紹介しています]

ドニーの飛び蹴りはもちろん、竹中直人のブルース・リーものまねシーンも見どころ

『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』★★★

新年一本目はドニー・イェンでした。ドニー・イェンと言えば、ディズニースターウォーズシリーズ唯一の名作『ローグワン』で最高の座頭市アクションを披露した世界のド兄。その彼が日本人監督で日本を舞台に大暴れするアクション映画なのに、まったく話題になりませんでした。そういえば日本で一番ドニーに詳しい飯星景子さんが10年以上前あるTV番組に出た時、周りのお笑い芸人たちがドニーって誰だ?と思いきりバカにしていて、あぁ日本にはちゃんとアクションを理解して評価して紹介してくれるメディアはないんだなと思い、それは今作の公開規模や取り上げられ方をみても全く変わっていないな、と悲しくなりました。アクションというのは、映画を彩るとても重要な要素で、それを創り上げる谷垣健治監督やドニー・イェンの仕事を、世間はもっと評価するべきです。

キアヌが散々な目に合う映画「ノック・ノック」のスタントウーマン

『スタントウーマン / ハリウッドの知られざるヒーローたち』★★★

近年『すばらしき映画音楽たち』や『ようこそ映画音響の世界へ』など、映画の舞台裏を描いたドキュメンタリーを映画館でやってくれるようになりました。今回はスタントウーマンのインタビューが中心で、ワンダーウーマンの舞台裏やイーストウッドに蹴られた人などの話が面白かったです。でもこういうのこそ、まぁ配信でいいのかなとも思いつつ、80年代の名作がチラッとでも映画館のスクリーンに映し出される瞬間もあるので、そこはうれしかったです。

80年前のアニメとは思えない、なめらかにまるで生きてるかのように動きます

『ファンタジア』★★★★

「鬼滅の刃」や「エヴァンゲリオン」はコ▢ナでも超満員ですが、このアニメの神様ウォルトが作った80年前の名作リバイバル上映、館内は4人でした…。しかも静岡県清水まで観に行ったのです。何か空いてる映画ばかり観に行っている気がしますが、それはそれでwithコ▢ナ時代としては安心かなとも思います。もう最近では1席ずつ空ける予約パターンも見やすくてありだなと思ってきました。

アーロン・ソーキン監督は「ア・フュー・グッドメン」の原作者・脚本家でもあるので、
法廷ドラマの盛り上げ方はとてもうまいです

『シカゴ7裁判』★★★★★

2020年のNetflix映画ですが、劇場で再上映されました。非常に見応えのある法廷ドラマ。今年観た中では唯一満点、キャストも脚本もいいです。そしてアーロン・ソーキン監督の次回作が気になって調べてみたら、ニコール・キッドマン主演でアイ・ラブ・ルーシーの舞台裏を描く愛すべき夫婦の秘密という新作があるようですが、残念ながらamazonプライムで配信のみ。いよいよ映画はもう家で観るものにシフトしていってしまうのでしょうか。というか完全にシフトしてしまっていますね。それでもNetflix映画の話題作に関しては、イオンシネマで配信前に1週間ほど上映してくれるので、こまめにチェックして映画館に行きたいと思います。

ケビン・コスナーもダイアン・レインもこんなに年を取りましたが、実に渋くてかっこよく
そして美しいです

⑤『すべてが変わった日』★★★

シネコンはほぼアニメ・邦画専門館と化してしまった中で、ケビン・コスナー×ダイアン・レイン主演の洋画をかけてくれる、となったら行くでしょ。で、すごくつまらない映画でした…。でもいいのです、たまにはこんなハズレも。しかしこの映画、字幕:戸田奈津子さんでした。80年代90年代、映画が最高に楽しくワクワクしていた頃、大活躍していたナッちゃん。我々の青春を支えてくれた最高の功労者に★一つおまけです。

トーマサイン・マッケンジーちゃん(中央)は「ジョジョ・ラビット」で注目されましたが、
今年はシャマランとエドガー・ライト監督のホラーに出演、さらにジェーン・カンピオン監督の
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」にも出演するなど、活躍しています

⑥『オールド』★★★★

シャマラニアンとしては満点。何より本編が始まる前にシャマラン本人が出てきて「ようこそ映画館へ。みなさん、おかえりなさい。」と挨拶、これだけで感動してしまいました。映画館でワクワクドキドキして欲しいんだ、というメッセージ。そしてシャマランが毎回伝えるテーマ、どうしてもすれ違う男女、親子の絆、極限状況におかれた人々、文明が人類にもたらしたもの、全部詰まっていて、かつ短くまとまっています。毎回賛否両論になりますが、私はやっぱり好きです。

「クーリエ:最高機密の運び屋」「モーリタニアン 黒塗りの記録」「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
今年はカンバーバッチ・イヤーでした

⑦『クーリエ 最高機密の運び屋』★★★

今年はカンバーバッチの話題作が三本も公開され、しかも彼はMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース:私が一ミリも興味がないジャンル)作品にも出ているので、彼のファンは今年はたくさん映画館に行ったことでしょう。私はそれほどファンではないのでこれしか観てませんが、米ソ冷戦時代のスパイの話、なかなか見応えがありました。

パロマ役のアナ・デ・アルマス、最高でしたね。
次作はNetflix映画「Blonde」でマリリン・モンローを演じています。

⑧『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』★★★★

予告編を約1年半ほど見続けてやっと公開された話題作。コ▢ナのせいもありますが、もしかして映画の内容が「特定の人々だけを消滅させることができるウイルスを開発している悪の集団」をやっつける話なので、あまりにもタイムリー過ぎて延期してたのか、とも思ってしまいました。それはともかくダニエル・クレイグお疲れ様、新シリーズにぜひともパロマちゃんメインでよろしくね、と言う映画でした。でもアクション映画で2時間43分は長いです。昔はプロデューサーは少しでも一日の回数を増やすために短くしろ、と言ったものでしたが最近の洋画はなぜか長めです。トイレ問題に配慮して2時間程度におさめるか、休憩を入れて欲しいといつも思います。(映画を短くカットしなくなってきたのは、映画館で観るためではなく配信をメインで考えられているからです。配信ならば客の動画視聴時間が長いほどいいからです。)ともあれダニエル=ボンドは本当にカッコよかったです。

ティモシー・シャラメくんはご覧のとおり美しくカッコいいのですが、
映画の大半、この鼻チューブをつけているのがなんとも……。

⑨『DUNE/デューン 砂の惑星』★★★

各界の著名人絶賛!「2001年宇宙の旅」を観た時のような衝撃!何十年に一度の名作SF誕生!劇場で体感せよ!…と、あおられると逆にそんな訳ないだろと、ハードルを下げてしまいますが、下げてちょうどよかったです。だいたい著名人絶賛コメントが並ぶチラシの映画は大したことありません。「メッセージ」の監督ですから、哲学的SFをポエトリーに撮るのが得意で、その見せ方は上手いのですが、これは結局のところ、いいもんがわるもんをやっつけるという単純な物語なのです。そのシンプルな話に枝葉をたくさんつけて、あの夢に出てくる少女はなんなんだ、あぁ遂に会えた!そして…というところでこの映画は終わります。タイトルに小さく「part1」と書いてあるので、シリーズ化しようという意図は示されているのですが、正直今後もつきあおうとは思いませんでした。とりあえず今作の見どころとしては、今をときめくティモシー・シャラメ君のどアップがスクリーンで観られることくらいでしょうか。

アニャ・テイラー=ジョイとトーマサイン・マッケンジーは、
ともにM・ナイト・シャマランの映画でつながっているのも不思議な縁ですね。

⑩『ラストナイト・イン・ソーホー』★★★★

某雑誌の記者がこれをオシャレ恋愛映画のように紹介していて、映画をちゃんと観ればそんなハズないので思いっきり炎上していました。オープニングこそおしゃれミュージカルのような始まりですが、これは完全にヒッチコックスタイルのサスペンス、後半は怒涛のイタリアンホラーテイストの、怖い怖い映画だからです。でもこの監督はやっぱり音楽の使い方がうまいです。「ベイビー・ドライバー」の時もそうでしたが、次はどんな曲がかかるんだろう、というワクワクがあります。それに映画ファン向けの小ネタもたくさんちりばめられています。今回は特に「007」ファン向けのネタが楽しかったです。そんな訳で、エドガー・ライト監督は今後も楽しみな監督です。

なぜ「マトリックス」1しか劇場公開しなかったのでしょう。
「2」「3」もIMAX版を劇場で観たかった。

⑪『マトリックス』IMAX版 ★★★★

マトリックスの新作を観る前に、第1作を映画館で観直しました。初めて観た1999年、あの頃はとにかくワクワクしていました。『スターウォーズ EP1』もこの年に公開され、どちらも三部作だったので、マトリックス、スターウォーズと交互に楽しみが訪れ、今思うと最高の時期でした。徹夜で映画に並び自由席に座る、という楽しみもこの頃までで、この後世の中はどんどん変わっていきます。果たしてこれほど変わってしまった世界で、新たに何が描かれるのでしょうか…。

エンディング曲は「1」と同じ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの「Wake up」ですが、
女性アーティスト:ソフィア・ウリスタがカバーしています。
このあたりも、ネオ覚醒からトリニティ覚醒への物語の変化と、
いつまでも目覚めない人類に「起きろ!」と言っているようにも聞こえます。

⑫『マトリックス レザレクションズ』★★★

これまでのマトリックスシリーズを外側から眺めつつ、別視点で焼き直しながら変化を加えつつ、正当な続編でもあり、不変的な愛の物語でもあり、女性の目覚めも描いているという、ものすごい映画でした。やっぱりこの監督はスゴイなぁ…とは思うのですが、感想としてはやっぱりせつないです。なぜなら、マトリックスや業界自体を皮肉る自虐ネタがとても多かったからです。映画会社(ワーナーブラザーズの名がそのまま出てきます)はすぐ続編リブートスピンオフを作れという、小難しい哲学よりも派手なアクションを、挙句には猫の動画でも上げとけば再生回数伸びるよ、というような皮肉がそのまま出てくるのです。正直これは…その通りなのです。エンターテインメント業界メディアシステムは、正にゾンビゾンビを生み出すだけのものになってしまった、ということをマトリックスという映画の中で描いているのです。マトリックスらしいといえばマトリックスらしいのですが、あらためて言われると、とても寂しいじゃないですか。あんなに素晴らしい映画を作ったのに、人類は未だに目覚めず、よりシステムに取り込まれてしまっているという皮肉。せめてもの救いは、目覚めたトリニティとネオが2人手を取り、光の空に飛び立つラストシーンでしょうか。しかし痛烈かつしみじみと思ったのは、エンターテインメントの終焉、です。

そんな訳で、変わりゆく映画、変わりゆく映画館、変わりゆく映画会社、変わりゆく映画の見方を、より実感した一年でした。

それでも、それでも、映画は死なないと思います。来年もきっとまた素敵な映画に出会えると、わずかな期待を抱きつつ、年を越したいと思います。
みなさまも、よいお年をお迎えください。

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ

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