ひとり森で潜水艦⑱ 強度計算からの逃避の巻
(月と森のサブマリン)
…。
あの日。
アカマツの森。
突如上空を飛ぶ戦闘ヘリ、コブラ。
なんだ?。
それは、強度計算をやれ軍団。
略してKKSR。
ヘリは森上空でホバリング。
そこから、
ロープを投げ下ろし降りる重武装の男達。
な?。
愕然と手にノコギリとトンカチを持つ俺。
森に降り立った筋骨隆々の隊長ケバラ。
奴はチラリと俺をゴーグル越しに視認すると号令。
やれ-。
途端に、
次に降り立った部下シーサーのM16が火を吹く。
バリバリバリドドドドキューン。
途端にトンカチとノコギリを握りしめ逃げる俺。
クソ----。
これで、俺の作戦も終わりか?
策略と陰謀で、
嫁を籠絡(ろうらく)したのに。
なけなしの資金も出させたのに、
俺の…、
俺の…この森に、
丸太の秘密基地を建てようとした、
その秘密基地サブマリンも…。
と逃げる後方から、
KKSRの隊長ケバラが叫ぶ。
頭を狙え---。
途端に部下ジーコがジャベリンのスコープに写る、
逃げる俺の頭の画像をクリック。
これで的を確定。
ケバラが叫ぶ。
撃て-----。
ジーコがジャベリンの引き金を引く。
途端に、
シュポンと圧搾空気で小形ミサイルがジャベリンから吐き出され、
一時おいて空中でミサイルのエンジンが点火。
火を吹きシュルシュルと逃げる俺を追う小形ミサイル。
ああああアアぁぁァァァァ----。
次の瞬間。
俺の後頭部に何かが刺さった。
ブスリ。
頭皮を切り、
頭蓋骨をゴリンと穴を開け、
後頭脳の視覚野に潜り、
小脳の上部に達すると、
ミサイルの信管に電気パルスが飛んだ。
途端に、
ミサイル前部のKKSR爆薬が炸裂。
ドキャ---ン。
俺の肩から上の、
頭蓋骨、脳味噌は細切れとなって飛び散って行く。
…。
だが、
…。
不思議な事が、
…
起きた。
…。
あれ程強烈な強度計算ショックを受け、
終わったと…思った俺が、
瀕死の、
いやほとんど死んだ俺の精神が、
なぜか、
翌日には、
何事も無かったように活動を始めたのだ。
…。
普段と変わらず勤め先に出かけ、
適当に仕事をこなし、
夕方、
帰って来た。
・腹減った~。
おかえり~。
仕事嫌だ~。
俺はよれたバックパックを背中から下ろすと、
トイレに入り、
出ると、
フロの排水口に栓を入れ、
湯の蛇口を開け、
茶の間で寝ころんだ。
ネコが喉をゴロゴロ鳴らしながら俺の腹に乗る。
視線を隣の部屋に向けると、
机に向かう子等が見える。
勉強してるのかスマホを見ているのか?。
何だか分からないが、
まあなんでもいいかと、
ぼんやりと、
南の窓から見える夕暮れの景色を眺めた。
何かひっかかるものがあった。
だが、
はっきりとは見えない。
逃避なのか?。
それとも心の奥底に重りを付けて沈めたのか?。
風呂に入り、
家族と食事を取り、
パソコンでネットの世界を彷徨い、
ネコと一緒に寝た。
そんな普段の日々が過ぎ、
一週間程たった。
何時ものように茶の間で寝ころび、
窓の外を見ていた。
嫁が。
どこ睨んでるの?。
ん?。
別に。
眉間にしわ寄ってるよ。
それにさっきからため息ついてるし。
…。
そういえば、
なにやら息が詰まる。
心臓がドキドキしている。
心筋梗塞か?。
どうやら奴だ。
深層に沈めていたあいつが、
エネルギーを貯め、
浮上しようとしていた。
ブクブク。
だが、
俺は懸命に無視。
そして、
週末、
何事も無かったように、
森で作業。
何の作業か?。
それは家の基礎となる部分の穴堀り。
5トンユンボでゴリゴリと穴を掘る。
だがなかなか掘れない。
ここは扇状地。
黒土の下に、
花崗岩の岩がゴロゴロ。
直径50センチ程のものが次々と。
最初は何だかうれしい。
掘り出すたびに儲かったような気になる。
あはは。
庭石屋になれるかな?。
だが、
直径1メートル程の岩も眠っていた。
5トンユンボではピクリとも動かない。
丸一日岩の回りを堀り、
やっと掘り出した。
むむ。
これではらちが開かない。
だが、
作業で汗を流していると、
あの何やらモヤモヤした暗雲たる気持も何処かに吹き飛び。
そして日が過ぎた。
だが、
順調に進まないい事態に陥った。
基礎穴造りの壁。
それは、
大地にへばりついた巨石が眠っていたのだ。
5トンユンボではピクリとも動かない。
この岩でストーンヘッジでも作りたい…。
…。
森の中、
追い詰められた俺はぼんやりと空を見ていた。
その時。
心の奥底、
深層のその下の、
無意識の奥底から、
ブクブクと浮上する何かがあった。
俺はイスに座ったまま、
荒い呼吸をしながら、
森の奥を見る。
呼吸が苦しい。
胸が…。
だが、
それでも、
奴はゆっくり浮上してきた。
苦しい。
来たか。
逃げきれないのか。
…。
やがて、
心の中に何かが落ち、
乾いた音を立てた。
…。
逃げきれないか…。
なら、
見てやろう。
心の奥底に沈めたあいつが、
長い時間の間にエネルギーを吸い、
巨大化し、
浮上してきたのだ。
そいつの顔をみてやろう。
深呼吸すると、
立ち上がった。
そして、
見た。
…。
どす黒い闇から、
奴は顔を出した。
眼も鼻も無いバケモノ。
その奴が口を開けた。
ゆっくりと。
俺は逃げずに奴を正視した。
そして、
俺と奴は静かに対峙し、
奴の語る言葉を聞いた。
…。
分かった。
俺は頭を縦に振りながら、
うなずいた。
そうだよな。
逃げきれん。
なら、
…。
正面突破だ。
…。
つづく。