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月と森のサブマリン ⑯       建築確認書類を作るの巻。

(森でひとり潜水艦)

いろいろ楽しみながら、
森の中に建つ妄想の家を幾つかデザインした。
実現したら面白い。
だがその中のいくつかは建築免許が必要。
となると、
免許なしでも可能なものを進める事にした。
そう、
木造軸組工法による100㎡までの設計。
そこで、いままでのスケッチを元に、
建築確認の申請書類作成を開始。
建築場所の地図や、
敷地の建築位置図などの作成を進め、
やがて、
妄想のデザインでは、
外形ばかり考えていたので、
エンピツなめなめ、
内部の配置を考え平面図作りに入った。
一階にはフロ、トイレ、キッチン、食堂…。
フロのサイズをネットで調べ、
トイレは…ToToかな?。
キッチンは…。
と適当に図面化。
実際に取り付ける時に真剣に考える事にして、
二階に寝室、リビング…と。

…。
次に、基礎や骨格。
ここからは建築規準法を調べ、
じっくりと図面を作ってゆく。
基礎はどうする?
こんな感じか。
ネットを参考に、
木造家屋の基礎を調べ、
書籍を購入。
基礎とはなんだ?からはじまり、
やがて、
おお、砂利を敷いてランマーで着き固めるのか。
なるほど。
ランマーがいるな?。
ネットオークションを見ながら、
中古のランマーを探す。
ふむふむ。
図面を描きながら、
家の作り方や必要な道具も調べてゆく。
なかなか骨がおれる。
ここで突然意識に不安マックスの横槍が入る。
基礎のコンクリートをどうするのか?。
それもひとりでやるのか?。
…。
大量のコンクリートをどう手に入れるのか?。
…。
まさか、
コンクリートの粉と砂利と水で、
自分でネリネリして生コンクリートを作り、
基礎を作る?。
できるのか?。
大量の砂利がいる。
水はどうする?。
水道はまだ無いぞ…。
川から汲んでくるのか。
ばあさんは川で洗濯…。
じいさんは川で水汲み…。
んんん。
調べると生コンは一立方あたり2トン。
2トン…。
自分で考えている家の基礎に必要なコンクリートを計算すると、
…。
25立方。
…。
え?。
50トン。
…。
50トン。
何回か計算し直しながら、
およそ50トン。
なぜそんなに多いのか?。
半地下を考えたのだ。
森は湿気が多い。
シロアリもいる。
となると基礎は高い方が良い。
なら、もう少し基礎を高くして、
申請では基礎で、
家が建ったら先々半地下にすれば良いと考えたのだ。
結果、高基礎となり、
結果、50トン。
…。
その50トンをどう作るのか?。
そうだ電動ミキサーを買おう。
ネットで検索。
電動の生コンミキサーが5万。
一回でできる生コン25リットル。
…。
一回で25リットル。
…。
地下室兼基礎で、
最低でも25立方必要となるから、
さて、25立方は…、
電卓で計算すると、25000リットル。
となると、
電動のナマコン機械で1000回造らなくてはいけない。
千回…。
一回造るのにジャリ入れて生コンの粉いれて水入れて、、
グルグル回して、
出来た25リットル生コン約50キロを、
一輪車のバケットに入れて、
汗かきながら、
ヨッコラショと建築現場にヒィーヒィー言いながら、
押して運び、
基礎枠の上からドドーっと流し込むと…。
ここまでで、30分かかったとする。
すると、
30分×1000回分=30000分。
三万分…。
さんまんふん…。
…。
時間にして500時間。
…。
一日5時間やったとして、
100日。
土日だけしか出来ないから、
夏だろうが冬だろうが、
家族サービスを全てハショっても、
約2年…。
基礎+地階のコンクリート打ちだけで2年。
…。
実際は基礎を造る場所を堀り、
ジャリを入れて突き固め、
捨てコンクリートを打ち、
その上に基礎鉄筋を組む。
基礎鉄筋とは直径13ミリのボコボコした異形鉄筋を、
20センチ間隔で縦横に並べ、
針金で巻いて固定。
その回りに板で生コンクリートを流し込む型枠を造る。
その後、
生コンを流し込む。
重労働だ。
生コンは重い。
それを2年。
きっと打ち終わる頃には、
金剛力士像。
しかし、2年…。
嫁に2年で家を造るとか言って許可を得たが、
基礎で2年…。
…。
西の山に紅の夕日が落ちてゆく。
カナカナとヒグラシが鳴く、
小学生だった頃の夏休みが終わり、
悲しい気分のあの頃の気持と同じになってゆく。
…。
フ~。
…。
ああ夏休み。
ロケット花火を飛ばし、
爆竹を投げて遊んだ夏休み。
皆で川で泳ぎ、
魚を捕まえ、
度胸だめしと、
バケツに水を入れ、
ウルシの木の葉を入れ、
バシャバシャかき回し、
顔を洗った。
翌日の朝、
ひとりも学校に行かなかった。
全員、顔がパンパンに腫れ上がり、
寝ていた。
バカな事をした。
…。
基礎コンクリート。
難題だ。
…。
ここで基礎コンクリートを打った事のある職人さん等が、
きっと言う。
生コン製造業者に頼めば、
ミキサー車という生コンクリートを運ぶ車で、
現場に運んでくれると。
さらに基礎打ちをする時に、
生コンポンプ車という専用車両があり、
その生コンポンプ車にミキサー車から生コンを入れ、
ポンプアップしてホースの先から、
生コンが好きな所に投入できる。
だが、
田舎の森の中。
敷地の森の中には道も無い。
その森まで来る道は大型ミキサーは通れない。
さらに、
基礎打ちをするには、
4~5名の重労働作業員が必要。
…。
となると、
たったひとりの建築冒険ではなくなる。
人件費もかかる。
作業員をどう調達するのか?。
…。
ここまで考え、
書類を作成するエンピツが止まる。
だが、コンクリート打ちだけではない。
建物の柱や梁は赤松の丸太。
壁や床は自分で赤松の丸太を製材した板だ。
いやいや、合板も使おう。
家根はどうする?。
ガルバリウムか。
窓は?。
ドアは?。
次々と分からない事が浮上してくる。
ブクブクと。
…。
なんとかネットで調べ、
書き込んでゆく。
実際の時はどうなるか分からないが、
書類上は体裁を整えてゆく。
建築物の東西南北の方向から見た図。
各階の平面図。
家を縦に輪切りにした短計図(かなばかりず)。
建物の風圧計算。
地震などに倒壊しないように、
壁量計算…。
丸太を接続する接続金具…。
その他いろいろ。
…。
土日は森で作業し、
仕事終わりの夜、
家の片隅に置かれたみかん箱の机で、
小さく丸まって建築規準法やらをネットで調べ、
夜なべして、
書類を作っていった。
…。
月日は流れた。
…。
やがて図面やら、
簡易構造強度やらの計算も進み、
建築申請の書類が少しずつ出来上がっていった。
やれば進むのだ。
だが、
不安は拭えない。
なにせ、
素人。
このなんとか辻褄を合せた建築確認書類が、
本当に認可されるのか?。
…。
自信が無い。
…。
そして、
提出の朝が来た。
朝からバリバリ緊張。
身なりを整え、
出来上がった建築確認書類を脇に抱え、
車に乗って役所に向かった。
…。
建築確認を提出する事務所に着くと、
ドキドキしなが事務所に入った。
入り口のテーブルの前に立つと、
中に4~5個の机が並びの女性の所員と男性の職員数名がこちらを見た。
あの~建築確認申請書を持ってもって来たんですけど。
は~い。
と女性職員が進み出て、
提出書類をパラパラと見ながら、
確認できましたら、
この住所に建築確認書を送ります。
ごくろう様でした。
と。
あっさり申請書を受け取ってくれたのだ。
アハハハ~。
やった~。
努力が報われた。
俺はやった。
あはは。
俺はやったぞ。
建築界の素人天才だ。
日本に現れたアカマツ・ガウディー。
新星の如く現れた森の建築野郎。
あはは。
スゲーぞ。
最高の気分で森に車をぶっ飛ばして帰って行った。
…。
だが、
…。
つづく。

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