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東北各地に分布する大きな杏梅の系譜~山形にもやはり巨大梅、庄内の「せつないほど酸っぱい」節田梅、庄内産豊後梅来る(山形産節田梅・豊後梅その1)

※本記事は旧ブログ(Ameba Ownd)からの引っ越し記事(旧日付:2023年7月18日)に2024年5月時点での情報を(農水省の調査を最新版に)入れ替えた記事です。

本年ここまで以下3品種の大きな梅を入手し漬けて来た。( )内は主な産地及び取り寄せ元。

・高田梅(福島県会津地方)
・八助(別名なにわ)梅(青森県・秋田県)
・おうみ梅(秋田県北部、詳細は謎)

「梅」と呼ばれてはいるが、八助とおうみは梅ではなく杏。おそらくそのためだろう、梅の品種や生育地を知りたくて参照した農水省の「特産果樹生体動態等調査」の果樹品目別生産動向調査内「うめ」内に八助・おうみの名はない。「あんず」の品種別データは同調査には含まれないのか、見つけることはできなかった。

そもそも青森や秋田でなぜ杏が「梅」と呼ばれるのか。
いつ頃何故そうなったか、或いは逆で、日本若しくは東北の一部で元々杏と梅が同一視されていたのか、詳細は謎だがヒントはある。
郷土料理について調べるため入手した『聞き書 秋田の食事』(農文協刊、昭和61年版)内に驚くような記載があった。

同書「県央八郎潟の食」内「Ⅰ 四季の食生活」より引用。

「冬の朝食は二番米(検査に出せないよくない米)のごはんに、蓄えておいた大根葉とごといもの味噌汁、納豆、大根おろし、たくあん漬、梅漬などである。梅漬は毎朝欠かさず食べる。家の前に生えている大きなあんずの木が、毎年よく実をつけ、売るほどあるのであんず一升に塩一升の割で五升がめにいっぱい漬けておき、しそが出るようになったら塩もみして加え、一年中食べるようにしておく。」

簡素な文体だけに驚く。「梅漬は毎朝欠かさず食べる」「あんずの木が毎年よく実をつけ」と当たり前に続き「あんず一升に塩一升」。そもそもこの梅漬はあんず漬だ。
同書は「大正の終わりから昭和の初めころの秋田の食生活」とあるため、少なくともこの頃の八郎潟周辺では「あんず=梅」。八郎潟は実家からかなり近く、ほぼ地元という感覚。そうでしたか…。

ともかく青森・秋田(の一部かも)では「杏=ほぼ梅」だったようだが、梅の性質からすればやむを得ないところもある。
梅は中国の温帯地域が原産地と言われ、もともと積雪や長い冬を好まない植物。特に実の生育においては幹を超える高さの積雪、実が育ち始める時期の霜や降雪、雹等は切実な影響を及ぼすそうだ。
そんな梅は寒さに強いあんずと非常に近い分類にある。共にバラ科、サクラ属、スモモ亜属。自然交雑されやすく、さらに梅は自家不和合性の品種(同品種で受粉しても結実しない)が多いため、近縁他品種との交雑が歴史と共に積極的かつ複雑に進行したと考えられる。
日本各地で守られ、大事に育まれてきた土着種の梅が多種あるのはそのためだろうし、寒冷な東北地方に杏との交雑種が多いことにも頷ける。

梅と杏は中国から古代日本に伝わったとされるが、近年弥生時代の遺跡から梅の種(核)が発見されたそうで、奈良時代に遣唐使が薬木として持ち込んだのが最初という訳ではどうやらなかったようだ。
渡来した種は寒さに強い杏と交配されていたという説もあり、また日本に現存する梅が全て大陸から渡来したものなのか、或いは日本原産か、若しくはその両方があるのかは、現在のところよくわかっていないらしい。
下の研究が進んだらその辺りはもっとよくわかるのかな?非常に興味深い。

上の研究内より引用「図4 現時点で考えられるウメの進化過程」

そんな訳で東北では杏寄りの梅が散見される訳だが、今回山形から取り寄せた梅がそうとは知らずに大きかったので驚いた。
「節田梅(せつだうめ)」という庄内の品種である。近年生産数が減っている希少梅のひとつだ。

とても綺麗な色。かたちも綺麗

青森の豊後もきっと梅干しにしたら美味しいだろうな、でもローカル梅と呼ぶにはポピュラーだしな…と迷っていたところに見つけたセット販売。しかも気になっていた節田梅とのセットなんて!と喜んで購入。この時点で私は豊後梅の大きさは知っていたが、節田梅も同じほど大きいとは知らず(商品画像では気付かなかった)、届いてびっくりしたという訳だ。

売り手の方は両方とも梅酒、梅シロップ、梅干しのいずれにも向くと仰っていた。豊後はフルーティ、節田はややキリリとした感じとのこと。節田梅は「せつないほど酸っぱい」ので「せつな梅」と呼んだのが始まりという説もあるそうで、いかにも杏寄りなルックスだが酸味は強いのだろう。たのしみ!
現状大きな梅は、八助とおうみが絶賛塩漬け&熟成中。今回届いた豊後と節田はどちらも梅干し(白干しとしそ漬け両方)にしてみる。

困ったのが置き場だ。このセットは1.5kgずつの計3キロで、ファスナー袋で漬けるにはやや多い。漬物袋で漬け、容器に入れて重石をかけたい。
そこで漬物樽である。それまで入っていた谷沢梅にはやむなくお引越しいただき、漬物袋に入れて塩振り作業を行った豊後・節田を縦半分ずつに並べる。送付時に貼られていた大きな付箋に作業日と生梅、塩の各重量、塩分をメモ。いずれも15%で漬けた。

全体的に節田梅の方がやや熟が進んでいるため、梅干しには向く状態だと思う。
どんな味に漬かるのか楽しみだ。



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