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【おうちで漬物・保存食】#32 これぞ日本のケイパー、あったかごはんにぴったりの豊かな香りとぷちぷち食感がご馳走・紫蘇の実の塩漬けと醤油漬け、葉の醤油漬け

今年は秋の到来が遅く、十月になっても横浜ではまだ金木犀が香らない。
先月半ばぐらいから、いったいいつになったら秋になるのかと一人じりじりしていた。この時期しか採れない初秋の食材が、いつ出回るか読めなかったからである。

そのひとつが穂紫蘇。つまり紫蘇の実で、関東では出回る期間が二週間ほどと非常に短く、スーパーでもまず見掛けない。故にこの間に直売所へ行けるか行けないか、それが穂紫蘇を手に入れられるか否かのわかれ道なのである。

今回はたまたま行った調布駅前で思いがけなく発見

そうは言っても「紫蘇の実って何?」と思われる方も多いかも知れない。東北ではかなりポピュラーな食材で、日常的に食される地域も多い。青菜や刻み漬等の漬物にもよく入っているし、紫蘇の実の漬物も売られている。
ぷちぷちした食感と広がる豊かな香りが特徴で、この食感が心地よいのに加え、爽やかな味と香りが白米に殊の外よく合う。また、納豆に混ぜて食べるのも好まれる。東北の道の駅や直売所では保存食として塩漬けされた紫蘇の実もよく見掛ける。

私は昔からこれが大好きで、東北方面へ行く度紫蘇の実の漬物を探して買い求めるのだが、市販の漬物はどうしても甘い味付けが多く、私の好みには合わない。実家で食べていたのは甘くなかったのに…と思ううちに直売所で穂紫蘇を見つけ、そうか、自分でつくればよいのねと思い当たった。

という訳で、初めて穂紫蘇を手にした昨年は醤油漬けにした。

穂紫蘇の下処理は塩漬けも醤油漬けも共通で、まずは穂紫蘇を洗い、枝から実をとり外す。
なお、紫蘇の実は花が咲き切ってしまうと外皮が固くなり、味も香りも落ちるので、まだ花が二つ三つ残っているくらいが食べ頃だそうだ。

ところどころ白い花が見えるでしょうか

実の外し方は簡単で、指先と爪を使って枝の根元から先端に向かってしごくようにすべらせると次々気持ちよく実が外れて行く。この作業は楽しい。

右側が外した状態。但し紫蘇のあくで指や爪の間が黒くなるので、気になる方は手袋推奨。

外した実のあく抜きは、何度か水を取り替えながら一日〜二日ほど水に浸す方法と、さっと湯通しする方法がある。冷涼な東北なら前者でも大丈夫だが、気温の高い関東の場合、浸水中に水が腐る恐れもあるので(水ごと冷蔵庫に入れる手もある)湯通しした方が安心だろう。

小鍋に湯を沸かし、沸騰してから紫蘇の実を入れ、全体をひと混ぜした程度でざるに取り、冷ましつつ余分な水気を除く。キッチンペーパーや手ぬぐい等で包み、軽く絞ると簡単。

さっと湯通ししただけでもこれほど湯の色が変わるほどのあく。昨年は浸水してあく抜きしたが、この場合も水の色がかなり変わる。

醤油漬けはあく抜きした紫蘇の実を保存容器に入れ、上からそのまま醤油を注げばOK。まろやかな味にしたい場合は醤油にみりんや酒を加えて煮切った漬け液を用いてもよいが、保存性には劣る。なるべく純度の高い、混ぜもののない醤油を使うと半年〜一年程度は冷蔵保存可能。

昨年の醤油漬け。まだ使っています。湯豆腐にもおすすめ

塩漬けの場合は、下茹でした紫蘇の実の重量を測り、その30〜35%の重さの粗塩を用意して紫蘇の実にまんべんなくまぶす。ふりかけとして一週間程度で食べ切る場合は塩はもっと淡めの15~20%程度、好きな加減でOK。

茹でた紫蘇の実15gに対して
3gの塩を加える

混ぜ終えたところ。塩を30%以上混ぜた場合は冷蔵または冷凍で長期保存可。山椒の実等と同様、冷凍だと色が綺麗なまま保存できる。
使い方は塩漬けも醤油漬けもほぼ一緒で、ひと晩経てば美味しく食べられる。あったかごはんにのせて、または混ぜ込んでおにぎりにもとってもおすすめ。香りも食感も最も楽しめる食べ方。美味しいです。

山形では塩漬けの紫蘇の実を漬物に入れることも多く、おみ漬けにもよく入れるし、白菜やきゅうり等の漬物と混ぜたりもする。あけび料理にも使われる。まあ何にでもよく使われる便利なハーブみたいなものかも知れない。

なお、実と一緒に枝から外した紫蘇の葉も、醤油漬けにしておくと薬味やおにぎりに使える。この時期になると紫蘇の葉も固くなっているので生食には向かず、塩漬けや醤油漬けにする場合もさっと湯通ししてからの方が良い。

さっと湯通ししたもの
ひたひたに醤油を注ぐだけ。香りの移った醤油も湯豆腐や炒めものに使うと美味しい

ここまで書いて来て、風味そのものはやや異なるが、紫蘇の実の位置付けや使い方はイタリア料理におけるケイパーの塩漬けに似ていると思った。私はスーパーでよく見る瓶詰の酢漬けケイパーの匂いが苦手で専ら塩漬けを愛用しているが、この使い方にかなり近い。
塩漬けの場合はそのまま味付けにも使えるのでチャーハンやパスタにも使えるし(意外とパスタに合うのだ)、ざく切りのキャベツやきゅうりを塩漬けの紫蘇の実で揉んで浅漬けにしたりもする。魚や鶏肉にも合うので味噌焼きの衣に入れたりもし、この辺りもケイパーと似た使い方だなと思う。

そう考えれば、日本の食材でイタリア料理をつくる際、ケイパー代わりに紫蘇の実を使ってアレンジできる余地はいろいろありそうだ。ぱっと思いつく中で試してみたいのは、ケイパーとじゃがいものマリネサラダを紫蘇の実でつくる場合の展開。じゃがいもでも美味しいと思うけれど、里芋や長芋でも面白いかも知れない。
イタリア料理は風味や旨味を“移す”ことに長けたジャンルだ。旬の食材へのこだわりも強い。それらを踏まえて和食や日本の食材に展開できるヒントは多々あり、だから私は各国料理の中では特に日本の食文化への影響が顕著なポルトガルと、和食と考え方の近いイタリア料理が好きなのかも知れない。

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