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【検証企画】フラ語知識と料理スキル、どちらがフランス料理作りに役に立つのか??フラ語レシピで検証してみた

第一章-企画概要

 東京大学文科三類19組のオンライン企画にようこそ!この記事では、「【検証企画】フラ語知識と料理スキル、どちらがフランス料理作りに役に立つのか?フラ語レシピで検証してみた」と題し、料理対決の模様をお伝えします。我々19組はフランス語を第二外国語として選択した人が所属するクラスです。フランス語といえば、日本語にはない名詞の性と数の用法の煩雑さ、直説法現在形だけで六種類ある動詞の活用の豊富さ、英語の仮定法の用法を分け持つ条件法と接続法の難解さ、といった厄介な性質で学習者を絶望の底に突き落とす(?)ことで知られています。しかし、我々19組には、フランス語話者と日常会話ができる程度のレベルであることを示すフランス語検定準二級の所持者や、日本語での簡単な受け答えでフランス語が出てしまう人がいるような、勉強熱心な人が多いクラスなのです。また、地方出身で一人暮らしの人が多い19組には、自炊を日課としている人が多く、中にはお店顔負けの料理を作ることができる人もいます。そのような個性あふれるメンバーがそろっている19組にしかできない(?)空前絶後の(??)企画を実施することにしました!
 今回のルールは以下の通りです。

・それぞれ二名ずつの「料理得意チーム」と「仏語得意チーム」に分かれて料理対決を行う。
・制限時間75分の中で、フランス語で書かれたRecette1,2(レシピ1,2)を解読し、二品を調理し終えなくてはならない。
・スマホなどで単語、文法などを調べるのは禁止とする。
・ただし、三単語までなら運営班に日本語の訳を教えてもらうことができる。(これを「翻訳チャンス」と呼ぶ。)
・審査基準は「見た目の美しさ」、「Recetteとの一致度」、「おいしさ」の三観点とする。
・メニューについては以下のものを使用する。


Recette1
tomato: 250g
aubergine, courgette, poivron, et oignon: respectivement 175g

  • Coupez les tomates en quartier, et les aubergines et les courgettes en rondelles.

  • Émincez aussi les poivrons en lamelles, et les oignons en rouelles.

  • Préparez les aubergines et les courgettes. Faites les cuire sans huile pendant 15 minutes.

  • Chauffez 15 ml d'huile dans une nouvelle poêle.

  • Mettez-y les oignons et les poivrons.

  • Lorsqu'ils sont tendres, ajoutez les tomates, 7.5 ml d’ail, 5 ml de thym et une feuille de laurier.

  • Laissez mijoter doucement à couvert pendant un certain temps.

  • Vérifiez la cuisson des légumes pour qu'ils ne soient plus fermes. Ajoutez les aubergines et les courgettes à la soupe de tomates et prolongez la cuisson sur tout petit feu pendant 10 min.

  • Mettre autant de sel et poivre dans la soupe que vous voulez.

  • Fin.

Recette 2
farine de soba: 275ml
eau: 375ml

  • Mélangez la farine de soba et 5 ml de sel dans un saladier.

  • Versez à l'aide d'un fouet l'eau en deux ou trois fois tout en mélangeant, et ajoutez un œuf.

  • Répétez le processus suivant à trois fois: Tout le pâté est pour cinq personnes, mais vous ne devez finir de préparer que pour trois personnes en le temps. Vous pouvez refaire.

  • Huilez un poêle, mettez une louche de pâte dans la poêle,et attendez que la galette colore pour la retourner. Laissez cuire encore 1 minute.

  • Mettez la galette dans une assiette. Faites cuire un œuf et une tranche de bacon. Mettez les au centre de la galette. Mettez autant de sel et poivre sur la galette que vous voulez.

  • Fin.


 このフランス語レシピの作成には、フランス語圏のレシピ投稿サイトであるMarmitonのhttps://www.marmiton.org/recettes/recette_ratatouille_23223.aspxとhttps://www.marmiton.org/recettes/recette_la-pate-a-galettes-de-ble-noir-traditionnelle_35351.aspxを参考にさせていただきました。

 きっとフランス語を学習していない方は何が書いてあるのか皆目見当もつかないでしょうし、フランス語の学習を進めている方にとっても読解の難易度はかなり高いでしょう。企画の出演者が今までの食事体験から類推するのを防ぐため、料理の名前を伏せているのも難解さの一つの要因になっています。フランス語の腕に覚えがある方は、いったんここで記事を読み進めるのを中断して、本企画の参加者と同じ設定で挑戦してみてはいかがでしょうか…?また、上記のRecetteの和訳も記載しておきます。


レシピ1

トマト:250g
ナス、ズッキーニ、ピーマン、タマネギ:それぞれ175g

  • トマトを四等分に、ナスとズッキーニを円形に切ってください。

  • ピーマンとタマネギも円形に切ってください。

  • ナスとズッキーニすべてを調理します。油を引かずに15分炒めてください。

  • 別の新しい鍋に油を15ml引いて熱してください。

  • そこにタマネギとピーマンをすべて入れてください。

  • タマネギとピーマンが柔らかくなったら、トマト、7.5mlのニンニク、5mlのタイム、ローリエを一枚入れてください。

  • 蓋をしてしばらく弱火で煮てください。

  • 野菜が硬くならないように火加減を調節してください。ナスとズッキーニをトマトスープの方に入れて、10分弱火で煮込み続けてください。スープにほしいだけ塩と胡椒を入れてください。

  • これで終わりです。

レシピ2

蕎麦粉:275ml
水:375ml

  • 蕎麦粉と5mlの塩をボウルで混ぜてください。

  • 泡だて器で混ぜながら水を二、三回に分けて注いで、卵を入れてください。

  • 下に続く工程を三回繰り返してください: 生地は全部で五人前ですが、時間内には三人前しか作りおえる必要がありません。作り直せるということです。

  • フライパンに油をひき、そこにお玉一杯分の生地を流し込み、ガレットが色づくのを待ってからひっくり返してください。そこからさらに一分焼いてください。

  • ガレットを皿にあげてください。卵一個とベーコン一枚を焼いてください。焼けたらガレットの真ん中にのせてください。お好みで塩と胡椒をかけてください。

  • これで終わりです。


この訳をお読みになった方ならもうお分かりでしょう。今回本企画の参加者に調理してもらうのはフランスの伝統的な家庭料理である、「ラタトゥイユ(Recette1)」と「ガレット(Recette2)」です。日本語で書かれていればわかりやすいですが、フランス語のレシピからフランス語の知識と料理スキルのみをもとに調理しきるのは極めて困難なはず。「料理得意チーム」と「仏語得意チーム」は時間内にクオリティの高い料理を仕上げることができるのか…彼らの挑戦の様子をご覧あれ!

第二章-料理得意チーム

【料理前】

 今回挑戦する料理得意チームの二人には共通点がある。それはカップルYouTuberであるところの「てりやきチャンネル」を視聴していることだ。「てりやきチャンネル」は登録者数約60万人を誇るチャンネルで、ほのぼのとした雰囲気と豪快な料理とのギャップが魅力である。挑戦する二人は大好きな「てりやきチャンネル」に最大の敬意を払いペンネームを「おねえさん」「おにいさん」とした。さて、ここで二人の自己紹介を見てみよう。

おねえさん「フランス語、、なんで名詞に女性男性があるのかほんとにわからないですよね、だから単語を覚える気にならないんです…自炊は基本的に毎日してます。でも気合を入れて作るのはたまーにです。ごはんとお味噌汁があれば生きていけるので、いつも簡単なものをちゃちゃっと作ってます!」

おにいさん「友達の家にアポなしで鯛を持っていって鱗取りから鯛めしを作ったことがあります!(多分めっちゃ迷惑なので真似はしないでください笑)自分が作る料理で好きなのは豆乳スープです。なにより簡単なので...
フランス語はフランス現代思想の勉強をしたくて選びました!でもあんまり最近は本が読めていません、勉強も頑張らないとなあ...」

果たして「てりやきチャンネル」さながら美味しい料理を作ることができるのか?!特別フランス語が得意なわけでもない一般東大生の二人による戦いが今、開幕する____。

【意気込み】

おねえさん「とりあえずおいしく作ります!」

おにいさん「正しさよりもおいしさ重視で行きます。結局美味しければなんでもいいんですよ()」

【レシピ解読】

 フランス語で書かれたレシピを受け取ると同時に二人は顔を歪める。


「とりあえず15分を目処に読んでください。」
運営チームから声がかかる。
「15分?!」
「ちょっと厳しくない...?」
意図せず漏れる不満の声。
「あ、でもさ」
混乱を打ち破ったのはおにいさんであった。
「材料がわかれば料理にはできるんじゃない...?」
「たしかに!」
というわけで材料の解読に注力する方針を決定。冷蔵庫の中にある食材をゴソゴソと取り出し、レシピと睨めっこする。
「’oignon’って絶対オニオンじゃない?」
「いや、そうだわ」
「あれやりたい。『お玉様!!』」
「『マァァ!』」


知っている単語を見つけてテンションが上がっていく二人。てりやきチャンネルのパロディまで演じ出して上機嫌だ。
「いや、’farine de soba’は蕎麦粉じゃん」
「ほんとだ日本語だ...」
「蕎麦粉といえばガレットだね。作ったことある?」
「いや、ないかな」
「だよねー、でも’un œuf’は卵だからホットケーキみたいな要領でできそうな気もするしやってみようかな!」
「じゃあおにいさんお願い!」
「任せろ!」 
ガレットはおにいさんの担当になった。引き続き二人でレシピを解読していく。問題はRecette1(レシピ1)のおそらく野菜を指すであろう単語たちだ。「いや...わからん」
「野菜の名前で知らない単語ってどうしようもなくない?」
「でもね、セロリは使うと思う」
「なんで?」
「いやセロリって使わないのに買うこと絶対ないじゃん...?」
「それは全部そうじゃないの...?」
「たしかに...?」 
謎の論理が構築されてしまったが、確かにダミーでセロリを買うことはなさそうだ、という理由でRecette1の材料に含めることになった。その後なんやかんやあって一度だけ翻訳チャンスを行使し、ナスが材料の一つであることが判明。トマトの量が多いことから無水のトマト煮込みと判断し、材料にはタマネギ、ナス、セロリを使い、おねえさんが調理を担当することになった。

【調理】

 レシピを解読(というよりも材料を推測)し終えたのでいよいよ調理に移る。おにいさんは卵を割って蕎麦粉と水と一緒に混ぜ、おねえさんは野菜の下処理をする。特に何の滞りもなく話し合いながら味付けを決めていく二人だが困ったことに全くレシピを見ていない。
「あの、翻訳チャンス使ってもいいんだよ...?」
困惑気味の表情で運営チームが二人に声をかける。
「あー、まあ味はなんとかなるから大丈夫!」
「いやそういうことじゃないんだけど...」
 フランス語で書かれたレシピを読解して調理するという企画の趣旨を破壊するマイペースな二人だが、どうやら調理自体は順調なようだ。


「味付けどうしようね?」
「う〜ん、コンソメとかあればいいんだけどね」
「えっと、まだ翻訳チャンスあるよ...?」
「コンソメとかある?」
「う〜ん...」
運営が困惑するのを尻目におねえさんはやはりコンソメがほしいらしい。一方でおにいさんはレシピを読みながらガレット生地を混ぜている。
「おにいさん、どうかした?」
「う〜ん、生地が蕎麦粉と卵と水だけな訳はないんだよね、絶対。流石に調味料が何か入るはずだと思ってさ。」
「確かに〜、なにかいい感じのものないかな〜、ん?」
調味料棚を漁りながらなにやら気がついた様子のおねえさん。
「え、’sel’あるんだけど?塩だよね?これ」
おねえさんが持っているのは’sel’とラベルに書かれた塩の入った容器だ。


「あ、ほんとだ。確かに塩だね。’sel’って塩だったのか!たしかに生地に入れるのも納得かも!」
定期テストで知らない単語が出てきたときに教室を見回してみると答えが張り紙に書いてある、といったような感覚のちょっとしたラッキーにも助けられつつ、(レシピ解読の正確さは置いておいて)料理自体はおねえさんもおにいさんも盤石に進めている。そしていよいよ調理もラストスパートに差し掛かる。


 おねえさんは相変わらず味付けに苦心している。
「お肉の旨味を足したらいいと思うの!」
「いいと思うよ〜」
気の抜けた返事をするおにいさんを他所目におねえさんは冷蔵庫を開けて食材を探す。
「シャウエッセンあるじゃん!」
「それ京都人の私物じゃなくて??」
京都人とは、今回撮影した部屋の家主だ。
「確かに」
「まあいいんじゃない?運営のせいにすれば」
「そうね、じゃあいれちゃうよ〜〜」
「はあい」
おにいさんが適当な許可を出し、おねえさんも適当に応える。
「味見してみようかな...」
おねえさんは徐ろにスプーンを取り出した。おねえさん、スープを味見して満面の笑みでひとこと
「あっ、これミネストローネだ!」
「でしょうね」

 一方おにいさんはガレット作りに勤しんでいた。生地が用意できたのでいよいよ焼いていく。おにいさんはガレットを食べたことがない。しかし、私たちのクラス、文科三類19組の他の小企画であるカフェ巡り特集の原稿を校正していたおにいさんにはなんとなくの出来上がり後イメージと味の文字情報が備わっていた。おにいさんがこのときイメージしていたガレットが知りたい方はぜひ当該記事を参照されたい。そしてもはやレシピを読むことなどおにいさんの頭の中にはなかった。勘だけを頼りに作り始めたおにいさんであった。しかしやはり一筋縄ではいかず、一人暮らしをしている京都人の小さめのフライパンでガレットの角を折ることは簡単なことではなかった。
「わ〜、ぐちゃぐちゃになってもうた。これ『要素ガレット』ってことでいい?」
「『要素ガレット』...?」
「うん、これは入っているものはガレットだけど形がぐちゃぐちゃのやつ。ハニーバターで味付けしてみたから食べてみて〜」
ハニーバターの香りに誘われて運営班も試食する。


「え...うま...」
「ディズニーでありそうな味じゃない?」
「なんかわかるわ」
ハニーバター要素ガレットなる運営チームが予想だにしなかった絶品スイーツが誕生してしまった。いよいよおにいさんの本番ガレットにも期待が高まる。まずは油を引いてベーコンをカリカリに揚げ焼く。本来ベーコンを焼く際には油を引く必要はないが短時間で高温の油を用いて表面の食感にアクセントを加えたいらしい。火を消して少しフライパンを冷ましてからガレット生地を薄く広げ再び加熱する。火の入りが早いのですぐにひっくり返すことができる。おにいさんがフライパンを振るとガレットは空中で美しく半回転し、まるでプログラムされているかのように正確に、すっぽりと収まる。これは期待できそうだ。


「え!めっちゃうまい!」
隣でトマト煮込みを作っているおねえさんも肉の旨味が追加されたトマトスープに大興奮している。こちらもなかなか上出来らしい。
「結局正解はいまいちわからないけどガレットに卵を落として蒸し焼きっぽくしてみようかな..」
アルミホイルを鍋やフライパンの蓋の代わりにするという自炊あるあるについて話しながら目玉焼きの完成を待つ。
「そろそろ良さそうな気がする」
おにいさんがアルミホイルを取る。
「え!黄身割れちゃってんじゃん!」
「うわ!ほんとだ!」
タイムリミットまではあと僅か。もうやり直しはできない。
「まじかぁ、悔しい〜〜」悔しさを滲ませながらも最後の仕上げに取り掛かる。
「ベーコンで塩気は足りると思うのでいい感じに乗せていって、最後にブラックペッパー振っときますか」
「こっちのスープも盛り付けできたよ!」
「せっかくだからセロリの葉も彩のためにトッピングしようかな」
「いいね。それじゃあ一通り終わったところであれやろっか?」
「うん」

 「せ〜の」「「完成!!」」

【審査員講評】

【見た目の美しさ】


【Recetteとの一致度】
 ラタトゥイユについては、忠実だったとは言えない出来でしょう。本来ズッキーニを表す単語をセロリと間違え、本来Recetteに記載のないソーセージを入れ、ハーブ類をスルーしたことは残念ですがレシピからは外れています。ただガレットについては、塩を表す”sel”という単語を奇跡的に見つけたこともあり、なんとかレシピに近い工程を再現できていました。

【おいしさ】

 ガレット:生地のモチモチとした口当たり、塩気のバランスが良く、運営班の試作品より美味しかったです。でも個人的にはガレットを作る過程でできたハニバタガレットの方が好きだったりします。蕎麦粉を感じる味で新感覚のスイーツでした。(検討)

 ラタトゥイユ: 本来はハーブの香りを感じる料理ですが、シャウエッセンを入れたことで、肉の旨味が感じられました。レシピ通りに作られたラタトゥイユからは少しずれているかもしれませんが、これはこれでとてもおいしかったです。ただ、Recette1には含まれていない肉やセロリのうまみをどう評価したらよいのやら…

【料理得意チームの感想】

おねえさん:思ったよりうまくいったと思います!途中からレシピ無視してたわりには笑 料理得意?チームらしく普段の料理感覚を活かして完成できました!個人的には某YouTuberのパロディができて楽しかったです!!

おにいさん:黄身が割れてしまったのが残念です...あんまりフランス語を読めたわけではないけど料理の勘的なものでなんとか形にはなった気がします。おねえさんと(あと運営チームの皆さんと)楽しく料理できたので僕は満足です!


第三章-仏語得意チーム

【料理前】

 本チームを構成する二人は我々文科三類19組が誇る屈指のフラ強である。二人とも前期の成績は100点満点で99点、東大生の上位一割しか取れない最高評価の優上をとった。普段の会話では図らずも口からフランス語が零れ出てくる。ここで彼らの自己紹介を見てみよう。

一人目 パレンセケー・シェパ 
 ほとんど自炊も致さず、全く料理が不能である。第二外国語でフランス語を選択した理由はほとんどなく、高校から始めていたからというただそれだけの理由。フランス語を喋るのは楽しいと思っているが、書くのは大変だと思っている。この対決には準備して臨んだのでいいものが作れるはず。

二人目 ジャスミン1
 フラ語は成績こそ良けれ、大学始めの初心者で、たまにラケットを振ると空振ることがある。自炊はほぼしたことがない、親の料理が美味しいので(言い訳)。意気込みですか?Aux armes, citoyen!(執筆者注:武器をとれ、市民よ!という意味でフランス革命の際の有名なセリフ。ジャスミン1の意図は不明。)

気品があり格式高い口調で執筆者は好きだ。相当にフランス語が得意な二人なので、本企画の立案当初からこの二人の出演を考えていた。料理ができない二人だが、フラ語の知識だけでフランス料理をおいしく作ることができるのか__。
 執筆者が当日の買い出しを終えて部屋に入ると、ふたりはなにやら話し込んでいた。


「僕が動詞をやるから、ジャスミン1さんは名詞をやってください。”mélanger”は泡立てるで、”malaxer”はなんだったっけ、あぁ練るか。『はいじる』は”lessive”」
いや、それは「灰汁(あく)」だ。
「えっと、”feu”が火で”sel”が塩、”poivre”が胡椒、これ覚えきれるかなぁ」
受験生ばりの勤勉さである。昨日の料理得意チームとは打って変わった、フランス語に対する真摯さ。しかし料理経験の不足も如実に出ている。どのような料理を作ってくれるのか楽しみである。

【レシピ解読】


 フランス語のレシピを渡すと、早速勉強の成果が表れ始めた。


「fouetって泡だて器じゃなかったっけ?あと、このfarine de sobaはそば粉?ってことはこれ、まさかガレット?」
名詞を勉強していたジャスミン1が名推理。さらにcoupezが切る、en rondelleが円形であることも思い出した。そしてトマトという食材から漠然とスープのようなものであることを予想した。料理得意チームよりかなりリードしていると思われたが、ここで仏語得意チームとしてあるまじきミスをしてしまう。パレンセケーが”courgette”(ズッキーニ)を”carrot”と間違えてしまう。ダミーの食材として購入してあったニンジンを確信をもって手に取ってしまった。この時は企画の運営として見事(?)引っかかってくれて内心喜ばしかったのだが、後にちょっとした後悔の種となる。Recette1, 2ともにが大まかな予想がついたところで実際に調理に取り掛かり始めた。

【調理】

 レシピ解読の時にはあんなに頼もしかった二人の姿はいずこへ。
「にんじんの皮って剥かなきゃいけないっけ?めんどくさいしもういいよね?」
待て。ニンジンの皮剥きは飛ばしてよい工程ではない。
「うわぁ落ちちゃった。まぁ火を通せばいけるか」
彼らは視認できる違いでしか判断できないのだろうか。落ちた食材を捨てる、もしくは食べるにしても洗う、という衛生観念は彼らの中にはほとんど無いらしい。きっとトイレに焼きそばが落ちてもドライヤーで乾かして食べるのだろう。包丁に慣れていない二人の手捌きはとにかく危なっかしい。切るのに苦戦しているかと思えばいきなりまな板を叩くような音もする。それに加えて切った野菜をまな板の上に放置しているため、まな板のスペースがなくなり野菜が落ちてしまうのだ。


切ったなすとトマトをボウルにようやく移したかと思えば、ピーマンだけなぜか計量カップに詰めるという独創的な発想を見せている。これはもはやある種の才能と呼んでも差し支えないのではないか。

執筆者も頻繁に料理をするわけではないがこの一連の行動には唖然とした。評価の公平性を言い分として、運営班は二人のエキセントリックな調理風景を静観することに決めた。
 料理得意チームは時間内に可能な限りクオリティの高い料理を作り終えることを優先し二人で別々にRecette1,2に取り組んでいたのに対し、仏語得意チームはレシピを正しく再現することを優先して二人で協力してRecette1を読み解こうとしている。さすがにフラ強とはいえ、食材を表す単語を網羅できていたわけではなかったらしく、翻訳チャンスを使って”aubergines”がナスであるという情報を得た。さらに授業でフランス語の先生がなにげなく言及していた”poivrons”がピーマンを表す単語であることも思い出し、知識の点と点が結び付き始めた。。ここでRecette1通り、ジャスミン1がaubergineとcourgette(実際はズッキーニだが彼らはニンジンだと解釈した)を焼き始める。

ある程度の料理経験があれば、ナスとニンジンの火の入り方の違いから「aubergineとcourgetteを同時に焼け」との指示には違和感を抱き、自分たちのミスに気が付いたかもしれない。ジャスミン1は一応の違和感がある様子を見せるも、自分たちの料理の実力よりフランス語の知識の方が優れていると考えたようでそのまま調理を続けた。その一方で、パレンセケーはoignonとpoivronを切り始めた。球体に近い玉ねぎの輪切りはどの方向に刃を入れるのが正しいのか、ピーマンの種は取り除くべきだったかどうか、初歩的なことを真面目に議論しつつも何とか下準備を終えた。
 
 次の工程は「15mlの油を熱した後でpoivronとoignonを炒める」というもの。計量カップを手にしたパレンセケーさんが一言。
「これじゃ15m量れへんぞぉ…」 
その通り。計量カップは普通50ml以上のものを10ml単位で量るためのものだ。
「そりゃそうでしょ。大さじみたいやつないの?」
「ほんまや」
Recetteの指示通りなすとニンジンをいったん火から上げて、ジャスミン1がピーマンと玉ねぎを炒め始める。
「休校中に料理してたら燃え上がりそうになって俺死にかけたんだよね…」
本企画の出演者として抜擢したことを少し後悔した。これまでの調理過程を考えれば起きないとはあながち断言できない。彼が火事を起こさないよう祈った。そんな運営班の心配をよそに彼らは調理を続けていく。レシピ中のニンニクとハーブを指す単語を解読したことで、Recette1の料理は完成に近づいた。あとはその二つを加えてじっくり煮込むだけだ。
 
 ここでレシピの精読をする戦略が裏目にでた。二人ともRecette1に気をとられているうちに、制限時間の半分以上が過ぎてしまっているが、Recette2に手をつけてもいなかったのである。
「そうか、こんなことをしている場合ではない。」
パレンセケーが焦ってRecette2を作り始める。今度はきちんと計量カップを使いそば粉と水を量り入れて混ぜる。
œufって確か卵でしたよね…Bien!」
上手に卵が割れて出た一言はParisienさながら。

しかしこの時点で残り時間10分弱。二人は焦って油を引いたフライパンに生地を流し込んで焼き始めた。
「やばっ。油多いな。お好み焼きみたい。知ってるガレットの見た目じゃないぞ」
「これインドの料理にありそうやな。チャパティか」
(執筆者注:チャパティとはインドの伝統的な薄焼きパンのこと。下の写真のようにガレットに酷似している。検討)
「残り時間後五分です」
「まずいっ。時間がない。あれ、ガレットの上何も乗せなくていいの?」
「いやベーコンエッグを作るようになってますね」
「ベーコンエッグとガレット、同時に焼くのは難しそうだな。ガレットは先に皿にあげて作る方がいいね。急ごう」
前半にゆっくり正確に作ろうとしたため、今や丁寧に時間をかけて調理する余裕はない。かなり難易度の高い工程だが、奇跡的にガレットをひっくり返すことに成功した。


「「「「おぉ~!」」」」
その場にいた全員から感嘆の声が漏れる。そのまま首尾よくベーコンエッグも作り切ってガレットに盛り付け、残り時間数十秒を残してからくもRecette1,2ともに作り終えることができた。
「よし完成!」
「Ça va!」


【審査員講評】

【見た目の美しさ】

【Recetteとの一致度】
 惜しみなくレシピ解読に時間を費やしたため、かなりレシピ通りの料理でした。レシピに沿わない点といえば、ズッキーニの代わりにニンジンを使ったことと最後ガレットに塩こしょうを振らなかったことくらいでしょう。他はフランス語の知識を駆使しながら上手に調理していたと言えます。
 
【おいしさ】

 ガレット:レシピにほぼ忠実な料理でした。生地を焼くのに引いた油が多かった分、カリモチの食感を上手く作り出せていました。生地自体では運営班の試作品、料理得意チームの完成品より美味しかったです。それにしてもどうしてコショウがセルフサービスなのでしょうか...

 ラタトゥイユ:Recette1にあったハーブを正しく入れていたし、ピーマンの味が利いていて、一般的に思い浮かべられるラタトゥイユに近い料理でした。しかしRecette1に記載していない二ンジンが入っていた上に、そのニンジンが硬かった気がします。ニンジンをダミーとして用意したことを少し後悔しました。あとは塩気がもうちょっと欲しいですかね。

【仏語得意チームの感想】

パレンセケー・シェパ:意外に久しぶりの調理であるのに、うまくいった。レシピがフランス語の割には善戦したと考える。また、レシピ通りに作ることがどうにかできたし、ガレットは美味しかった。これを機に少し料理をしてみてもよいと考えつつある。

ジャスミン1:普通に美味しかった、分厚く切った人参が素材本来の美味しさを醸し出していた。パレンセケー・シェパのフラ語読解力の素晴らしさに圧倒され、スタンディング・オベーション。


第四章-企画長総評

 両チームともに大健闘していましたね。得意分野は違いますがどちらのチームもおいしい料理が作れたことを考えると、苦手なものが多少あっても自分の強みを生かせばなんでも乗り切っていけるという希望が感じられます。さて、最終的な勝敗を決する前にもう一度両チームの結果を確認してみましょう。

【見た目の美しさ】

料理得意チーム:


仏語得意チーム:


この観点では、ラタトゥイユで赤と緑のコントラストが映えるように盛りつけ、ガレットでは四隅を折ってベーコンエッグを包んで一般的にみられるようにきれいに盛りつけた「料理得意チーム」の方が優勢と言えるでしょう。

(参考画像:松濤にあるガレットの名店「ガレットリア」さんの盛り付け 

詳しくは同じく19組の企画 
【東大文科三類19組駒場祭企画】 「駒場から本郷まで歩いてみた カフェ巡り編」https://note.com/famous_borage773/n/n01a92ca807baを参照)

【Recetteとの一致度】

料理得意チーム:ラタトゥイユについては、忠実だったとは言えない出来でしょう。本来ズッキーニを表す単語をセロリと間違え、、本来Recetteに記載のないソーセージを入れ、ハーブ類をスルーしたことは残念ですがレシピからは外れています。ただガレットについては、”sel”を表す単語を奇跡的に見つけたこともあり、なんとかレシピに近い工程を再現できていました。

仏語得意チーム:惜しみなくレシピ解読に時間を費やしたため、かなりレシピ通りの料理でした。レシピに沿わない点といえば、ズッキーニの代わりにニンジンを使ったことと最後ガレットに塩こしょうを振らなかったことくらいでしょう。他はフランス語の知識を駆使しながら上手に調理していたと言えます。

こちらはやはり、企画の前に真剣にフランス語の単語暗記に励んでいた「仏語得意チーム」の方が優れていましたね。

【おいしさ】

料理得意チーム

 ガレット:生地のモチモチとした口当たり、塩気のバランスが良く、運営班の試作品より美味しかったです。でも個人的にはガレットを作る過程でできたハニバタガレットの方が好きだったりします。蕎麦粉を感じる味で新感覚のスイーツでした。

 ラタトゥイユ: 本来はハーブの香りを感じる料理ですが、シャウエッセンを入れたことで、肉の旨味が感じられました。レシピ通りに作られたラタトゥイユからは少しずれているかもしれませんが、これはこれでとてもおいしかったです。ただ、Recette1には含まれていない肉やセロリのうまみをどう評価したらよいのやら…

仏語得意チーム

 ガレット:レシピにほぼ忠実な料理でした。生地を焼くのに引いた油が多かった分、カリモチの食感を上手く作り出せていました。生地自体では運営班の試作品、料理得意チームの完成品より美味しかったです。それにしてもどうしてコショウがセルフサービスなのでしょうか...

 ラタトゥイユ:Recette1にあったハーブを正しく入れていたし、ピーマンの味が利いていて、一般的に思い浮かべられるラタトゥイユに近い料理でした。しかしRecette1に記載していない二ンジンが入っていた上に、そのニンジンが硬かった気がします。あとは塩気がもうちょっと欲しいですかね。

 味について振り返りましょう。「仏語得意チーム」が塩・胡椒をかけ忘れたというミスはあったものの、ガレットの味だけでいえば両チームほぼ拮抗していると言えます。勝敗の鍵はラタトゥイユが握っています。(Recetteに記載のない食材をメインの食材として調理したのは両チームに共通するミスとして無視します。)「料理得意チーム」が持ち前の料理スキルを生かし優しい野菜のあまみとソーセージのガツンとしたうまみでラタトゥイユのクオリティを上げることに成功していたのに対し、「仏語得意チーム」はニンジンなどの野菜に十分には火が通っておらず、また十分な塩気も感じられず、全体として少し物足りなかったと言わざるを得ません。よって、この項目については「料理得意チーム」の方に軍配が上がります。

 上記三項目に関する審査の結果、2対1で「料理得意チーム」の勝利です!!!たとえ外国語で書かれたメニューをもとに料理を作るとしても、言語の知識より料理スキルがある方がおいしい料理が作れるのですね。(諸説あり。)
 これで料理対決の記事は終わりです。ここまで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました!皆さんに少しでも楽しんでいただけたら幸いです。我々19組はほかにもたくさんのチャレンジ企画をお届けしていますので、ぜひご覧ください!
 Merci beaucoup!  Salut!

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