見出し画像

42歳一独身公務員の旅行記(インド編)⑤「インドの路地裏で会社の同期を見たのだ」

 そして僕はまたリキシャに乗っている。運転手の運転はかなり荒く、ガタガタ体を揺らされまくりながら僕はリキシャに乗っている。

「オギヤマさん、基本インドでは誘いにはのらないことです。日本人の旅行者を狙うインド人は多いですから。リキシャに乗りたい時は自分から声をかけることです」
HISデリー支店のアラカワさん(日本人)は言った。
「デリーで観光したいんですが、どこかおススメとかはないですかね?」
「このあたりだと世界遺産のレッド・フォート(赤い城)ですかね。リキシャで30分くらいで観にいけますよ」
 それで僕は自分から運転手に声をかけてリキシャに乗ったのだ。

 あたりはどんどんインドになっていく。どんどん深くなっていく。どんどんはまっていく。
 クラクションの騒音は鳴りまくっているし、道路にはリキシャやバイクでごった返しまくっているし、砂埃だってたちまくっている。

インドの喧騒の中を走る

 インドに吸い込まれていく。けど不思議と怖くはなくて、勇気が湧き上がるみたいで、僕は右手で口元を抑え、まるでプロのスナイパーが標的に照準を合わせるようにインドを凝視していた。
 やがてリキシャは赤い城に着いた。

レッドフォート 赤い城

 ムガル帝国時代の城塞であり、1648年に完成したとのこと。この場所は完全に観光地であり、トイレを使うのに40ルピー(80円)レッドフォード内観光に500ルピー(1000円)支払う。

内部 ディワ―ネ・アーム(偉い人にあうところ)

 レッドフォートの敷地内は広く、1時間半はフラフラと観光した。だけど僕が観たいものはこれじゃないと思った。整備されたいかにも観光地じゃなくて、もっとインド、生々しいインド、リアルなインドに触れたかった。
 レッドフォートをでて、フラフラと歩くと大通りにでた。もう夕方になっていた。車と人でごった返して、騒然としている。

騒然とした大通り

 気づけば僕は人に、車に、リキシャに飲み込まれてしまっていた。右も左も、自分がどこに進んでいるのかさえわからなくなっていく・・・。インドに溶け込んでいくような、ひとつになっていくような、奇妙な心地よさがあった。
 クラクションの音。エンジン音。インド人の話しかけてくる声。信号機の音。雑踏の音。目の前がグルグル回ってくるようだ。

「あっ・・・!」

 人混みの中に、僕はある男の姿を見た気がした。
180センチくらい。ダボっとしたダウン。ヤンキースのキャップ。  
僕の方をみて、一瞬だけニヤリ、と笑ったー。
「ラジ君じゃないか!」
 CM制作会社時代の同期だ。研修時代、同じグループで3ヶ月間寝食を共にした。ラジ君はいつも斜に構えていて、虚無的で、目つきがナイフのように鋭く実にクールな男だった。僕とは住む世界が違う人間と思っていた。が、研修が終わる頃にはすっかり仲良くなっていた。
 僕が仕事に病むと、いつもそれを察知して深夜電話をかけてきてくれた。そして僕が電話をとると彼は決まってこう言うのだった。
「よう、クソ弱虫ヤロー、まさか死んでねーよな」
 その酷い一言で、えらく元気になれたものだ。
 ただ、ラジ君はある時 パッと会社を辞めてサンフランシスコに留学にいき、それ以降は音信不通になっていたのだった・・・。だけど僕はラジ君のことを忘れたことなんてなかったんだ。

「おーい!ラジ君!なんでインドに⁈」
僕は途轍もなく懐かしい気持ちになって、人混みの中を追いかけた!
しかしラジ君は僕には目をくれることもなく、路地の人混みの中を歩いていく。
「待ってくれよー!」
しかし人混みでなかなか前に進めない。ラジ君はどんどん進んでいってしまう。そして路地を右に曲がってしまった。僕はなんとか追いつこうと、人混みを掻き分けながら何とか前に進む。で、路地を右にまがったらー。
 「ラジ君⁈」

路地を右に曲がったら、ラジ君はもういなかった

「なんだよ・・・」
人違いだったのだろうか・・・。しかしそれにしてはめっちゃ似ていたのだが・・・。いや絶対ラジ君だったよな・・・。

 その路地裏には露店が並び、インド人でひしめいていた。僕は20ルピーでカレーヨーグルトせんべいを食べ、その2時間後思い切り腹を下したのであった・・・。

路上でカレーヨーグルトせんべいを作ってる
野菜を売っている人も

この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

再現してみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?