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戦略的モラトリアム【大学生活編】(37)

大学4年を控えた3月。ボクは大学に呼び出された。突然学内の掲示板に数十名の学籍番号が貼り出され何事かと思えば……。どうやら教育実習での注意事項を伝達するらしい。あくまで実習先の学校に迷惑をかけないことを言われ、あくまで学生として教わる立場であることを念押しされた。

そんなに迷惑なら、自分はヴァーチャルでも構わないのだが……ここまで口から出そうになったが、ここではおとなしくしておこう。
母校で実習をするといっても、2年近く不登校だった中学校に思い入れなどないし、田舎くささが3週間で染みつかないか今から不安である。どうせ、「〇〇のところの▽▽君が今度教育実習に来るんだってね。不登校だったのにね~」という世間話が噂好きの野次馬根性丸出しバカ野郎どもの話のねたになることは火を見るより明らかなことである。

あまり気乗りはしないのはもちろんのことで、それ以上に田舎の恥部がこれでもかというくらいフラッシュバックしてきて教育実習の意志が今から揺らぎそうだ。

「とにかく今は自分を磨くこと。それを心掛けてください」

教務部の職員がそう言うと、足早に教室を出て行った。必要書類と何とも言えない冷たい空気が教職課程を履修している十数名とともに教室に残る。
「いよいよだね」
「ドキドキする」
「何か準備した?」
「全然自信ないんだけど」
春休みの教室でそれぞれ談笑が始まる。

なんだろう。自分はその会話に参加するのがとてつもなく気持ち悪かった。人に言えるようなキラキラの目標ではないから。

自分には書類の整理と指導案、そしてどこ吹く風の肩で風切って歩く自分の生き方がすべて。それ以外は何もない。そう、この大学生活を、モラトリアムを存分に満喫するという口外禁止の鉄則だけが自分の毎日をカラカラと動かしていたのである。

教育実習があろうが、就職面接があろうが、大学生という今をじっくりと味わえればそれでいいじゃないか。

今更中学生に何を教えたところで、自分の中学生活はまさに潜水生活だったんだ。自分の経験が今の中学生に何か良い影響を与えるわけもないし。

大学4年の4月を迎える前に「教育実習」というイベントが5月に迫ってきたという無機質な告知が行われた日。自分の心は何も感じずに、ただ大学最後の学年を待つ、モラトリアム人間が夕暮れのCAFEに消えていったのだ。

ただ、その時の自分には「教育実習」がいかに刺激的な経験になるのか、まだ分かるはずもなかったのである。

「ベーコントーストセットお願いします」

3月の夕暮れ。CAFEのカウンターで夕食を食べながら、音楽とタバコの煙に包まれながら、「なんとなく」の毎日をまだボクは続けていた。そう、時間は確実に過ぎていくのに。

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fal-cipal(ファルシパル)
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》