戦略的モラトリアム【大学生活編】㉑

2年目の夏、夏季休業に入り、SPIの講座やら公務員講座やらがキャンパスで始まっていた。大学卒業後のことを見据えて動いていることが正しい大学生像なのだろうか。

自分はその流れに逆らうように今を楽しむことを大切にしよう。いや、それだと部活で汗水流して、夜は酒飲みの脳みそ筋肉バカと一緒だ。それどころか、単にバイトで遊んで夏を垂れ流すボンクラ大学生と同じだ。自分もボンクラであることには変わりがないが、奴らと一緒にされたくはない。

自分も夏を楽しむことには違いないが……。群れたり騒いだり……そんなことはしない。もっと後ろ向きであり、そして前向きなことをしようと思う。大学2年の今しかできないようなことを。飲み会やバカ騒ぎ、そしてバイトに明け暮れる毎日などではなく、もっと滾る何かを……。

他の学生から見れば「なんだ、そんなこと」と思われることでも、自分のぽっかり抜けた10代。

佐野元春の「10代の潜水生活」ではないけれど、せっかく陽のあたる地上に出てきたんだ。この立場でしかできないようなことをしたい。普通の高校生が当たり前に経験してきたことなんか吹っ飛んでしまうくらいの実のある貴重な体験を。

7月のあくる日、普段は時計代わりの携帯が鳴った。

「ああ、○○君。私。」

あの英語の先生だ。そういえば学会が何とか言ってたっけな。

「7月19日なんだけど、前日準備に来れる?千葉県なんだけど、大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です」

心もとない空返事。

「あぁ、よかった。じゃあ、当日会おうね。○○女子大学ね」

「はい、分かりました。勉強させてもらいます」

研究会……がり勉野郎やインテリなんかが我が物顔で歩いてるんだろうな……自分なんかが会場準備の後、そんな話を聞いたところで、何になるというんだろう……。若干の後ろ向きな雰囲気の後、ふと電話先の声を思い出した。

「女子大!??」

おいおい……。何のことなく聞き流していたが、こんな驚くことを自分に投げかけられていたなんて……。

これが、いわゆる「この立場でしかできないようなこと」

そして「普通の高校生が当たり前に経験してきたことなんか吹っ飛んでしまうくらいの実のある貴重な体験」

なのではないだろうか。

うん。本当に俗っぽいけど、参加することに意義がある。


「元不登校少年が大学の研究会に参加する」

お笑いの話じゃないか。たとえ失敗しても「大学生なんてそんなものか」で済ませられるただのわき役、使用人。そんな学部生の一人であるボクは何のリスクもない。ただ女子大に入ることを除いては……。

大学生というかけがえのない時間が、自分のモラトリアムたっぷりの欲望とともに何かに変化しようとしていた。

夏はここに極まれり。そしてギラギラした21歳の夏が幕を開けた。


福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》