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戦略的モラトリアム【大学生活編】(24)

英語教育ってそんなに深く考えたことなかったけど、こんなに深く研究課題があるとは考えもしなかった。ただ呆然と後ろで立ち見をするだけで、いかに自分が場違いかよく分かる。おかしな話だが、彼らは真剣なのだ。どんな生徒がいようが、教えることに没頭し、そのhow to についてユニークな議論を交わしていた。
「どうも。中学校希望ですか?」
同じくらい年齢の女学生が話しかけてきた。
「あ、はい、まぁ・・・・・・」
言葉につまったが、ここで「いいえ、何も希望していません」なんて言えば、ただの冷やかしに思われかねない。ここはその場限りの嘘で塗り固めた自分を演じようではないか。

「どこの大学ですか?」
「あ、・・・・・・○○大です。○○先生にお声かけいただいて・・・・・・」
「私はここの大学なんですよ」

ああ、会場になっている女子大の学生か・・・・・・。通りで品があると思った。失礼のないよう、受け答えし、さっさとその場を立ち去りたかった。私は一つの研究発表が終わると、人の流れにのってその場を立ち去ろうとしたとき、その女子大生は控え室に消えていった。自分も行く当てがなく、仕方なく控え室で待機している。何も仕事が入ってこないので、時間をもてあましてしまっているのだ。

ふと目を前方に向けると、一つの大学生とおぼしき集団が座談会のようなものをしていた。
「あっ、こっちこっち」
自分がなぜかそのグループに呼ばれた。申し訳なさそうにその学生グループの中に入ると、そこはまさに異世界だった。

そのグループに近づく前は、なんとなくのイメージで

どうせ最近の芸能ニュースだの日常の無駄話や、大学の不幸自慢、失敗談なんかを披露し合っているんだろうと思っていた。

だが、現実は...
「中学校のifの導入って・・・・・・」
「exampleを上手く使って・・・・・・」
「英検の指導法って・・・・・・」
こいつら、何話しているんだろう。受験生がようやく終わって、もう指導者スキル考えていやがる。まったくもって信じられない世界だ。こんな会話の中に自分が入ることはおろか、ここにいることさえ場違いのような気がしてきた。
どうしてあの先生は自分をこんな所に引っ張ってきたんだろう。どう考えても対岸に人たちばかりで、自分と同じ世界を生きている人なんかいやしない。外国に一人取り残され多様な気分になり、小さな亀のように教室の隅でひっそりと時間を過ぎるのを待つしかないであろうこの空間で自分はなぜか、この異空間の違和感グループ近くまで駆り出されている。

ああ、この場所から逃げたしたい。こんな優等生グループの中には入れないし、教員なんて目指していない自分がここでどんな発言をしたところで結局のところ、場違いになるか、はたまたものすごく失礼なことになるに違いなかった。

この緊迫感がさらに張り詰めたものになる瞬間がすぐそこまで。

「そういえば、君はどこの大学?どこから来たの?」

グループの大学院生らしきスーツ姿の男性が自分に話しかけてきた。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》