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『妖のよろず屋始めました〜猫又との出会い〜』本編

暑い真夏日が続いていた。
放課後、眼鏡の真面目な男は、壊される予定の古い体育館に呼び出された。

男は今まで何度も金を要求され、その度に何度も渡してきたがもう限界だった。

「もう……本当にお金はないです。許して下さい」
男は土下座して許しを乞う

数人の男達は、話しを聞き入れる様子はなく、金を渡さない事がわかると腹をたて、蹴ったり殴ったりと眼鏡の男に暴力を振るった。

眼鏡の男は何度殴られても、もう自分の家の金を盗むのにも何度も脅され続いている毎日にも疲れていた。

一方的に殴られついに意識を失った。

「やばい。やりすぎじゃね?」
「どうする?」

数人の男はリーダー格の男に縋る目でみる。
「お前達もやったから、全員共犯者だからな?」

みんな息を呑んだ。
そのまま眼鏡の男はその日から行方不明になった。


桜の花も満開になり花びらは雪のように降っている。
俺は暖かい春の日差しを身体いっぱいに浴びながら、教室の窓側の席で俺は外を眺めていた。

いつのまにか机に伏せて眠ってしまった。

「よろずやさん。よろずやのそうさん……うちの子供を探して下さい。」

夢の中で前掛けをした猫又が自分の子供を探して欲しいと頼んできた。

「よろずやじゃないよ?勝手にみんながそう呼んでるだけだよ……。」

母親らしき猫又は二股の尻尾をふわりふわりさせながら微笑んでいる。

「迷子?探してみるけど、あんまり期待しないでよ?」

俺の無理だろう……の気持ちが出た返事でも、母親猫又は嬉しそうに頭を下げていた。

俺は目を開けて、顎に手を当て肘を机につき、ぼーっとした頭で桜をまた眺めていた。

ーー妖怪の迷子とかどうやって探すんだよ。サトリのチカラだけで探せるのか?何でこんな事ばっかりやっているんだろう……。サトリは何で力を与えたんだろう?

サトリのチカラを得てからというもの、いろんな妖怪が爽を頼って頼み事をしにきていた。いつのまにか妖の間では爽は噂になっていたのだ。

目を閉じてサトリのチカラを使う。

俺には皆んなの心の声が聞こえる。始めは確かにびっくりした。嫌な思いもした。だが、どこか冷めている俺は人の心理なんてこんなもんだと受け入れてしまった。それからは別に心が傷つかないわけではないが、うまく聞きながす事ができている。

流石に教室でこれをやると沢山の声や心の声が聞こえて聞き取りにくい。
「俺が先に取ってたのに……」
「私の方が可愛いの持ってるわ」
「やっぱり好きだな……」

色々聞こえたが、私利私欲ばかりの声で猫又の情報になる声はなかった。

普通の人には見えない猫又の情報なんて教室で得られるはずがないと諦め、また桜を眺め始めた時だった。

「幽霊見たらしいよ?」

クラスの女が騒ぎはじめた。その話しをしている女グループの方を見た。俺は聞き耳を立てた。

「旧体育館、立ち入り禁止だけどサボるのに先輩達が入り込んで、そこで霊感が強い先輩が見たって」

「怖っ」

「学校の七不思議ってやつそれ?」

「行ってみる?」

「無理っしょ?」

「数年前消息不明の生徒がいるって言ってたし。その人
?」

「まじでやめよ。怖い」

女達は興味はあるが恐怖が勝り顔は引き攣っている。

ーー幽霊か……。じゃあ猫又じゃないか……。消息不明の生徒確かにいたな……。まだ見つかってないのか?父さんに聞いてみよ。

俺の父親は警察官をしている。県警の本部長をしており、忙しい為家を開けることが多い。

母を亡くして2人暮らしで、家を空けることが申し訳ないと思っているようで、俺が事件について少し聞けば、出していい情報だけ教えてくれる。きっとそうやって話題がない俺達の間のコミュニケーションの一つに使っているんだろう。

父の事を恨んだりもしていないので気にしないでほしいとは思っているが、それを俺も口にしないのはやはり俺は父を恨んでいるのかもしれない。
サトリのチカラを貰ってから言わない事も罪だと思った。

それから毎日学校が終わって普段なら学校から真っ直ぐ家に帰るが、街をウロウロして猫又情報を探した。

街で心の声を聞いたり、空き地に居たりしないか探してみたが全く情報をえられなかった。

ーーそりゃそうだよな〜。簡単じゃないよな〜。

父親が久しぶりに自宅に帰ってきたようで玄関のドアが開いた。

「おかえり」

父は少しだけ申し訳なさそうな顔で俺に話しかける。
「ただいま。出張で家空けて悪かったな。大丈夫だったか?」

「いつもどうりだよ」

「そうか。それならよかった」

その後沈黙ができた。
話題がないか頭をフル回転させた。俺は父に聞きたい事を思い出し、その質問にとびついた。

「そういえば……俺の学校の生徒が前、行方不明になったてニュースになったけど、その生徒あれから見つかった?」

「いや見つかってない。何でだ?」

父親は興味があるのか期待した目で俺の返事を待つ。

「この前学校で幽霊みた人がいるらしくて、その人じゃないかって噂になってたから。気になっただけ」

父はそれを聞くと残念そうに肩を落とした。

「幽霊か。死んだって決まった訳じゃないだろ。学校の防犯カメラが色んな所にある訳じゃないから色々探したけど見つからないみたいでな」

俺は真顔で言った。

「神隠しとかそういう感じかな?」

「そんなわけないだろ」

父は鼻で笑った。
父は仕事柄もあり、幽霊だとかそういうもうのは全く信じない。現実主義者だ。俺の今のサトリのチカラの事を話しても絶対わかってくれないだろう。

言えばきっと病院受診しろとか言われそうだ。だから父には何も言っていないしこれからも言わないつもりだった。


バスケ部の俺は土曜日は午前中部活で汗を流した。
体育館から部室に向かっている途中、20人くらいの私服の集団が校庭をウロウロしている。

フェンス越しの桜並木で花を見ている者や鉄棒で遊ぶ者などみんな思い思いに自由にしている。
不思議に思いその集団を見ていた。

「懐かしい。先生達いないのかな?」
「こんなんなかったよね?」
「埋めたのここ?あれ?あっち?」

懐かしむ声や記憶の違いに驚いたり笑ったりしている。

ーー卒業生?タイムカプセルの掘り起こしか……。

自分には関係ないと思いその集団の横を通りすぎる時に今度は心の声が聞こえてくる。

「まだ見つかってないみたいだ。まだ大丈夫」
「桜の木の下掘り起こされたら捕まるかな……怖い」
「旧体育館解体されたら、あの桜の木の下掘られるかもしれない……」

俺はこの心の声に驚き、振り返り男達を見た。
男達の顔は、他のみんなと違ってそわそわしている。

ーー桜の木の下にって……。捕まる?

クラスの女が話していた幽霊の話。数年前から行方不明の男。父に聞いた警察は未解決。

俺の脳内は、桜の木の下には、死体があってあいつらは犯人だと理解してしまった。

犯人を捕まえてやりたいし、桜の木の下を掘り出したくてたまらなくなる。

でも俺のサトリのチカラを誰かに言って信じてもらえるはずもない。でも俺は犯人を知っている。
どうしようもないループに大きなため息をついた。

犯人達は俺に知られた事もわからず安堵の顔をしている。
無力な俺は肩を落としそのまま部室に歩いて行った。


朝はまだ少し冷える。
朝日が昇りきらない早朝に旧体育館に向かった。旧体育館には鍵がかかっており現在は使われていない。旧体育館の周りにも桜の木が植えてある。

ーー遺体を隠すくらいだから死角になる桜の木があるところだと思うけど……。体育倉庫と旧体育館が重なる所かもしれない。

俺は思い当たった死角になる場所に向う。ここの桜は日陰が多いのか少し他の桜の木より散るのが遅いそんな木だった。桜の花びらも少量しか落ちていない。

俺は誰も見てない事を確認し持ってきたスコップで桜の木の下を掘り始めた。すると白い骸骨らしきものがでてきた。

「あっっ」

本当にここに骨があったので、俺は思わず声がでた。
すると桜の木の横に眼鏡の男の子が立っていた。
「見つけてくれてありがとう」

眼鏡の男の子は俺に微笑む。
俺は、眼鏡の男の子が人間ではない事は理解できた。少しスケていたから。

「貴方は数年前に行方不明になった人ですか?」

眼鏡の男の子は頷いた。
「君には僕がみえるんだね。君に頼みがあるんだけど聞いてもらえる?」

「僕ができる事なら」

俺は亡くなった人の望みがあるなら叶えてあげたいと思って頷く。

眼鏡の男の子は一段と嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。それじゃあこの子を家族の所に連れて行ってあげてくれる?僕が1人で寂しいからってここにずっと一緒にいてくれているんだ」

桜の木の後ろから小さい猫又がこちらを覗いていた。
「あ……猫又!」

俺が探している猫又だと直感で思った。
母親より小さいが、ホワホワの毛で三毛模様、しっぽが2本ゆらゆらしている。

「僕が生きている時に猫が死んでいるのを見つけると近くのに埋めたりしていたから、猫に気に入られてたのかな?この子が……俺が寂しくここに埋められた後に俺を見つけてここにきてくれたんだ。でもそろそろ僕も行かないといけないし、この子のお母さんも心配していると思うから」

猫又は眼鏡の男の子の側で気持ちよさそうに撫でられていた。
そして、眼鏡の男の子は切なそうな顔をして猫又を抱きしめる。

「ありがとう。さよならの時間だよ。君のおかげで寂しくなかったよ」

猫又は涙を流し眼鏡の男の子に言った。
「大好き」

そして猫又はニャーニャー泣き続ける。
眼鏡の男の子の姿が消えた。キラキラした光だけが居た事を示していた。

俺も我慢していた涙が溢れる。
「猫又おいで……。お母さんが探してたよ」

猫又は俺の側まで来た。俺は猫又をゆっくり抱き背中を撫でながら、離れた校舎の桜の下のベンチに行き座った。

桜の花びらは留まる事をせず次から次へと散り続ける。自分達に降り注ぐ花びらを見ていると、儚さと暖かい気持ちが伝わる。

「猫又……さっきの先輩がまだここにいるみたいだな」

猫又はニャーニャー泣くのをやめて、桜を見ていた。

暫くすると猫又の母親がどこからともなく現れる。
猫又は母親を見つけると走って飛びついた。

「どこいってたの?探しているのにワザと姿隠したでしょ?」

「友達が1人で寂しがってたから……。みんな友達を見つけてくれなかった。」

猫又の母親は、子供の猫又の話をきいて微笑んだ。
「そうなの……?お友達はもう大丈夫なの?」

子供の猫又は今度は嬉しそうに微笑んだ。
「もう大丈夫だよ。あの人が見つけてくれた」

俺を猫又の子供は指をさす。
「あの人好き」

猫又親子も俺も目を合わせて微笑んだ。


次の日教室に猫又親子が現れた。
「ありがとうございました。お礼に貴方の好きなモノを準備しました」

俺は、猫又親子の話に期待していた。
俺が恋してる詩織しおりが目の前にいた。

そうくん……。」
詩織は俺の右手をとり、ゆっくり自分の胸を触らせる。俺はあまりの衝撃に自ら手を引いた。

「どうしたの?詩織?」
「あたしの事好きなんでしょ?」

詩織はゆっくり笑う。俺はクラスのみんなを見た。

ーーん?クラスは誰もこちらを見ていない。何だか変だ……。夢?

「誰だお前!」

詩織は突然笑い出し詩織の周りは煙につつまれる。煙が消えるとそこには、年老いた老婆が立っていた。

「なんだい。見破ったのか。若い男を食えると思ったのに……」

ーーヤバかった。気がついてよかった。夢乗っ取られてた。

「お礼……怖っ。お礼はもう大丈夫です」

俺は丁重に猫又親子に頭を下げた。
猫又親子は満足そうにニャーニャー鳴きながら消えた。老婆も消えていた。

俺は目を覚まし放心状態で桜を見た。
膝の上の温もりに膝の上を見ると猫又の子供が丸くなって寝ている。

クラスの皆んなには見えないみたいだ。俺が猫又を撫でると猫又の子供が起きた。

「お前また出てきたのか?母さん心配するぞ?」
「大丈夫。母さんに言ってきた」

「お前名前は?俺は爽」

「俺はふく

「よろしく福」

爽に懐いた福は嬉しそうに目を輝かせた。そしてにゃーにゃー猫のように鳴く。

「やっぱり猫語か?わからんな」

俺は笑っていた。いつも心の中の声までもわかってしまう。解らない言葉が嬉しかったし安心できた。

にゃーにゃーにゃーにゃー
(訳 妖のよろずやは、可愛い子プレゼントしてくれたら、何でもやってくれるよ。みんな宣伝してね)

爽の知らない所で呼び込みをされ、それを聞いていた見えない妖達はまた噂を広め、爽への依頼が増えたのだった。

まだまだ爽の萬屋は続く……

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