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¬ PERFECT World 8話(完)

7話


8話

最初は悔しさが、次に悲しさが襲った。

タイチの寝ていたベッドに当たるだけあたって、床にへたり込む。

他人にここまで感情を揺さぶられたのは初めてだ。

 今思えばほとんどプロポーズじゃないか。という羞恥心と、それをあっさり断られた傷が駆け巡る。
ルーシアが忘れられない研究員とかも憎いし、タイチも憎かった。

タイチは、正直砂漠でのたれ死んでくれたらいいのに。とも思う。思った次の瞬間、あいつの最後に俺に向けた言葉が蘇った。

兄貴、か。
家出したって聞いてたし、好意を持っている相手ではなかったけど・・・いや、今があれでは、二人仲良くなんて想像つかない。

 ルーシアは、すべてに責任を感じすぎだ。タイチの暴走は別にルーシアが来たせいでもないし、研究員が名前で呼ばないままだったのも怒る所であって、悲しんでひきずる所じゃないと思う。

過去話になると、俺の出る幕じゃないんだけれど。

 出る幕じゃない、のは元からなのかな。
ルーシアにとっては俺なんてまだ子供で・・・
他人の感情にも疎かった俺だ。
ルーシアの全てが知りたいと思ったけど、知らなけりゃ良かったと思う俺もいる・・・どうして、俺はこんな独りよがりなんだろう。

「お兄ちゃん!いつまでウジウジしてるのよ!!」
 ナユリの容赦ない一喝が飛んできた。
振り返ると入り口の所で腰に手を当ててふんぞり返っている。

「ルーシアさん、2時の便で行っちゃうんだよ。今何もしなかったら、本当にもうこの村に来てくれなくなっちゃうよ!!」
「・・・・どこまで状況を知ってるんだ、お前は」
「振られたのは知ってるわよ」

 直球な言葉に、傷がさらに抉られる。言い返そうとしたが、遮られる。

「今更そんなの気にして、傷つく事じゃないでしょう?お兄ちゃんは、他人の感情に鈍感なくせして、人の心に土足で上がり込むのが得意じゃない。自分にも他人にも心があるって気づいたからって、今更踏み込むことに躊躇しないでよ。そこまでしなきゃ、他人に素直になれない人だっているんだよ!!」

 けなしてるのか、褒めてるのか。貶めたいのか、励ましたいのか。・・・でも、そうだよな。それが、俺だったんだよ、な。

 ナユリの目から、涙が流れているのに気付いた。

「ナ、ナユリ?どした?」
「私は、お兄ちゃんのそういう所好きよ。鈍感なお兄ちゃんだから、私は結構逞しく育ったと思う。普通なら私のこんな境遇、過保護にされて育つか疎ましがられるかだもの」

「だから、俺はけなされてるのか褒められてるのかどっちなんだよ。・・・ナユリ、お前、変わったな。・・・タイチの事なら、気にすることはないんだ」

「そのことなら、お兄ちゃんが気にする事でも、ないわ。・・・ここで言うのもなんだけど、私、トーマと付き合うことになったの。・・・そんなにびっくりした顔しないでよ。トーマが、私を叱って、励ましてくれるの」

 びっくりしすぎて言葉がでない。いや、確かにトーマは普段の行動とは裏腹に、義理堅いヤツではあるからその面では安心なんだけど・・・

 この数日ルーシアに気を取られてる間に、兄としての威厳がごっそりなくなってしまった様な気もする。

「・・・そりゃ、オメデトー。どうせ俺は、今までのツケが回ってきたんだろうよ」
なんか、もう、ふてくされるしかないような気がする。

ナユリはそんな俺に呆れたとジェスチャーで示し、指を突きつけた。

「だから、ルーシアさんの事を諦めちゃダメなんだって!!持ち前の真っ直ぐさでルーシアさんにもうひと押ししなさいよ。ルーシアさんだってその言葉を待ってるのよ!私はルーシアさんとお兄ちゃんはお似合いだと思ってる。だから頑張りなさいよ。今頑張らないと、一生後悔したまま生きていかなきゃいけないのよ!」

叫んだナユリの息が上がっている。今まで、こんな叫んだ姿は見たことなかった。

沈黙が続いた。

 俺だってもうひと押ししてやろうかという気概もあるが、躊躇する気持ちもある。
そんな時、ナユリがぼそっと呟いた。
「ルーシアさんが、タイチを殺してしまったらもう戻れないのよ」

ルーシアの最後の顔が浮かんだ。
皮肉げに歪められた顔は、
俺に助けてくれと訴えていたのではないか?

「そんな事させない!!・・・そうさ、させるもんか。あいつのせいで、ルーシアが傷ついていい訳ないんだ」

やっと、立ち上がる事が出来た。

「トーマが手土産を用意してくれてるわ。急遽用意したものだから、既製品だけどね」

にんまりと笑うナユリに、俺はなんだかハメられたような気がした・・・

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 必要な食糧を買い込み、旅支度を始める。村の雰囲気は半々といった所か・・・私たちが騒動の犯人ではないとわかっているけど、パーフェクトとは関わりたくない。

申し訳ない気持ちになりながら、それを弁明するべきではないともわかっていた。
これは、彼らの心の中の問題なんだ。

「ほら、ルー。またぼさっとしてる」
ハルが私の手を取って飛行場へと向かいだした。後ろ髪をひかれながらも、向かう。

昼に到着した飛行機が2時の離陸を待っていた。今週の最終便になる。
これを逃せば、帝国軍の目から逃れるのは困難になるだろう。

 飛行機に乗り込むのを待っていると、ハルがごそごそと買ったものの中から探し物をしだした。
「ルー。はい、新しい発信器」
ハルが前と同じタイプの発信器を私に渡した。

「ルーがこれからどうするかは自由だけど、これだけは譲れないわ。・・・あなたの心配をするのが、私のライフワークになってるみたいだから」
肩をすくめてハルが言ってくれる。

昔からハルには頭が上がらない。
皆の状況を把握して、対応してくれる。

 彼女がいなかったら、私は今頃生きていないだろう。私もしっかりしなくちゃとは思うんだけど、いつも彼女はその一歩先を行く。

「タイチを追うの?」
心配そうな顔で私を見る。

「・・・ケンには、そう言って別れを告げてきたけどね。本当は・・・前みたいに殺意だけを生きがいにする気はなくなったわ。だからと言って、何か目的がある訳でもないんだけど」

「タイチが改心しなかったら?『もう過去の事だから、私とは関係ない』って割り切れる?」

本当に、鋭い所を突く。
「無視はできないわ。・・・だから、ケンには私を吹っ切ってもらうつもりで言ってきたんだもの。この村にいてタイチの噂を聞いたら、ケンを傷つけてしまう」

「ケンと一緒にいたら、変われるかもしれないとは思わないの?今までのあなたを捨てて、この村で生きて行こうとは思わないの?・・・それとも、そう考えた時に、ケンに心変わりされるのが怖くなった?」

さらに痛い所を突かれる。

 今まで、ハルは私のしたい事をサポートしてくれたから。私がヴィリエの死を受け入れられずに復讐に走っていても、黙って見守ってくれていた。
だから、ここまで核心を突かれるのは初めてだった。

「・・・それは、怖いよ。ケンだってまだまだ若いし、私一人だけを好きで居続けるなんて、それを強制させるなんて、出来ない。・・・自信がない」

ヴィリエを好きだった時とはもう違う。

自分達が世界の全てだとは思わないし、目の前にはいろんな可能性があるんだと知った。

知ったから、怖い。

また、涙が出てきてしまった。
ケンと会ってから、なんと涙もろくなったことか。

「そんなに急いで結論を出さなくてもいいと思うよ。ただ、この村に帰って来れるかどうかは分からないから、ケンの事は諦めた方がルーシアもこの先辛くないと思う。・・・私も、ケンに諦める様に進言しちゃったしね。ごめんね、むしかえしちゃって。ルーの本心が聞きたかったの。本当は一歩を踏み出したかったのか、踏み出す気なんてなかったのか・・・前者、だったみたいね」

ハルが私を抱きしめながら謝った。
私もそれに笑顔で返す。
うまくできなくて、泣き笑いみたいになる。

「さ、搭乗開始だわ。行きましょう」
ハルが飛行機の搭乗ステップへの移動を促した、その時だった。
「ルーシア!!」
今一番聞きたかった声、でも一番聞きたくなかった声が聞こえる。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ケンが袋を抱えてルーシアの元へと走ってきた。飛行機を向いたままのルーシアのすぐ後ろで立ち止まる。

 ハルは感心した様にケンを見て、ケンの後ろについてきたナユリとトーマはニヤニヤして二人を見守っていた。

「こっちを向いてくれよ、ルーシア。・・・分かった。じゃあ最後の話をしよう。だからこっち向いてくれ」

ルーシアが意を決して振り向いた途端、すごく煌びやかな袋が目に入った。

それをそのまま、ほとんど押し付ける形で渡される。

「・・・こ、この辺の地域は、ワンピースを生涯を誓う女性に渡すんだ。・・・だから、プロポーズ、だ。ルーシア。俺はずっと待ってる。きっとこの村に、俺の所に帰って来るって信じてるから!それを着て!俺の所へ戻って来てくれ!待ってる!」

突然の事にケンの顔を見つめるしかないルーシア。

真っ赤なケンの顔。

その向こうにはニヤけっぱなしの二人。
この状況を察したルーシアは、思わず吹き出してしまった。

「ふっ、アハハハ!・・・ご、ごめん、ケン」

 ルーシアの笑い声に反応したケンは思わずルーシアを睨み、その次はルーシアの『ごめん』に反応して泣きそうな顔になった。

「ち、違う違う!笑ったことに謝っただけで、プロポーズを断った訳じゃ・・・ない、よ」
思わず本心が出た形となってしまって、ルーシアの顔も真っ赤になる。

「ケン。本当に、私でいいの?」
二人の沈黙を先に破ったのは、恥ずかしげに話しだしたルーシアだった。

「私も、ケンの気持ちに答えたい。答えたいけど、私、絶対あなたの重荷になるわ。私がパーフェクトであること、私の所在が帝国側に分かれば狙われる事・・・タイチのことも」

「重荷上等だ。一緒に、悩ませてくれ。俺はルーシアと苦しい事も楽しい事も、悲しい事も嬉しい事も、全部分け合いたい。楽しい事ばかりじゃないのは百も承知だ。だからって、このまま離れ離れになったって苦しいんだ。だったら、二人で一緒に悩めばいいじゃないか。俺はそうしたい。ルーシアは?」

これ以上説明の必要もない位の丁寧な言葉。周りの3人もルーシアの答えを待っている。

ルーシアの目から涙が溢れる。

「私もケンと一緒に生きたい。ケンと一緒に笑いたい。私にとっても、ううん。私にこそ、ケンが必要よ。だから、求めた途端離れて行ってしまうのが怖かったの」

「俺はルーシアを嫌いになったりしない。忘れたりしない。他の人を好きになったりしない。ずっと待ってるから。だからルーシアも俺を信じて、戻って来てくれ」

涙が止まらないルーシアは、ただただ頷く事でケンに答えるしか出来なかった。

出立の時が迫る。

 係員に促され、ハルとルーシアは荷物を持って飛行機の中へと移動する。
飛行機へ入る寸前で、ルーシアは最後にケンを振り返った。

ケンは出会った時と変わらない、真っ直ぐな目でルーシアを見ていた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 いつまでも空を見つめ続けているケン。
そんなセンチメンタルな姿に、トーマが空気を変えようと咳払いをした。

「ところでさ、ケン。もうひと押しする手もあったんじゃないのか?」

何を言っているのか分からないケンに、トーマがいたずらっ子の笑みで答える。

「プロポーズと言ったらキスだろうよ。なんでしなかったんだよ。慰めのチューでもうひとお」
ケンはトーマの頭を真上から拳で殴った。
「っったー!!おま・・・今のは本気で痛い」
「うるせー!お前と一緒にするな!・・・お前ら、まさかもうしたのか?」
「やだなー。そんな事してませんって、お義兄さん。せいぜいチュー止まりデスヨ」

 トーマが続けざまにケンをからかう。
とんだとばっちりにナユリは顔を赤くした。

「!?ってかキ、キスはしてんじゃねーか!ナユリ!本当にこんな奴でいいのか?後悔したなら、俺が絶対ぶっとばしてやるからちゃんと言えよ!」
ナユリが顔を赤らめたまま首を思いっきり振る。

 その時、ケンは商店街の方から歩いてくる二人を見つけた。
「あ・・・」

 ケンの様子にその方向を見た二人も、言葉を失くす。マコトに付き添われて歩いているのはリナだった。やつれている。
様子が心配ながらも、会えなかった彼女。
「よう。やっぱり、間に合わなかったな」

 数日前から、マコトにだけは会ってくれる様になったのも聞いていた。
献身的なその姿に、リナも心を開いてくれたらしい。
「リナが、見送り行きたいって言うから。・・・いろいろ悩んでるうちに、遅くなっちまった」

 掠れた声で、リナがケンの名前を呼んだ。
「ルーシアさんに、お詫びをしたかったの。気が動転していたとは言え、ひどいことを言ったわ」
「・・・ルーシアはそんなの気にしないよ」

「思い出すの。あの子を、サニーを可愛がってくれたルーシアさんを。その度に」
リナが泣き崩れる。マコトがリナと一緒にしゃがみ込んだ。

「リナ。ルーシアは戻ってくる。・・・俺と約束したんだ。その時、会ってくれるか?」
リナの前に同じようにしゃがみ込み、ケンは苦しそうに語りかけた。

 リナの悲しみも解る。ケンだって、サニーを生まれた時から知っていた。
住んでる家が違っただけで、兄妹みたいなものだったのだ。
シオンの事だって・・・皆、悲しくない訳がない。

 けれど、ケンはルーシアと共にいると決めた。それは、ルーシアと他の人たちの懸け橋になるという事なのだ。
無神経だと言われようが、その為の行動は惜しんじゃいけない。

「ケン・・・分かったわ。頑張る」
力ない、精一杯のリナの笑顔。



 砂漠の中に、瓦礫が点在していた。一番近い村から徒歩で3日かけて辿り着いた場所は、ルーシア達のいた研究所だった所だ。

「良かった。この目印は埋もれてなかったみたい」

ルーシアは屋根の様に積み重なった瓦礫を見てホッとした。屋根の近くにある、一抱えはあるコンクリートの柱  墓標にも見える  の傍にしゃがみ込み、砂を掘りはじめる。

「ちょ、ルーシア!?」

 突然のルーシアの行動に、さすがのハルも度肝を抜かれた。
「あ、ごめん。大丈夫。ここにヴィリエは眠ってないわ。眠ってるのはあっちの屋根の下の方。こっちは、ヴィリエが私に託した鞄があるの。結構用心して掘ったから、もうちょっと・・・」

ハルは肩をすくめ、ルーシアを手伝う事にした。
少しすると、茶色い、頑丈そうな旅行鞄が姿を現した。

 ルーシアは鞄を空け、中から三冊のノートを取り出す。一つはノートといっても紙の束で、一つは普通のノート、さらにもう一つは古びた高級そうな日記だった。

「ヴィリエの書いたのは、普通のノートと紙の束の方なの。研究書類の裏に書いてるから、すぐわかったわ。あの時は辛くてまともに読めなかったけど、今、読まなくちゃ。前には進めないわ。この鞄を託したって事は、私にこれを読んで欲しかったんだろうし・・・」

 ヴィリエが眠っている方に向き直り、ルーシアは紙束を持ってかまえた。
目を落とすと、研究所に採用された時の様子が書かれている。



 手術の構成を空で言ったら、一発で採用された。当然だ。今まで俺は師匠に教え込まれたんだ。
しかし、素性も知れない俺を採用するとは、ここの所長も変わったヤツだ。



 今日、実験に晒される人がいる場所まで行ってみた。驚いた。まだ皆子供じゃないか。A氏は本当にパーフェクトを人間兵器として使うのか。
息子でここの所長は父親とは違う意見を持っているようだが。



 ここは他の研究所とは少し違うらしい。A氏の考え通りに動く奴らの他に、所長の考えで動く“所長派”がいるみたいだ。
師匠一筋で生きてきた俺には狭苦しい問題だが、人間の最低居住や衣食は確保するので、一応所長についていこうと思う。



 子供たちの所へ通っている。そこで、一人気になる子がいる。いつも明るく、友人と周りを温めているような子だ。名前をルーシアと言う。
ルーシアは北の地域の言葉で未来と言う意味だ。あそこで励ましている子にぴったりな名前だ。



 ルーシア達はここの中でも逞しく生きようとしている。俺が危害を加えないと知ると、どんどん寄ってくる。正直、研究所の中を知ったら勝手にいなくなろうかと思ってたんだが、この子たちが無意味に実験で死んでいくのが忍びない。



 師匠の事を正直に言うわけにもいかないので、俺は研究者になりたかったが町医者で終えた者に教わった。ということになっている。その立場が少し得したな、と思った事がある。

所長に父親、A氏の事を聞いてみた時の事だ。あまり話したくはなさそうだったが、俺が元流れ者だからだろう、少し話してくれた。

「好きな女性一人も信じられない変態」

だってさ。本当に少しで、側面的だけど、なんとなく想像つくのが怖い。“好きな女性”ってのが、所長の母親で、おそらく師匠の腕を切り落とした女性なんだろう。



 今日、初めて執刀代表となった。対象はルーシアだった。大丈夫、意識を取り戻したことを確認したし、後は四肢の確認作業だけだ。
大丈夫、俺は成功したんだ。



 パーフェクトの能力を発揮させながら、ルーシアは順調に研究を成功させてくれる。ただ、少し気になることがある。ルーシアがパーフェクトになった辺りから、所長が俺にきつく当たる様になってきた。
同時に、ルーシアへの執着も見せ始める。蛙の子は蛙、か。



 以前は黙認していた子供達への名前の呼びかけが、注意対象になった。次々と手術が成功する中、パーフェクトと気さくに話してはまずいのだろうか?俺は、名前の呼びかけが手術で一番の要だと思っているのだが。



 今日、キイチが死んだ。手術が怖い、死にたくないと一番怖がっていた子だった。暴走したキイチを止めようと、必死になって叫んだのが仇になってしまった。ルーシアを呼び寄せ、傷つけてしまった。
 俺は、ルーシアが好きだったんだ。
ルーシアの名前を呼びたいから、他の皆の名前も呼んでいた、それに気づいた時、ルーシアは俺とならどこへだって逃げると言った。ダメだ。これでは彼女の二の舞じゃないか。かといって、俺ではルーシアを自由に出来ない。その資格もない。
ルーシアの執着を、早く絶たなくては。



 人間兵器として訓練を強制される日々。
いつルーシアが訓練中に死んでしまうか分からない恐怖。
ルーシアが、俺の居場所を作るために所長の命令を聞いているのが不憫でならない。
でもここで声をかければ、俺がルーシアに命じて所長に従っているフリをしていたと濡れ衣を着せられ、処分されかねない。
所長は、そのバランスが分かっていてルーシアをわざと使っているのだ。



 最後まで連絡を取っていたH研究所からの連絡が途絶えた。おそらくAtype24の仕業だろう。近い内にここに来るんだろう。研究員だけでなく、パーフェクトまで殺すというのだから、対策は打たなければならない。


 襲撃が来た際、爆破、有毒ガスが発生する仕掛けを作った。これで確実に所長は死ぬし、Atype24もパーフェクト全員を追うことは難しくなるだろう。俺が最後に出来る事だ。
ルーシアを、ルーシアを支えてくれる者達を自由にする。



 俺は、ただ人を幸せにしたかった。
師匠にとっては俺の腕を手に入れる為だけの理想だったのだろうが、俺は、俺には本物だったんだ。
それを実現させようと躍起になったけど、巨大な組織の前に屈した小さな男だった。

そんな自分を、ルーシア、君に見られたくなかったんだ。

 俺の事は、最後まで素直になれなかったずるくて醜いやつだと笑ってくれ。怒ってくれ、憎んでくれ、でも、泣いてくれたら嬉しい。

俺はそんな事を思う、どこにでもいるただの男だ。

それに気づいたら、未来へ向かって歩いてくれ。


師匠と、ハダリーと、A氏と、所長と、そして俺の話はこれでおしまいだ。



最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

あとがき

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