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第11話 隣の家族

4人家族の父親は伐採時に、片腕を失った。
片手で大木に振るう大斧を、持つことさえ難しく、
家族の暮らす大きな屋敷に連れて行かれた。

家族に会えた夫は、待遇を妻に聞き、
何の不自由も無く暮らしていると妻は夫に言い、
家族の再会を喜んだ。

そして明日、別の場所に移動する事を告げられ、
ゆっくりと幸せを噛みしめ、食を取り、眠りについた。

明朝、家族は荷台に乗り、朝食を手渡され、荷台で食べるよう言われた。
前後に一騎ずつの僅かな共とともに移動を開始した。
移動中、一騎の者が駆け寄り、先頭の男に何やら話して、その男は
そのまま、来た道を引き返して行った。

家族の長である夫は、もう役に立たない自分と家族を何処へ連れて
行く気なのか気になり、先頭の馬に乗った男に話しかけた。

「何か問題でもございましたか?」

男は平然と「ただの報告です。ご心配には及びませぬ」と答えた。

「私はもうお役には立てません。一体どちらへ参るのでしょうか?」

「伐採に危険は付き物。当然、その場合に対しての仕事があります」

「家族とはまた別の場所で働くのでしょうか?」

「いえ。この仕事は家族もご一緒にできるので、ご心配めされるな」

夫はホッとした。妻と子供といる事ができるのなら、
場所は何処でも良いと思った。

安心したのもあって一家は眠りについていた。

父親が身を起こすと、遠目からでも見えるほど立派な建物が見えてきた。
荷馬車はそのまま屋敷の中に入って行き、奥まで行くと、
先行していた騎兵と、後続にいた騎兵も入口から出て行った。

そしてその入口はガコンッという鈍い音とともに閉ざされた。

父親は家族を揺さぶり起こすと、荷台から降りたが、父親は転ぶように落ちた。
体内時計では夜か夜中なのに、太陽のように眩《まぶ》しい光に照らされて、
手を翳《かざ》して、室内を見回した。

足取りはフラフラしていて、まともに立ってはいられなかった。
記憶も曖昧で、確か先導騎兵が何か言っていたが、考えても考えても
思い出せなかった。

まさか……毒か? と父親は思った。妻や子どもたちも起き上がるのが
精一杯である様子から手渡された朝食に、毒が入っていたのだと理解した。

しかし、何故、わざわざ手の込んだ事をするのかと思った。
殺すならいくらでも手段はあった。眠っている時なら尚更だと。

人の声が上から聞こえてきた。それも複数の声が何かを話しているようだった。
明るさに目が慣れてきた円形のこの部屋の上層には、少なくとも20名以上の人が
自分たちを見下ろしていた。

意識が朦朧《もうろう》とする中で、誰かの声が聞こえてきた。声を頼りに、隣にも同じような部屋があることに気づいた。

そして隣の部屋とこの部屋は、太くて硬い鉄格子から様子を見ることが出来た。
隣の部屋の男は自分たちには目もくれず、上層にいる者たちに訴えていた。
「もう限界だ……頼む! 解放してくれ!!」

その男の両足は切断されていて、焼き印で血止めをしていた。
「俺はもういい……妻と子をこの地獄から解放してやってくれ」

そして、一枚の紙が、ひらひらと上層から落ちてきた。

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