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カナダ留学備忘録⓪出発前2023/7/19

テーマは「宗教」

今回の交換留学は大学の必修単位と結びつけられており、その単位の取得のためには、自分で決めたテーマに関してフィールドワークをしながら調査をしなければならない。そこで私は、「宗教」をテーマに設定した。国内外には様々な社会問題が溢れているが、それらに対して物質的な解決方法が求められているものもあれば、人々の意識の変化が大きな影響を及ぼすものもある。私はそのような問題において後者のアプローチに注目し、その中でも日本ではあまりその形が見えづらい、宗教に焦点を当てることで、海外の人々が普段の生活観、諸問題への価値観をどのように形成しているのかを探っていきたいと思う。

背景

例えば、アメリカではキリスト教系保守とリベラルとの分断が顕著に見られる。前者の思想は反LGBTや中絶禁止などの政策にも影響しており、宗教が社会問題といかに結びつけられているか感じられる良い例である。一方カナダは性的マイノリティに配慮した政策も多くあり、LGBTフレンドリーな国家として知られている。ここにどのような宗教観が含まれているのか、もしくは全く含まれていないのかに関しても調査の余地があると考える。
また、このような宗教に対する興味から、信者が集う場としての教会も調査対象として強く惹かれている。そこで今回私は教会をフィールドワーク地として定め、そこでできればコミュニティの一員となり、教会へ通う人々を主に観察することで、人々にとって教会がどのような場所かについて調査する予定である。

方法

書籍「調査されるという迷惑」に書かれていたように、部外者が急にコミュニティの中に踏み入り、相手の立場を考えずに自分の調査を優先させるようなことは、あってはならない。相手との距離を測りつつ、無理矢理話させるのではなく、相手が話したいと思うような環境を作ることで、単なる情報提供者と感じさせないように注意することが大切である。この書籍の中で、神職の方が「話せば話すほど、『徳』が下がっていくような気がする」と話していたと書かれている。研究者が調査対象者らと同じ信仰心を持つことはできないかもしれないが、それを敬う姿勢は必要である。
 
上記を踏まえ、私は今回の留学の間、現地で一つもしくは複数の教会に直接足を運び、現地の信者と交流していくことで、その様子や背景を考察していきたいと考えている。ここで私が主軸として立てるリサーチクエスチョンは、「教会で過ごす時間は、人々にとってどのような意味を持つのか」である。現地での生活がどれほど忙しくなるかについては予測できないため、調査期間を短期に絞って集中的に通うか、長期的に時間があるときにだけ顔を出すようにするかは、未定である。しかし、一度だけ行って一気にインタビューなどをするのではなく、実際に教会での様々な活動に参加して参与観察を実施しながら、教会に通う人々とある程度の関係性を作り、そこから情報を得ていきたいと考えている。

特に宗教はセンシティブなトピックであるため、まずは相手の信仰に対して否定的な態度は決して示さないことが重要である。私はキリスト教の教会における活動に関心があるが、調査という活動をおこなうに当たっては、協力してくださる人々に対して、事前に私の関心や知りたいこと、得られた成果の発表方法などについて説明したうえで、話を聞くことにする。相手が、私と話すことを躊躇するときや調査という形で話すことを拒否する場合には、いつでもすぐに調査を中止し、それまでに聞いた話を公表しないことを相手に対して約束する。これに関しては人々の様子や状況によって考えたいと思う。
 
現段階ではどの教会を調査するか特定の場所を決めているわけではなく、教会で何が行われるのか詳細を調べているわけではないが、一般的に神父/牧師さんの話を聞いたり、歌を歌ったり、祈りを捧げたり、もしくはイベントを開催することが多いと思われる。できるだけ教会に通う人々と交流したいため未信者も対象としたイベントには積極的に参加したいと考えているが、キリスト教の教義についても学びたいため、Bible Studyにも機会があれば参加したい。日本の教会で聖書講座に参加したときは、神父さんのお話が非常に興味深く、聖書の内容と現代の諸問題を関連付けて話されていたため、カナダの教会ではどのような話があるか、楽しみである。そこで自分もコミュニティの一員となり、人々がなぜ教会に通っているのか、また、教会でどのような学びを得ているのか、観察することによって自分のリサーチクエスチョンを探究していきたい。

課題

この調査において、一番の懸念点は言語の壁である。私の現段階での英語のレベルは日常会話程度であると自覚しているため、日本語でも理解の難しい聖書などを英語で勉強できるかどうか、正直なところ不安である。自分の語学力の向上のためにもできる限り努力したいが、あまりにも理解が及ばなければBible study は諦めるかもしれない。どちらにしても、ある程度日本語で聖書を勉強してから行くつもりである。また、ある程度の関係性を作ることができ、もしできそうであると判断すれば、そのコミュニティの中でインタビューもしたいと考えている。具体的に何を聞くかを決めていくというよりは、彼らが話したいことを話してもらうといった姿勢で臨みたいが、これも状況次第で考えていく。

観察・考察

以上のように、比較的ミクロ的な考察に重きをおきつつ、マクロな視点でカナダの宗教観についても観察・考察したいと考える。カナダの国勢調査によると2021年のカナダにおけるキリスト教徒の割合は53.3%であり、2011年の67.3%、2001年の77.1%から急速に減っている。このようなキリスト教徒の減少にはどのような背景があるのだろうか。また、実際に信仰を持った信者の数はこの数字よりも少ないと私は考えている。教会離れが進んでいるのにはどのような理由があるのか、信仰を持つ人、そして持たない人はそのことに関してどう考えているのか。

教会での調査において語学力の問題でうまく観察できなかったり、コミュニティの中で関係性をうまく作れなかったりすれば、大学で親しくなった友人などに協力を頼み、このような問いについても調査できればと考えている。また、普段の生活の中でキリスト教の影響が感じられる経験があれば、それらについても記録していくつもりである。もしくは、日本の文化がいかに仏教、儒教の影響を受けていたかについても考察できるいい機会となればと考えている。日本人が普段意識していない側面だからこそ、新しい発見を期待している。

また、カナダでは宗教の代表格はやはりキリスト教であるが、多様性国家であるため、もし機会があれば他の宗教にも触れてみたいと思う。加えて、無宗教・無神論者の人々についても、日本のそれと比較してどのような違いがあるか、機会があれば調査していきたい。現地の人々だけでなく、他の留学生も含め、多様な宗教的バックグラウンドを持った人々と積極的に交流を交わすことで、日本では得がたい貴重な経験を積みたいと考えている。

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