見出し画像

みかんのみんな

夜ふけの台所はふしぎの国。

ひるまはむっつり屋の野菜や果物が、ひそひそ、ざわざわ。

心を澄ますと、みかんが語りかけてくれました。

 

ぼくらはね、ごらんのとおり、ふぞろいなの。

大きいのや小さいのや、あちこち傷ついて泣いたのや、いろいろなの。

食べてみて!

中身も、あまかったりすっぱかったり、そうかと思えば種ばかりでぱさぱさだったり、みーんなちがうんだから。

でもね、ぼくらは、ひとつの木にみのった仲間なの。

だんだん畑のみかんの木。

見おろす海はガラスのかけらみたいにきらきらしてた。

身を寄せあって育ったよ。

枝さきでお日さまに気に入られ、まるまるとふくらんだ大きなみかん。

うらなりでぬくもりを知らず、小さいままのさみしいみかん。

鳥から仲間をかばおうと自分が傷だらけになった痛いみかん。

風にもぎとられ地に落ちていった、あまたのみかん。

収穫の朝、親木は別れのことばをぼくらにくれた。

 

みんな、よくがんばったね。

ひとつひとつのいのちを、せいいっぱい生きたわね。

小さくてもいい。

傷だらけでもいい。

ひとつだっていらない子はいない。

どの子もなにかしら役目があるの。

自分にはわからなくても、神さまはちゃんとご存じよ。

だからみんな、うまれてきたの。

白い花から、うまれたの。

ひとつひとつの輝きは、遠い星の光のようにちっぽけだったかもしれない。

でも、みんながあつまって、天と地のあいだの空気を金色にうるませた。

さあ、それを忘れないでおゆきなさい。

かけがえのない光の子。

 

みかんのことばを、りんごやかぼちゃもしみじみと聞いていたのだと思います。

夜話が終ったとき、ひっそりした台所を充たしていたのは、さわやかなみかんの匂いでした。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?