マガジンのカバー画像

ことばの作品集

21
みどりにひかる本になることばの倉庫
運営しているクリエイター

記事一覧

星よ、きてください

あの青い星に、ひとりのかなしい子がいます。 その子は帰りたいのです。母なるひとの腕のなか…

ささぶね ~田舎オネエの語る夏~

夏は昼寝にかぎるわね。 縁側に籐の枕ころがしてさ。 寝そべった床板はひんやり冷たくて。 そ…

花のふたご

生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか、わたしはときどき、わからなくなる。 …

杖のふたり

どこへゆくにも、ああちゃんとすうちゃんはいっしょでした。 ふたりとも杖をつき、ささえあっ…

砂のてがみ

 神さま  ぼくは不器用です  なんにもできず  ひとりぽっちで  時にながされ  もだえて…

俺はまばゆい庭を見た

俺の父は教師だった。 春樹という、いくらか頭の弱かったらしいかつての教え子から、鉛筆書き…

むーやんとたんぽぽの綿毛

なんにもない空の下で、むーやんはすっかり地球が好きになりました。 どちらを向いても花が笑っていたからです。 むーやんの宝ものは虹のよう。 遠い星からもってきた七色だけのクレヨンです。 どのお花の絵をかこう―― 花園に生きとし生けるものが咲いています。 あらゆるいのちの姿を借りて、惜しみない光をめぐんでいます。 そよふく風が運んできたのは、たんぽぽの綿毛です。 うつくしい驚きに打たれ、むーやんはひざまづきました。 心の目をとおして見るとき、だれもが気づくことでしょう。 たんぽぽ

でこぼこ道に光さすオネエ三人の自分語り

キアヌの松葉杖――マサヤ語るびっくりしてるヒマなんかないよ。 銃声が聞えたら、反射的に伏…

神さまのかくれんぼ

ぼくの人生がかわろうとしている。 高ぶるこの気持をどういったらいい? つぼみに向かって棒を…

星をひろう

鏡に黒いビニールをはりました。 荒れはてた部屋をうつす鏡に、これはお前の心の中さと、冷た…

あなたはわたしの愛に乗る

うれしいとき、ちいちゃんはほっぺをふくらますくせがあります。 はじめて会った時もそうでし…

いま、あなたがここにいる

小枝が運命をわけました。 戦場だった南の島へ、待ちわびた引揚船が日本から到着した朝のこと…

みかんのみんな

夜ふけの台所はふしぎの国。 ひるまはむっつり屋の野菜や果物が、ひそひそ、ざわざわ。 心を…

遠い歌を

めぐみ深い太陽の翼も届かない谷底でした。 そこに、紅しじみよりも小さな花がひとりぽっちで咲きました。 花はおぼえていなくても、谷の上の花畑を風がわたり、ちょうどはじけた種をさらって、深い深い影の底へ追い落としたとき、その運命はさだまったのです。 石のすきまから這いだすように芽ぶき、ささやかな葉をひろげ、かよわい光をただ天にもとめ、ようやくひらいた花は、あたりを見まわしました。 そして見わたすかぎり、照らし合う仲間のだれもいないことを知りました。 そこらじゅうの石ころはつめた