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読書log - 『魍魎の匣』(ネタバレあり)

お、面白かった・・・!
読み始めてから読み終えるまで、濃厚な2週間でした。

この先、完全にネタバレありです。
京極夏彦先生の作品は本作が初めて読んだ奴の感想です。





物語を読んでいる時の感想


-- 序盤、次々と移り変わる視点で疲れる
私が読んだのは分冊文庫版の(上)(中)(下)です。

最初の火車と魍魎の導入でかなりわくわくしました。そして始まる久保の小説。最初は誰か昔の人の視点の話だと思いました。気味の悪さがとてもよかったです。年末に読んだ八つ墓村を思い出させる、日本的な、日本人の心に心地よい導入だなと思います。
その後の頼子の百合的展開はどう思えばいいか戸惑いました。いえ、私は同性愛ものがめちゃくちゃ好物なのですが、如何せん唐突でどういう気持ちで読めばいいか分からず戸惑い、今思えば正しい反応だったのかもしれません(加菜子の方は普通の女の子だったのに、頼子が勝手に神聖視していたのが違和感だったのかもです。)
その後の木場の登場、関口の登場…私は前作を読んでいないので、前作の興味を引かれる書き方でしたが、なんとなく今でいうライトノベルを思わせる話の流れと登場人物像だなと思いました。私があまり一般小説のシリーズ物を読んでないからかもしれません。

-- 二度目の木場視点でようやくプロローグが終わる
謎が謎を呼ぶ展開ですが、各視点の人間関係、情緒、状況を把握するのにかなり疲れました。いよいよ、なぜ木場が巨大な"箱"にいたのかの説明が入ると物語が動き出すわくわくが出てきました。もうここまで来ると物語に入り込んで手が止まらない状態です。
各人物の謎の動きに違和感を持ちつつ、なんなのか分からないうちに加菜子が消えてしまう。そんな短時間で動けない加菜子を誘拐するなら、何か入れ物に入れないと無理だよなぁというのはこの時点でわかってはいましたが、まさかそんなに小さくなっているとは思わず、謎解きまで消えた謎はわからなかったです。
その後の、一体加菜子はどこに消えたのか、バラバラ事件の犯人は誰なのかで続きが気になってしょうがなかったです。

-- 京極堂からの指令で加速する謎に迫っていく
京極堂に関係者が集まっていく構図もかなり胸熱でした。木場がきた時は思わずガッツポーズです!常連の登場人物を絡ませるストーリーの流れ、伏線の張り方もかなり面白かったです。各キャラの個性が立っててとても良い!キャラ好きとしてはたまりませんねぇ。
京極堂の知識の垂れ流しも、『千年狐』の廣天のような気持ちの良い話で、難しくて全然覚えられなかったけど楽しく読めました。

話が進んでいくと違和感のある展開で大体真相は想像できましたが、謎解きが始まるまではまるで全貌は把握できず、わくわく感だけがずっと続いていて、とにかく読むのが楽しかったです。

-- 長い長い謎解きパート
全員集結した時に、ここから場面は変わらないだろうなというのは予測できました。そして残りのページ数を見て、長い長い謎解きの始まりを予見しました。ずっと、久保か加菜子かの身体がそこにある計器なのだと思わせる描写で気が気じゃありませんでした…。いや、そのゾワゾワが面白かったんです。加菜子の父親までは想像できても、最後の相思相愛だったのは度肝抜かれました。

登場人物について思うこと


-- 頼子親子
頼子については完全に厨二病、、私自身の過去に似ており恥ずかしく読んでいました。作中屈指の不幸キャラ君枝は最後は幸せになれたんでしょうか。
頼子を通しての御筥様の書き方はうまかったですね!御筥様の仕事風景、怪しさが存分に伝わりました。
頼子に訪れた通り物(魍魎)は、本当にやるかぁ?という感じでした。海岸の崖っぷちならまだわかるけど、駅のホームでかぁ。そこは共感できませんでしたが、そのほかは屈折した女子中学生としてよく描かれていたと思います。少し立ち回りが出来すぎてて頭良すぎるかなと思いますがw

-- 増岡
かなりいいキャラでしたね!私の持論で「最初の印象が悪い人ほど後で好きになる」というのがあるのですが、彼がまさにその通りで、好きなキャラです。
榎木津視点に入るまではかなり嫌なキャラ(木場視点)でしたが、彼が仕事で頑張っていることを知ってかなり同情しました。最後には良い聞き役になっちゃうし、陽子の弁護もしちゃうし、めっちゃ株を上げるキャラですね。
好きです。幸せになってください。

-- 木場
きばああああ!!!木場好きです。セリフがすごい好き。ぶっきらぼうなのに頭のいい言い返しだし、語彙力や例えがうまいし、読者の言ってほしいことを言ってくれている感じがたまりません。
「礼二郎!」って榎木津のことを呼んでましたが、木場しか読んでないので誰のことかわかりませんでしたw
最後のネタばらしで恋愛ネタが出てきましたが、それまでは木場のみラブロマンスしててめっちゃキュンキュンしてました。ありがとう。大好き。
みんなの愛されキャラ②ですね。
木場の恋の行方はどうなるのでしょうか。私は成就してほしいですが、陽子的には眼中にないかもしれないですね、、

-- 鳥口
お調子者の常識人枠。結局、彼は今回の事件で良いことあったのかなぁ?このネタが次のシリーズで取り入れられたりするんでしょうか?
「うへぇ」って口癖めっちゃいいですね。子分っぽいキャラなのに扇動力もあって憎めず可愛らしい。理解力も高いし、有能。万能キャラですね。
敦子との恋模様?も気になります!

-- 寺田(御筥様)
一番同情したキャラ。久保よりすごい人生を送っていると思う。本人にはどうしようもないという意味で。本作は親に呪詛の言葉をかけるキャラが多くいるけど、呪詛をかけられた側として一番子供のために頑張ったキャラだよね。
女手が欲しくて結婚したのに、嫁が鬱病になるなんて、、そして第二次世界大戦に巻き込まれ、人殺しを強要され、死にそうになり、帰ってきて無情な現実。そして御筥様となる一連の流れの虚無感。
さらに、寺田が作った箱がさまざまな場面で使われる因果。根が真面目で不器用な人が辿る末路としてあまりにも不幸、、
幸せになってください(切実)

-- 久保
本作のキーパーソン。前半の謎の視点がまさか久保の小説だとは思わず、わかった瞬間の衝撃はかなりのもの…本当にすごいです。
久保の小説が全て実際にあったことをベースにしているなど、、ほんと戦慄しました。とても良い…!久保の周りはほんと伏線の張り方、回収が見事でしたね。
ネグレクトよりひどい状況の幼少期、身寄りがいない地での差別・いじめに耐える少年期、親への復讐と箱に取りつかれていくが小説家として認められた青年期。雨宮にさえ会っていなければ人生の再スタートができたはずだったのに…狂うべくして狂ってしまったキャラだと思います。
最後の箱の中の視点は痛々しかったですね。凶悪犯は被害者と同じ目に遭う刑罰が良いという意見を聞くこともありますが、今回のはさらにひどい?(きっと久保は麻酔をかけられて四肢切断されているので、被害者の方が苦痛を感じているはず…にしても、永遠に続く苦痛は地獄)

-- 里村
直接登場したのは1回しかないのに、存在感が半端ない!キャラ的にすごい好きなキャラでした。常識人なのに一番狂ってていいですね。人受けの良さそうなキャラなのも良かったです。みんな信頼している感じも。

-- 榎木津
チートキャラ。ずるい。めっちゃ好き。本作では嫌いなキャラはいないんですがねw
チートゆえに説明不要で最短距離で人を救うことができる。救世主。本来超能力者はそうでないといけないのかもしれない。榎木津というキャラを京極堂がうまく使っているのが、とても良いです。
本人的にはその能力は煩わしいことばかりなんでしょうね。ですが生まれにも友人にも恵まれて人生イージーモードですね。愛嬌があるので甘やかされて育てばいいと思います。
死にたいと思っている人に対しても、好きにすればー?って対応がほんとに良い。下手に死ぬのは良くないと説得させるより毒気を抜かれていいですよねぇ。
榎木津が困る話があれば、ぜひ読みたいです。

-- 関口
本作の主人公は関口なのか、木場なのか?主人公などいないのかもしれません。
ワトソン役であることは間違い無いですね。物語を動かすキーパーソンでもあり、観測役であり、癒し枠でした。みんなに馬鹿にされてる愛されキャラ①!関口のダメな感じも可愛らしくて良かったです。(なんだかんだ京極堂から愛されてる感じも美味しかったです。ありがとうございます!)

-- 京極堂
うん、すごい。言わずもがな本作のシャーロックホームズ。
知らない知識あるのかな?この世の解明されていること全てを知っているのではないかという知識量。作者の知識量にも度肝抜かされます。
美馬坂と旧知の仲ってのはご都合主義感ありましたが、とにかく立ち回りがチートでしたね。知らなくていいことを知りすぎて消されそうなキャラ。
黒衣で人好きしなさそうなのに妻がいるってのもいい設定ですね。猫も。たまらん、猫。ありがとう、猫成分。
無愛想なキャラなのかと思えば、笑ったり怒ったり、意外に感情豊かなキャラ。それゆえに、悲しくなる人がいると思うとかなり感情移入してしまうんじゃないかな。
前述でも述べた通り、京極堂の話を読んでいるときは始終『千年狐』の廣天を思い出していました。廣天が好きなんです。いつか千年狐について語りたい…!!

-- 陽子親子
美馬坂、絹子、陽子、加菜子を全てこの項目にぶち込みました。この家族を取り巻く話が本作の根幹でしたね。
加菜子はきっと、両親がわからないけどちょっとませた普通の女の子だったんでしょうか。複雑な家庭に生まれて乳母(雨宮)に愛された屈折した女の子。箱の中の少女は久保と同じことを思っていたのでしょうか。
実の娘から呪詛を聞かされ続けたが逃げることのできなかった哀れな女性、絹子。自由にならない自分の身体と自分のために全てを捨てた最愛の人と屈折していく娘。きっと娘が夫のことを好きになっているのを気づいていた。自己嫌悪と家族が自分から離れていくことへの絶望。これこそ、生き地獄。
美馬坂は全く感情移入できないキャラでした。最後の陽子を愛してしまったってどういうこと…??結局現実逃避でしかないじゃないか。妻の面影を追いかけていたのが、娘に乗り移っただけだと思いました。
陽子は見かけや素質が美しいだけで周りを惑わせ、心の中は普通の、どちらかといえば醜かったなぁと思います。独りよがりで人間味があって憎めません。

-- 雨宮
雨宮が消えた理由、全然思いつきませんでした。でも、雨宮にとっても、加奈子にとっても、それが一番幸せだったと思います。なので、雨宮は感情移入できるキャラでした。その場に適用して幸せを見つけるのは私も得意です。

思わずうまいと唸ったこと


-- "ハコ"の外と中の使い方
箱と匣と筥、いろんな場面で揶揄される"ハコ"。バラバラの手足を入れる箱、人体という意味の箱、研究所の巨大な箱、研究所の中の計器が入っている箱、家を意味する箱、箱屋、御筥様…数えきれない箱の描写で、読んでる間は日常生活でも"ハコ"に反応するようになってしまいました。
解説で書かれていたように、箱の外と内側=隠と陽の意味での言い回しも多かったように思います。それぞれのキャラに外と内がありました。

頼子=御筥様信者のか弱い娘:加菜子の神格化(殺害、成り代わりたい)
君枝=愛欲に溺れる堕落した母:頼子だけは幸せにしたいという願い
増岡=高圧的で融通の効かないやつ:仕事に真面目でお人好し
木場=正義感のある無鉄砲な刑事:美波絹子への愛慕
寺田=カルトの教祖・御筥様:妻と息子への罪悪感と箱への執着
久保=新進気鋭の若手小説家:箱への執着・アダルトチルドレン
関口=状況分析の苦手なコミュ障:人の暗部に触れると感化されやすい
加菜子=孤高の美少女:友達が欲しい寂しがりの女の子
陽子=引退した大根役者の女優:自分の欲しいものを追い求める
絹子=病んだ寝たきりの母親:闘病の末、家族は崩壊
美馬坂=天才科学者:突き進むしかない
雨宮=向上心のない優男:異常な偏愛

鳥口、榎木津、京極堂は今回の話だと優等生でした。別の話では掘り下げ期待です。
「黒衣の陰陽師は白衣の科学者に向き直る」って言い回しほんとうにかっこよかったです!

-- キャラの書き分け
ここまで徹底的に口調が違う書き分け初めて読みました。まるで漫画でキャラを描き分けているようにセリフや挙動でキャラを書き分けていて、セリフひとつひとつがたまりません。特に木場が好きです。

-- 第二次世界大戦の戦前、戦後の描き方
あまりにも戦前と戦後のことが詳細に書かれているので、その時代に書かれた小説なのかと思ってしまいましたが、全然そんなことないんですね、びっくりです。私が生まれてから書かれているなんて・・・この時代に関する描写があまりにもリアルすぎて、本当に作者の造詣が深いことを痛感しました。最近軍物が好きなので、たまりません!

-- プロットのうまさ、作中作と伏線回収
本作で一番唸るのはやはりプロットでしょうか。たくさんの視点で同時進行でいろんな時間軸を体験し、あの伏線がここに生きる、あれは実はそういうことだった、のように目紛しい展開にただただ翻弄されました。
特に作中作とそれに添える手紙、その作中作に秘められた<秘密の解明>(使ってみたかっただけ)のまるでもう一つの謎解きはぞわぞわしました。
あの人とあの人がここで出会うのか!のような絡みのある群像劇が好きな私にはたまらない展開もよかったです。
いい小説は最後の1行が特に鳥肌になりますが、この本も最後の一文が痺れました。

まとめ


最近読んだ中で一番満足度が高く、読んでよかったなぁとしんみり思います。しんみりなのは、やはりオチがなんとなく漠然としなかったからでしょうか。あそこで美馬坂だけが死ぬのはなんとなくパッとしなかったです。エピローグの雨宮オチは良かったですが!
次は姑獲鳥の夏を読むか、別の作品にするか、楽しみはつきませんね〜!

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