見出し画像

令和7年「空飛ぶクルマ」実用化の誤解とエア・モビリティへの「希望」

令和7年に実用化する「空飛ぶクルマ」

石原さとみさんのサントリーのYouTubeが話題だ。#令和最初の乾杯とハッシュタグのついたこの動画、素晴らしい。

ところで、この動画の中で、「空飛ぶクルマ」実用化は令和7年とされている。実際のところどうなのだろう。動画の最後ではこんなディスクレーマーも表示される。

紹介した未来の事象は、各企業・機関の予測によるものです

経産省・国交省が主導し、大学や研究機関や企業が所属する「空の移動革命に向けた官民協議会」では、ロードマップ素案において事業開始目標を2023年としているし、これは2026年頃には大都市の上空を飛ぶエア・モビリティが社会実装し始めるというのは各国のコンセンサスでもあるので、令和7年には空飛ぶクルマが実用化してる未来感は必ずしも野心的というわけでもないし、とてもいいモデルだと思う。

「空飛ぶクルマ」実用化の誤解

しかーし、各社が出している空飛ぶクルマのCGイメージ図などは問題点も多い。よりよい未来を見せようと極度に美化されすぎていて、実現したときに幻滅を生むのではないかと考えるのだ。素人の私から見ても、誤解が多すぎる気がしている。それらは、1.騒音、2.風、3.認証の3つだ。

まず、第一の誤解は「空飛ぶクルマの騒音」だ。飛んでいるドローンの近くに近寄ったことがあるだろうか。結構な騒音がするのである。そのうるささは、大体撮影用の小型のドローンでも80デシベル、パチンコ屋の店内と同じくらい。もしくは、掃除機をかけている室内と同じくらいだと思えばわかりやすいだろうか。

そして、この音は車のようにエンジンから出ているのではなく、プロペラから出ている。プロペラが大きくなって先っぽのスピードが上がれば上がるほど音はうるさくなる。人が乗れるサイズの「空飛ぶクルマ」の騒音は爆音といってもよいくらいになるだろう。

自動車は昔に比べると静粛性が相当にアップした。これはエンジンルームに防音材を入れたり、居住空間の密閉性を高めたり、タイヤを工夫したりと様々な試行錯誤がされた結果である。しかし、地面を走る車と違い「空飛ぶクルマ」は重量の制限が大きい。飛ぶために極限まで軽くされなければいけないからだ。重くなればなるだけまた音も大きくなる。

だからこそ、「空飛ぶクルマ」が住宅に近接した場所で日常的に離着陸する可能性は極めて少ないといえるだろう。ましてや飛行中に室内でヘッドホンなしにしゃべるのは無理だといえる。

二番目の誤解は「巻き起こす風の問題」だ。特に地面に近いところを飛行している「空飛ぶクルマ」は機体を持ち上げる反動力を得るため、強烈なダウンウォッシュ(下向きの風)を生じるのだ。ヘリコプターの場合、これは大型の台風ほどにもなる。「空飛ぶクルマ」においても同様のダウンウォッシュが起こると想像できる。

そうなると、「空飛ぶクルマ」が空港やヘリポートのように整備されていない場所からいきなり飛び立つことがいかに危険かわかるだろう。小石は吹き飛び凶器となり、人を傷つけ窓ガラスを割る。それだけでなく、「空飛ぶクルマ」自身にも跳ね返ってきてプロペラを傷つければ、事故を起こす可能性は上がる。

この問題は最初の騒音の問題と相まって、住宅近接地では離着陸しない大きな理由となる。しかし、ヘリコプターを見てもわかるが、相当の高度まで達すれば、この騒音もダウンウォッシュも気にならないレベルにはなる。都市部で「空飛ぶクルマ」が飛ぶとすれば、専用のポートやビルの屋上などから飛び立つ形が想定されるだろう。

そして、最後であり最大の誤解は「認証の問題」だ。今の自動車がいかに厳しい型式の認証を得て量産化にたどり着いているかを見ればその難しさが分かる。型式の認証を取るには安全性、環境対応性、燃費基準はもとより、生産体制や部品一つ一つの耐久性に至るまでこと細やかに規定されており全てをクリアする必要があるのである。

さらに、これが空を飛ぶ物体になると、難易度は数段上がる。(不正が発覚しまくっている)自動車業界ですら経験のしたことのない厳しい認証が求められるようになるのだ。三菱重工が国産ジェットMRJの認証取得でどれだけ苦しんでいることか、日本国内にはそのノウハウすら限られているのだ。

そもそも、航空機の認証を得るためには、相当量の飛行テストや耐久テストが必要になる。つまり、「飛べるようにするために飛ばす」ための場所や規制緩和措置が必要になるのだが、国土の狭い日本ではそのための場所は今のところないのが実情だ。そのために海外に出て行ってしまう企業も増えるだろう。(ちなみに私の関連している会社はアラスカに直径500kmにおよぶドローンのテストレンジを準備している。)
https://dronetribune.jp/articles/15265/

そして、認証取得の努力はコストに反映する。つまり機体を製造するコストは単に材料費と組立費では計算できない費用が大半になるのだ。米国の航空業界に詳しい知人によると、航空機の場合は製造コストの7割~8割が認証を取得するためのコストとなる。つまり、大体3千万円で機体が作れたとしても、認証を含めた製造コストは1億円を超える。

つまり、「空飛ぶクルマ」の安全性を確保するということにかかる膨大なコストはいわゆるダーウィンの海の戦い(他の手段との闘い)における最大のネックになる。例えば、空飛ぶクルマは離島輸送などに想像されてはいるが、その膨大なコストを考えた場合スピードボートとの闘いには到底勝てないのだ。下手をすると100倍近いコストのデメリットとなる。

以上を考えると、令和7年に「空飛ぶクルマ」は実現しているだろうが、大都市圏であるかどうかは甚だ疑問である。その辺の検証をすっ飛ばして必要以上に大きい夢を描いてしまうのは失望も大きくなるので危険だ。それを分かってか、経産省のプロモーション動画ではどちらかというと大都市よりも山岳地帯での緊急用の利用という想定が打ち出されており、他の企業の動画よりも現実的な路線であるといえるだろう。

エア・モビリティへの希望ー3つのキーワード

これを基軸に現実的に「空飛ぶクルマ」つまり次世代エア・モビリティへの希望がどこにあるのかを考えると、3つのキーワードが浮かび上がる。それは、1.防衛(軍備)、2.富裕層、そして3.スーパーシティである。

一つ目の防衛(軍備)におけるエア・モビリティの利用は容易に想像が可能だ。上に挙げた3つの誤解も防衛装備に関してはほとんど関係ないからである。そしてメリットは計り知れなく大きい。例えばエア・モビリティは数十キロ先の遠洋にいる護衛艦の上に緊急物資や人を輸送することができる。

大地震などの災害時や戦闘地域等には物を運んだり救助をしたりということが可能だ。大容量のバッテリーや発電機を積む機体は着陸させればエネルギー源としても利用できる。偵察機などとしても利用は可能だろう。

そして、防衛用で使われる利点はもう一つある。前述の通りエア・モビリティの認証取得には「飛べるようになるために飛ばす」必要があるのだが、その実験を防衛用途でできるのは大きい。アメリカでは国防省が予算をつけて実験を行い、その実績を元に民間の認証を取得している航空機も多いのだ。

次に可能性のあるのが富裕層向けエア・モビリティだ。実は空の移動革命に関わらず、あらゆるところで移動革命が今起きている。特に自動車のMaaS(マーズ)と呼ばれるような領域では、自動運転化、シェアリング・エコノミーの台頭により激動にさらされることが予測される。

つまり、一般の移動は限りなく効率化しデジタル化し無償化するのだ。これが地上レベルで起きているときに、わざわざ高コストを払ってエア・モビリティに乗ろうとする人がどれだけいるだろうか。

実はこの解の一つはポルシェが着々と打っている先手にあると思っている。ポルシェは来るべき時代、人間が運転しなくてもよくなる時代を見据え、それでも運転をしたい人が集まれる場所を世界各地に作っている。それがポルシェ・エクスペリエンスセンターであり、日本でも木更津に2021年にオープンすることが発表されている。

これからの時代、人間は移動手段として車を購入することはなくなるのだ。必要な時に必要なだけ使うのだ。たとえてみると、かつては水を井戸からくみ上げるのが朝の日課だった。しかし、インフラが整備され蛇口をひねれば水が出るようになり、使った分だけ払えばよくなった。移動に関してもこれと同じことが起きるのだ。

しかし、蛇口をひねれば水が飲める時代にも高級なペリエを買って飲む人はいる。ポルシェは明らかにそのような場所を提供しに行っているのだ。このエクスペリエンスセンターに行けば、代金を払ってポルシェを借り、さまざまな運転体験をすることができる。さしずめポルシェのテーマパークだ。

これはエア・モビリティにも展開されるビジネスモデルだ。エア・モビリティに乗りたい富裕層や家族連れなどが、郊外にあるエア・モビリティ・パークに行って空中レースや空中遊覧を楽しむのだ。そこには各メーカーの機体が置いてあり、料金を払って利用するのだ。そのような場所が日本にもできるだろうし、北米の国立公園などは丸ごとエア・モビリティ・パーク化してしまうかもしれない。

移動が限りなくデジタル化した時代、空中をエア・モビリティでドライブすることは限りなく贅沢な遊びということになる。しかし、ポルシェを求める人たち同様、相当の人がそこに足を向けるだろう。ディズニーランドが人があふれるのと同じ現象だ。

そして、最後にして一番大きい希望は都市を丸ごとエア・モビリティに対応したスーパーシティにしてしまうというという構想だ。

実は世界中で都市一極集中が進んでいる。既存の都市は人口過密状態にあり、中国やインドでは今現在でも100以上の新たな都市がゼロから建設されているのである。これらの都市は、最初からエア・モビリティを想定した都市設計を行うことが可能だ。エア・モビリティの離発着場を整備しそこまでのルートを整備する、エア・モビリティが自由に飛べる空の幹線網を作る等々だ。

古い都市では既存のインフラや居住空間設計などが邪魔になりエア・モビリティが普及しないのに対し、ゼロから作られるこれらの都市では、エア・モビリティがバカ売れするだろう。まさに未来都市が実現するのだ。

実は日本でもスーパーシティを構想する計画がある。今年には候補地が発表される予定だ。実は日本の地方を見てみれば廃漁港や廃校などエア・モビリティの拠点になりそうな場所は無数にあるのだ。このような場所がスーパーシティに選ばれれば、エア・モビリティの利用が想定された都市設計が行われるのだろう。

令和の時代、エア・モビリティにも様々な展開があるだろう。それはエア・モビリティ単体の進化ではなく、社会全体の進化であるはずである。

楽しみだ。そして頑張れチーム・テトラ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?