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50 そして、ついに、世界は戻った

朝 目が覚めたとき、なんとなく違和感を感じた。あの日感じた違和感と同じだ。でも今日は、あの日と同じ日なんだ。

一輝の父「おはよう一輝。今日から高校生だな!3年間だけの高校生活、思いっきり楽しめよ!」
一輝「…!…おはよう。まあ楽しむよ。」
一輝の父「今日入学式終わったら、俺いつもの人とまた会ってくるから。」
一輝「…うん、頑張って。」

家を出て、見慣れた通学路を歩く。すると、見慣れた顔が現れた。

誠慈「一輝じゃん、おはよ。」
一輝「おはよ。」

一輝「…ついに俺らも高校生だな!」
誠慈「だな。」
一輝「…やりたいこと、いっぱいあるな。」
誠慈「だな。例えば何やりたい?」
一輝「そうだなー…。」

一輝「…中学んときは男とふざけてばっかだったし…やっぱまずは彼女、欲しい、な…?」

誠慈「…。」

誠慈「そうだよな!やっぱ彼女だよな!」

一輝「あ、ああ、そうだよな!」

良かった。本当に元の世界に戻ってきたんだ。異性愛が多数派の、元の世界に。

どうやら流れはあの日と同じみたいだ。入学式が終わった後は父さんと銘板の前で写真を撮り、家で昼ごはんを食べた。

テレビでは男女の芸能人の結婚報道がされていた。しばらくすると、予想通り父さんが帰ってきた。

何故だかドキドキしながら玄関に行くと、父さんの姿が目に入った。そしてその後ろにいたのは、女の人だった。

一輝の父「実はな、そろそろお前に会いたいって言うから急遽連れてきたんだ。ああ、紹介するよ。この人が俺の彼女の、知美だ。」

知美「はじめまして、一輝くん。竜一さんとお付き合いさせてもらってる知美です。よろしくね。」
一輝「あ…はい…。」

どうした。父さんの交際相手が女性に戻ったんだぞ。安心するはずのところなのに何で心が痛いんだ。

そうか…俺は大輔さんのことが親としても人としても好きだったんだ。だから別の人に変わってしまって辛いんだ。

最初は大輔さんの存在が辛かったのに、こんなにも変わるなんて。いや、知美さんに失礼なのは分かってるし、父さんと付き合って結婚するのは知美さんがいい。でも、大輔さんに会いたい。

大輔さん…どこに行っちゃったんだろう。あれだけ俺を精神的に支えてくれた大輔さんが、もういない。完全に存在が消えたのか、どこかで生きているのか。確かめる術もない。

その日を境に、俺の記憶にない出来事も起こるようになった。大輔さんが知美さんに戻ったという大きな変化を俺がこの目で認識したことがきっかけになって、世界線がズレ始めたのか。

〜〜〜〜〜

次の日、登校して席に着いた。すると、隣のやつが話しかけてきた。

俊「おはよう。俺、俊。よろしくな!」

そうだ、俊は全部忘れてるんだよな。それはちょっと寂しいけど…。またもう一回関係を作っていけばいいんだ。そしたら前と同じ、いや、それ以上の仲になっていくはずだ。

一輝「おう、俺一輝。よろしくな!」

〜〜〜〜〜

ある夜、俺は1人で家にいた。父さんはバーで飲んで帰ると言っていた。いつものバーでいつもの飲み友達と飲むんだろう。

なかなか帰って来なかった。すると、家の外から父さんの声がして、インターホンが鳴った。

父さん酔っ払ってるな。他の男の人の声もする。介抱してもらって来たのか。申し訳ない。

そう思って玄関を開けた。すると、そこで父さんの肩を持っていたのは…。

まぎれもない大輔さんだった。


一輝「え…。」

大輔「やあこんばんは。君のお父さん酔っ払っちゃって…。」
一輝「大輔さん!!!」
大輔「え、何で僕のことを…。」

そうか、いつもの飲み友達って…父さんと知美さんの共通の飲み友達の男の人って…大輔さんだったんだ。知美さんと入れ替わってたんだ!

すごく嬉しかった。嬉しすぎて…。

一輝「う…やべ…涙が…。」
大輔「え?え?何で泣いてるの?」
一輝「う…大輔さ〜ん…。」
一輝の父「一輝〜おら泣くな〜元気出せよ〜。」
一輝「良かった〜…。」
一輝の父「おらおら〜。」
一輝「うう〜…。」
大輔「ちょ、ちょっと、どうしたらいいの〜。」

〜〜〜〜〜

健太郎「ホントに元の世界に戻ったんだな…。」
京平「ていうか、あの世界に俺らはいたんだな…。」

岳「はあ、やっと終わったよ、あのしんどい世界。…でもまあ、逆に今この世界でそう思ってるやつもいっぱいいるってことなんだよな。」
一輝「だな…だからもう俺らはいじめとかしねえよな。」

健太郎「なんか、協力とかした方がいいのかな。またあの世界に行かされたら俺もう無理だよ。」

一輝「それは…無理にしなくてもいいんじゃね?陽平もそんなことは言ってなかったし。そういう人らの気持ちを分かってあげてれば。なあ、道彰?」

道彰「そうだな。俺みたいなやつがもう現れないようになっていってほしいな。」

〜〜〜〜〜

ある日、下校中になんとなく寄り道した繁華街で、前から見覚えのある女が歩いてきた。

夢花だった。

向こうは全部忘れている。だからあんまり顔を見ると良くない。だけど目を離せなかった。一瞬目が合ってしまって、やっと目を逸らした。

お互い何を言うでもなく、ただすれ違った。夢花もこの街で元気に過ごしてるんだ。それが知れただけでも良かった。いつかまた知り合うときが来るかもしれない。

〜〜〜〜〜

ある日の朝、登校して靴を履き替えているときに有希さんと会った。

有希「一輝くん、おはよ。」
一輝「ああ、おはよう。」

有希「元の世界に戻ったけど、話してるときは向こうの世界の思い出ばっかりになっちゃうね。」
一輝「そうだな。やっぱりその繋がりで話すようになったしな。」

有希「2人でこう話してると、周りから見たらカップルに見えるんだろうね。」
一輝「ああ、そうかもな。実際は違うどころか、有希さんは女が好きなのに。見た目だけで決めつけてるんだよ、みんな。」

有希「だね。でもそういうところに気付けるようになったんだし、良かったんじゃない、あの世界も。」
一輝「まあ、元の世界に戻って来れたからこそ、そう思えるんだけどな。」

教室のドアを開けると、何やら不穏な声が聞こえてきた。

同級生A「なあ、なんか雫ってキモいよな。」
同級生B「だよな。女みたいな見た目してるしナヨナヨしてるし。あいつオカマじゃね?」

雫「そ、そんなこと言わないでよ…。」

一輝「お前らさ。」

悪口を言っているやつらの肩に手を置いて、俺は言った。

一輝「やめようぜ。そういうこと言うの。」



ー完ー

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