35 束の間

男である雫と付き合えば、今からでも俺がゲイだって周りに思わせられるんじゃないか。それで挽回出来ないか…。

いや、さすがにそれはダメだ。それは雫に失礼すぎる。それにさっき男とは付き合えないって思ったばかりだろ。落ち着け俺…。

雫「か、一輝くん…。いいの?キスしちゃって…。」
一輝「ああ、いいよ、キスぐらい。雫、女の子みたいでかわいいし。でもキスまでな。それ以上はごめん。」
雫「全然…。もう、十分すぎ…。」

雫はそう言うと俺の胸に倒れ込んできた。ホントに俺のこと好きなんだな。…雫は大切にしないと。俺の数少ない味方だ。

雫「…あのさ、いじめられてること、大人の人に相談しないの?警察とかも動いてくれるんじゃない?」

一輝「警察、か…。だけど、それをすると俺がノンケだって結局広まると思うんだ。いろんな人に言わないといけなくなるし。それに俺自身で解決したいから、言わないよ。だから雫も言わないでほしい。」

雫「そうなんだ…。」

別れようとしたとき、雫から告げられた。

雫「あの、実は隠してたことがあって…。」
一輝「ん、なに?」
雫「一輝くんに告白したの、僕だけの力じゃなかったというか…。」
一輝「どういうこと?」

雫「あの、亮佑くんっているじゃん?あの人に、雫、一輝のこと好きだろ、一輝も絶対お前のこと好きだから告っちゃえよ、みたいに言われて。それが後押しになったんだ。」

一輝「亮佑?ああ、クラスにいるな。でもなんでそいつが。」
雫「懇親旅行の夜に言ってたの聞いてそう感じたって言ってた。」

亮佑…?全然絡んだこともないのに、なんなんだあいつは。なんで俺に関わってくんだ。そういや俊に話しかけようとしたときに蹴ってきたの亮佑だったな。

待てよ、亮佑って誠慈と同じグループだったよな…。なんかあるんじゃないかこれは。

雫「あ、これホントは一輝くんには内緒って言われたから、言わないでね…。」
一輝「あ、ああ。分かった。」

亮佑に問いただそうかと思ったけど、それをしたら確実に雫が俺にバラしたってバレるよな。雫のためにも、亮佑には何も聞けないか…。

〜〜〜〜〜

俺が帰宅してしばらくして、父さんが帰ってきた。大輔さんも一緒だった。玄関を開けるや否や、父さんはすごい声で俺を呼んだ。

一輝の父「一輝!これどういうことだ!」
大輔「竜一くん、そんな怒らないで!」

瞬間的に状況を把握した。速攻で部屋からリビングに向かった。

やらかした。最近毎日ポストは確認するようにしてたのに。今日は雫のことで頭がいっぱいで忘れてた。上手いこと今日、誰かが入れたんだ。道彰のときみたいに俺がノンケだってチクる紙かなにかを。

一輝の父「一輝、お前…なんだこれは!」

父さんが手にしていたものは、写真だった。そこにはなんと、俺がエルジーランドであの女の人とキスをしている様子が写っていた。

一輝「え、なんでそれが…。」
一輝の父「やっぱりそうなんだな…!」
一輝「あ、いや…。」
大輔「竜一くん落ち着いて!ちょっとゆっくり話そう!」

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