36 親としての葛藤

リビングに3人座って、家族会議が始まった。

一輝の父「これは…お前だよな。」

写真の男を指差して父さんが言う。

一輝「うん。」

もう誤魔化すことは出来ないので、正直に答える。

一輝の父「この女は誰だ?」
一輝「知らない。旅行中に偶然知り合って、急にいなくなった。」
大輔「どういう状況だったのそれ。」

俺はエルジーランドで起こったことを全て2人に話した。そして俺がノンケだということも。

一輝の父「…そうか、一輝が…そういう…やつだったんだな。」

父さんはすごくショックを受けているようだった。以前、俺がノンケだったら、なんて例え話をしてたけど、まさかそれが事実だったなんて思ってなかっただろう。

大輔「ありがとう、話してくれて。自分がそうだと気付いたのはいつ頃からなの?」

いつ頃…?入学式の日からだけど、それまでもノンケではあったから…。
でも世界が変わったってことまではさすがに言えないし…。言ったら頭おかしい認定されるだろうな。

一輝「高校入ってすぐぐらい…。」
大輔「それまでは男の子が好きだったの?あんまり恋愛自体そんな意識してなかった?」
一輝「いや…うん、そんなに…。」

俺もよく分かってないから上手く答えられない。

大輔「これをウチのポストに入れた人に心当たりは?」
一輝「…もしかしたらってヤツはいるんだけど…でも今クラス中にバレてていじめられてる感じだから…。」

大輔「そんなことになってたの!?大丈夫?無理してるんじゃ。」
一輝「いや、大丈夫。みんながみんな敵ってわけでもないし、ここで負けてられないから。」

大輔「ホント?…絶対無理しないでね!」

後半は父さんは終始無言で、家族会議は終わった。

その夜、俺はまたトイレに行くときに2人の会話を聞いてしまった。

一輝の父「今までテレビのニュースとか見てても他人事でさ。大してなんも深く考えてなかったんだよ。そしたら一輝がノンケってさ…。差別とかが良くないのは分かってるけど、実の息子ってなるとやっぱ受け入れられねえよ…。う、う…。」

父さんは俺を受け入れようとしてくれているんだ。もっと、気持ち悪いとか突き放すようなことを言われるのかと思ってたけど、意外とそうでもなかった。多分前に大輔さんに諭されたりしてたからかな。

大輔さんがいてくれて本当にありがたいし、父さんもはなから見捨てたりしないでいてくれてる。道彰のことを知っているから、それと比べたら本当にありがたい話だ。感謝しなきゃいけないのは分かってる。

でも…父さんにそんな風に言われるのは辛い。自分が自分であることでこんなに苦しまれて、泣かれるなんて。あ、そうなんだ、ではやっぱり済まないんだな。今までと俺は何も変わってないのに。サラッと受け入れてほしい。

一輝の父「やっぱ片親でずっと育ててきて、あんまり向き合ってやれなかったからなのかな。高校から急に道を踏み外したなんてさ…。」

大輔「それは違うよ!竜一くんは絶対一輝くんを立派に育ててきたよ!片親とか関係ない。それに、ノンケは悪いことじゃないよ。そういう言い方しないであげてほしい。」

これからは俺も、父さんにいろいろ説明していかないといけないのかもな。ゆっくり時間をかけて慣れていってもらうしかない。

今日もあの夜のように、トイレは流さずに部屋に戻った。

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